剣と拳
ロメオと別れた後、子ども型の肉塊との戦いに臨むヒューズとライナス。つい先ほどの軍勢魔法で始末するのがベストだったのだが、事はそう簡単には運ばなかった。
「ライナス様。私が奴の注意を惹きますので、ライナス様はその隙をついて攻撃してください」
「分かった」
短いやり取りではあったが、作戦を把握するのには十分だった。つい先ほどの発言通り、ヒューズが肉塊の前に立つ。
彼の左手には盾が握られていたが、右の手には何も握られていない。彼の武器は鍛え上げられたその肉体、腰に差した剣は介錯用である。盾で受け止め拳で殴る。まさしく剛、それこそが彼の戦い方なのだ。
そしてもう一人の戦士、ライナス。
ヒューズに比べて非力な彼の武器は、腰に差していたレイピア一本のみ。
重厚な鎧も頑強な盾も必要ない。彼の戦闘スタイルは素早さ重視、蝶のように舞い鉢のように刺す彼にとって、盾や鎧は動きを阻害するものでしかないのだ。
まるで正反対の二人だが、その相性はピッタリであった。
ーkshyyyyyyyyyyyyyyyyyy!!!!!
耳障りな叫び声を響かせ、ヒューズのもとに踏み込む肉塊。まるで弾丸の如き勢いであるが、彼の防御には敵わなかった。
「・・・甘い」
大砲のような衝撃と、ヒューズの盾がぶつかり合う。この戦いの勝者はヒューズ。左手の盾で肉塊を防ぎ、右の剛拳をお見舞いする。
だがしかしその振るわれた剛腕は、肉塊の掌によって容易く受け止められた。
「隙あり!!」
だがそれが狙い。そのわずかな静止の瞬間に、ライナスの鋭い一撃が振るわれた。
まさしく神速の一突き。放たれた突きは肉塊の頭を貫通し、その鋭い先端のきらめきが見える。生物であれば即死していただろう、だがしかしこの肉塊は生物ではなかった。
ーshyyyyyyyyyyyyy!!!!
「チッ!!」
慌ててレイピアを引き抜き、肉塊から距離をとるライナス。そしてその刹那、肉塊から回し蹴りが放たれる。
「ぐっ!!」
回避が間に合わなかったヒューズは左手の盾でその一撃を受け止めた。だが勢いを殺すことは敵わず、そのまま宙に吹き飛ばされる。
「大丈夫か!?」
「えぇ、なんとか」
むくりと立ち上がり、口から流れ出た血を人差し指で拭うヒューズ。吹き飛ばされはしたが、そこまで大きな損傷ではなかった。
しかし安堵できたのもつかの間、子ども型の肉塊が大きくひざを折った。
そして、
ーkryyyyyyyyyyyyy!!!!
そのまま大きく跳躍、自由落下の勢いをつけ、ヒューズ向けて蹴りを放つ。
「ッ!!やべぇ!!」
俊敏な動作で防御するヒューズであったがその一撃はあまりにも協力過ぎた。バキッ!!という音を立て、表面が砕けるヒューズの盾。損傷はあまりにも激しくほとんどスクラップと化していた。
「斬るッ!!」
だがそれでも隙を作ることには成功していた。ライナスによる必殺の一撃が肉塊のもとに放たれる。
だがそれは肉塊には届かない。肉塊の右腕が硬化し、ライナスの一撃を弾き飛ばしたのだ。
「畜生ッ!!」
予想だにしなかった事態に、悪態を漏らすライナス。もっともその思考は冷静なままであり、今自分たちが置かれている戦局をよく理解していた。
だがそんな彼でも、これから起こる事態は想定できていなかった。
「ッ!!腕が!!」
肉塊の右腕がどんどんと肥大化していく。それは巨大なハンマーと見まがうほどに巨大化し、その圧倒的な物量でもってライナスとヒューズを叩き潰そうとする。
ドンッ!!と鈍い音を立て、大地をうがつ拳。躱すことすらかなわず下敷きになったライナスとヒューズ。その身は満身創痍となり、もはや戦うことは不可能に思えた。
「ライナス様・・・、私がこの場を引き留めますゆえ、お逃げください」
最後の力を振り絞り、そう声を掛けるヒューズ。
「・・・この傷では逃げられん。最後まで戦うさ」
だがそれを断り、再び立ち上がるライナス。その瞳にはその満身創痍な体には不釣り合いな決意が宿っていた。
「分かりました。私も最期までお供します」
「あぁ、いくぞ」
彼ら二人はこの場を死地と定め、最後まで戦い抜くつもりなのだ。
だが肉塊にはそんな戦士に対する敬意などない。彼らを始末するための無慈悲な一撃を振るおうとして・・・。
ーワォォォォォォォォォォン!!!!
そんな遠吠えが草原に響き渡った。
その声の後天空より飛来する灼熱の火炎弾。それを済んでのところで回避する肉塊。
やってきたのは白の中に真紅の毛。リュートの愛犬、ガンドであった。




