戦いの結末
リンダやライナスといった面々が、ギリギリでの逆転大勝利を納めているのに対して、リュートと赤髪の魔人の戦いは、リュート側のワンサイドゲームであった。
「どの道俺はお前を殺すんだ、もう諦めたらどうだ?そっちの方が楽に死ねると思うぞ?」
かつての温厚さはどこに行ったのか。そんな鬼畜な提案をしているのは、翼を広げて飛翔しているリュートである。
そしてそんな提案をされたのが、今回の騒動の原因である赤髪の魔人であった。
その体はボロボロであり、何度も痛めつけられたであろうことが、簡単に見て取れる。
尤もリュートが手を抜いているわけでは無い。件の魔人も彼と同じく尋常ではない生命力を誇るのだ。
「ふざけるな!!俺はまだまだやれる、大口叩けるのも今のうちだッ!!」
だがそんな提案が受け入れられるはずもなく、赤髪の魔人はリュートの腹目掛けて拳を叩き込む。
しかしあまりにも単調すぎた。何の変化もない直線攻撃は、リュートの特質能力の敵ではないのだ。
リュートは自身の能力”創造者”の権能をもって、魔結晶を盾へと変化させた。
そしてその盾に打ち込まれる魔人の拳、その一撃は盾を粉々に破壊したものの、リュートの体に届くことはなかった。
そしてそれすらもリュートは反撃の手段に転じられる。ばらばらに砕けた盾の破片、リュートはその破片を結合させ、小型のナイフを創造する。
そしてそのナイフを魔人の首筋に振るった。
風音を立てながら振るわれたそれ、だがさすがは魔人というべきか、その動きを完全に見切り、紙一重の回避を見せる。
だがリュートの攻撃はそれで終わりではなかった。
魔結晶で作られたナイフ、それを再び別の物質に作り替えるリュート。
多少の魔素も加えて出来上がったのは超巨大なハンマー。
「大地の染みとなれッ!!」
そう言ってそれをブンッ!!と音を立ててぶん回す。
だがナイフによる一撃に比べるとあまりにも遅かった。
幾ら大きかろうが遅ければ当たるはずがない、赤髪の魔人はにやりと笑いその一撃を回避する。
否、しようとした。
体が動かないのである。
恐怖と焦りを感じながら周囲を見渡す魔人、そして気が付いた。
浮遊している自分の足に極細の糸が絡まっていることに。その出どころは足元に群がる住宅から、激しい戦闘のさなかにリュートが細工を施していたのだ。
『ばっ、馬鹿な?!この俺の察知を掻い潜っていつの間に?!いや、今はそれよりもこの糸を何とかしなければ!!』
必死にもがく魔人だったが、そう簡単には千切れない。
その糸は魔結晶でできており、その密度も半端なものではなかったのだ。
「クソがッ!!」
眼前に迫る巨大な槌、もはや回避は不可能と悟りこれから来る衝撃に備える。
そして槌が叩き付けられた。
まるで地震のような振動と、隕石でも落ちたかのような衝撃が、北東部に響き渡った。
本来であればリュートが厄災扱いされそうな事案だが、今回の場合は事前に許可が下りていた。
壊れたなら直せばいい。ついでに北東部の人々が建築学習するのにいい練習台になるだろう、と考えているあたり、ギルレオン王族は肝が据わっているのである。
そんな一撃を一身に食らった赤髪の魔人。
当然無事なわけもなく、文字通り地面のシミとなっていた。
だがしかし頭だけは死ぬ気で守り切り無事である。
頭さえあれば魔人の能力をもって、再び五体満足の体に再生できるのだ。
「貴様、よくもやってくれたな」
だがしかし、魔人の残存魔素はほとんどなく完全に傷を癒すことは不可能だった。一応全身の再生は出来たが痛々しい傷は残っている。
だが激しい怨嗟の前に傷の痛みは関係ない。目をカッっと開き、リュートをにらむ魔人。
しかしどういう訳か彼の顔を見た瞬間に、口角を釣り上げて嘲笑を始めた。
「フフフ、フハハハハ!!お前は本当に馬鹿な奴だよ、俺をここまで追い込んだのはお前が初めてだ。だけどお前は俺に挑んでしまった。全く、本当にぃ!!馬鹿な奴だよなぁ!!」
「くだらない御託はいい。お前は何が言いたい?簡潔に言え」
「いいだろう。実は俺は魔法のほうが得意なんだ。生き物を殺す感覚を味わいたいがために、今まで使ってこなかった。だがしかしィ!!お前を殺すためには魔法を使わないといけない、光栄に思いながら死ねッ!!」
そう叫んだ魔人。彼の周囲の大地がぐらぐらと揺らめき始める。
発動した魔法は、土魔法最上位、天地崩壊。
魔人の周囲には、あまりにも狂暴過ぎるそれを制御するため、巨大な魔法陣が浮かんでいる。
彼の膨大な魔素によってその魔法が発動したなら、北東部はおろかギルレオン全域が跡形もなく砕け散るだろう。
止める術はない。一度発動した魔法は、術者を殺しても阻止することは出来ないのだ。
そして今、そんな魔法が発動しようとしている。
だがそれを見たリュートに、特段焦った様子は見られなかった。
落ち着き払った様子で、出現した魔法陣に手を触れる。そしてとある権能を解放した。
「壊せ、破壊者」
・
・
・
「うぐっ、貴様ッ!!」
大地に蹲っているのは、魔素暴走に巻き込まれ半身を失った、赤髪の魔人。
リュートは、魔人が魔法を発動したことによって出現した魔法陣に、破壊者の権能、”破壊身”を使って、意図的に魔素暴走を引き起こしたのである。
ちなみにリュートのほうは無傷である。
魔結晶により、即席の防壁を作っていたのだ。そして市街地の方にもあまり被害が及ばない様魔法で手を打っていた。
これにより勝敗は決したようなものだった。
リュートが無傷なのに対し、赤髪の魔人は立ち上がれないほどの重傷。
ここからの逆転の術などあるはずがない。
だがそれでも赤髪の魔人は煽り続ける。
「フハハハハ、やはりお前は俺よりも弱い。弱すぎるぞッ!!」
「まだ、そんなことを言っているのか?」
「あぁそうさ、俺にはまだ奥の手がある!!食らえッ!!」
そして再び魔人が動き出す。
その体から眩い光があふれ、魔素が少しづつ流れ出る。
ただしつい先ほどのように、魔法陣は出現しない。
何をしたいのかわからない。少しばかりの不安に駆られ、つい先ほど以上に集中し始めるリュート。
そして魔人の切り札が発動する。
眩い光が更に強く輝き始め、ボンッ!!と轟音を伴う爆発を起こしたのだ。
規模だけは大きい。だがしかし、リュートの体には何の痛みも走らなかったし街にも一切の被害は出ていない。
「お前、一体何をした?」
「フハハ、じきにわかるさ」
「お前は何を言って・・・」
その言葉が最後まで紡がれることはなかった。
会話の最中に、ギルレオン全域を覆っていた巨大な障壁が、パリンッ!!という音を立てて砕け散ったのである。
「お前はッ!!」
「フハハハハ、あの結界は外からの力の遮断には滅法強いが、一度入ったものを排斥する力はすこぶる弱いんだろう?だからお前が俺の体を吹き飛ばした時に、あの魔法の出どころへ俺の体の破片を飛ばしたのさ。魔法は俺が直接命令しないと扱えない、だが能力なら扱える。俺の”死毒”はあらゆる生物を死滅させる凶暴な毒だ。あの銀髪の小娘、早く助けに行かないと死んじまうかもなぁ!!」
「あぁ行くとするよ。お前を殺した直ぐ後になッ!!」
そう言って剣を作り出し、魔人に突き立てるリュート。
その剣はリュートの怒りの念に呼応して、普段以上に強靭で鋭利なものとなっており、魔人の命は絶たれたかのように思われた。
「残念だが今回は俺の負けだ。だが次こそは必ずこの町を血の海にしてやろう。フハハ、フハハハハ!!」
しかしリュートの耳に聞こえてきたのはそんな嘲笑だった。
魔人は目くらましの閃光を放った際に、精神体を包み込めるぎりぎりのサイズの肉片を、爆発によって離脱させていたのだ。
だが今のリュートにそんなことを検証する時間など与えられていなかった。
魔人の言っていたことは真実であろう、そして銀髪の小娘というのはおそらく・・・。
必ずや助け出さなければならない。リュートは全速力で天空を飛翔するのだった。




