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とある魔王の無双譚  作者: azl
魔人との激闘
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立ち上がる者

 右の手で剣を構え、その剣先を男性型の肉塊に向けるリンダ。

 まさしく武人の如き雰囲気。騎士軍一位の実力は半端なものではないのだ。


 リンダは今、重圧な鎧を身にまとい、非常に重い盾を左手に構えている。

 しかしそのことを感じさせない俊敏な動きで肉塊の懐に潜り込む。

 そしてそのまま肉塊の右腕に全力の剣戟を振り下ろした。


 しかしその刃は肉塊の皮膚にめり込むだけの結果となった。

 肥大化した右腕は以前よりもさらに強度を増し、鋼鉄とは比べ物にならないほどの硬度をほこるのだ。


 その異常なまでの硬度の右腕が、リンダの脳天に振るわれた。


 ドンっ!!という鈍い音を立て、リンダの盾と肉塊の拳がぶつかり合う。

 その衝突の衝撃で、盾の表面が欠け、リンダの踏み込む地面が少しづつ沈んでいく。

 彼の体にかかる負担も半端なものではない、だがそれを押し殺し必死で耐えている。


 そして耐え忍ぶことしばし、反撃の時は訪れる。

 肉塊の力が少し弱まったのだ。そんな絶好のチャンスを見逃さなかったリンダ。

 全力の一撃を肉塊の足に叩きこむ。


 振るわれた刃は肉塊の足に深々とめり込み始めた。そしてそのまま振り払い、肉塊の左足を吹き飛ばす事に成功する。


 だが反撃の時間はこれで終了だった。

 

 肉塊が再び右腕を振り上げたのである。

 左足の有無など関係なく、恐ろしい精度で放たれた一撃はリンダの盾によって止められたものの、その盾の限界が迫りつつあった。

 表面にひびが入り、徐々に欠けていく。

 まるでリンダの命の灯を示すかのように、ゆっくりと盾の表面が削られていった。

 彼は必死にその一撃をこらえている、だがしかし終わりの時というものは、実にあっけなく訪れる。


 振るわれた拳を必死に抑えていた盾、しかしそれもとうとうこらえきれなくなり砕け散ってしまったのだ。

 そして振るわれる豪腕、リンダは自分の肉体でもってどうにか堪えようとした。

 しかしそれすらも敵わず、ドンッ!!という音ともに、叩き付けられた拳の下敷きとなってしまう。


「うぐっ、まずい、な」


 必死にもがくが体がうまく動かない。

 リンダの体は拳によって押さえつけられており、死なない様押し返すので精いっぱい。抜け出せるほどの力など残っていない。

 リンダの体はもはやボロボロであり、立ち上がるほど困難な状況なのだ。


 そんな中、無慈悲にも肉塊が再び右腕を振り上げる。

 その腕は先程よりもさらに膨張しており、リンダを殺すことなど簡単にできるだろう。

 それを察知したところで体の自由が利かないリンダには、もはやどうしようもなかった。



 リンダが老いてもなお戦い続ける理由は、祖国への誇りだけではない。

 そのもう一つの理由はリンダの妻、クロエ・カルガスへの罪悪感だった。


 彼は平民出身である。

 カルガスという苗字は、彼が婿入りした時にもらったものである。


 かつての彼は野心家だった。

 金、地位、名誉、それらすべてを手に入れるために体を鍛え、ギルレオン騎士軍に入隊したのだ。

 ギルレオン騎士軍の軍長クラスにたどり着ければ、それこそ貴族クラスの待遇がされることだろう。

 彼の目的と、素晴らしいまでに一致していたのである。


 そして少しの月日は流れ、彼は史上最年少でギルレオン軍長の座に上り詰めた。

 そんな彼は幸せの絶頂にいた、金も手に入り、名誉も手に入ったのである。

 後の残りである地位も、山ほど舞い込んでくる貴族からの縁談を飲み込めば、簡単に得ることが出来る。


 ただしそう簡単に揺らぐような地盤では駄目だ。

 ギルレオン三大貴族に婿入りしても、その権力を十分に振るうことは出来ない。

 彼らにはすでに跡取りがおり、任されたとしても分家どまりであろう。


 それに彼は書類仕事が得意ではなかった。

 可能な限りを妻に任せ、自分は騎士軍長の座の防衛に全うしたい。


 そういった考えを張り巡らせ、選んだのがカルガス家だった。


 カルガス家はギルレオン城下町に鍛冶屋を構えている、中央付近の中貴族である。

 ただしその影響力はかなりのもので、ギルレオン三大貴族に匹敵するレベルであった。


 その理由はカルガス家が生み出す武具にある。

 カルガス家が生産する武具はかなり良質な性能であり、ギルレオン王国が国庫を使って買い取るほどのもの。それ故、総資産が非常に多く、国とのつながりも非常に強い。周囲の大貴族が一目置く存在だった。


 そんな家に婿入りしたリンダ。

 その頃の彼はその瞳を野心でギラギラと輝かせていただろう。


 かつての彼はただの欲望の化身であった。

 だがそんな彼を迎え入れてくれたのは、欲とはまるで無縁な心優しいカルガス家の人たちであった。


 中でも彼の妻となった女性、クロエ・カルガスはどんな時も彼のそばにいてくれた。

 そんな彼女がリンダの心を大きく変えたのである。


 彼には地位や金、名誉以上に大切なものが出来てしまったのだ。

 しかしこれが良いことなのか、はたまた悪いことなのかは、誰にも推し量ることは出来ない。


 仮に彼女と出会わなかったのなら、リンダはこの場で死にかけていないだろう。

 一生を遊んで暮らせるだけの金は手に入っていたのだ、わざわざ騎士軍長であり続ける必要はなかったのである。


 しかし知ってしまったからには守り抜きたかった。

 そんな決意を抱いていた彼であったが、今まさにその願いは打ち砕かれようとしている。



「リンダさんッ!!」


 リンダの回想は、そんなオズの叫び声によって中断された。

 振り上げられた肉塊の拳が、今まさにリンダのもとに迫っているのだ。


 でもどうしようもない、あれを打ち払う術などない。

 死を受け入れるしかない、そんな心境にありつつも、今の彼に悔いは無かった。

 無い?本当に?


 ”俺が今ここで諦めたなら、俺の守ってきたものはどうなる?”

 そんなことを考えるのは初めてだった。

 加速された思考の中で、その質問への答えを探す。


「私は、諦めるわけにはいかんのだッ!!」


 そして答えは出た。

 リンダは残った力で体を翻らせ、拳の一撃を回避する。


 しかし完璧に避けることは敵わず左腕の骨が砕け散る。


 だがそれでも彼の心は砕けない。

 まさしく不屈、その目の光は、またぎらぎらと輝き始める。

 彼は再び立ち上がったのだ。


 そんな彼の様子を見ていたのはオズだけではなかった。


 北門からは騎士軍の兵士たちが、肉塊の向こう側にはゴブリンたちが、不安げな視線でリンダの行く末を見守っている。


 ゴブリンたちの中にこの戦いを望んでいたものなどいない。

 肉塊の主である魔人によって無理やり従えられているのだ。

 その証拠に、彼らの体にはその暴力の跡が残されていた。


「お前たち見ているがいいッ!!」


 リンダが叫ぶ。


「私はこの化け物を打ち倒し、お前たちに安寧の日々を齎そうッ!!」


 自分を鼓舞し再び立ち上がる。

 そして、


「私の最後の一撃を、しかと見届けよッ!!」


 最後の余力で剣を構えようとする。

 しかしその剣は先程の一撃で粉々に砕け散っていた。


ーghyyyyyyyyy!!!!


 肉塊の咆哮が響き渡る。

 そして拳が振り下ろされた。


ーなれば拳で戦うまで!!


 そう覚悟を決め、右腕を引くリンダ。


ー告。”魂”のエネルギーが基準値を突破しました。それによりいくつかの応用能力を犠牲にして、特質能力(ユニークスキル)”挑戦者”を獲得しました。以上。


 だがそのさなか、リンダの脳裏にそんな声が聞こえてくる。

 しかしそれを気にする時間は、彼に与えられていなかった。


 拳と拳がぶつかり合う。

 リンダに勝ち目などあるはずがない。ゴブリンも、兵士たちも次に訪れるであろう絶望に顔を青ざめさせていた。


 だがしかし、勝者はリンダであった。

 バンッ!!という音を立てて肉塊の体が後ろに吹き飛ばされる。


「一体何が・・・」


 そうつぶやいたリンダが感じたのは、体の奥底から湧き出てくるエネルギーだった。

 異常なまでのそれを見て、先ほどの言葉は自分宛に送られたものなのだと理解した。

 そして記憶をたどり、送られた言葉を思い出す。


「私はお前を超えて見せよう、行くぞ”挑戦者”」


 そして本能に従って、その権能を解放した。


 吹き飛ばされた肉塊が、再びリンダの方へ向き直る。

 そして大地を蹴って一瞬のうちにリンダの眼前に到達し、拳を叩き付けた。


 しかし、その手には一切の手ごたえがなかった。

 それもそのはず、そこにリンダはいなかったのだから。


「さらばだ」


 そんな声が肉塊の背後から聞こえてくる。

 この瞬間肉塊の敗北は確定した。肉塊の体はリンダの腕によって大穴を開けられたのだ。

 これによって肉塊の動きは止まる。かくして北方の戦いは終幕したのであった。


「リンダさんッ!!」


 顔を満面の笑みに輝かせ、リンダへ近寄るオズ。

 いつの間にやら奥の方にいた騎士軍も、ゴブリンの群れたちも、リンダのもとに駆け寄り始めている。


「・・・向こうの方は大丈夫そうじゃな」


 一応警戒をしていたが、瞬時にそれを解き、リンダもおとなしく勝利を喜ぶことにした。

 今の自分の周囲に敵はいない。

 特質能力を得たことにより、その勘が大きく冴え渡るようになったのだ。


 そしてリュートの強さも、前以上にひしひしと感じられるようになった。

 もはや自分の出る幕などないのだと、その身ではっきりと理解したのだ。


「「「「リンダさ~ん、生きててよかった~!!」」」

「「「グギャ、グギャアアアアアアア!!」」」


 だから彼はこれから起こる、そこまで一大事でもない面倒ごとへの対処に、頭を悩ませるのだった。

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