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とある魔王の無双譚  作者: azl
魔人との激闘
24/145

開戦

七月は長期の予定があるので、これが今月最後の投稿かもしれません。

 朝日が昇る。


 雲一つない青空の下、天空に浮かぶ一つの人影があった。

 蝙蝠のような翼を生やした赤髪の魔人、リュートである。


 彼は天空からギルレオン城の周囲を俯瞰していた。


 そんな彼の目に映ったのは西門と北門付近に居座る二つの集団。

 ゴブリンの群れである。

 まさしく軍勢とでも呼ぶべき数であった。


 だがしかし、彼の目に留まり続けたのは、その集団の先頭に立つ者たち。

 肉塊とでも称すべきおぞましい何かであった。


 恐らくは殺された人たちのもの、であるならば・・・。


『ウルスラさん、魔人を見つけ次第処分しても構わないよな?』


 普段の心優しい彼はそこにいない、一瞬のうちに慈悲の心など消し飛んだ。

 彼の心を満たしたのは激しい怒りだったのだ。

 昔はこんなことなかったのに、と若干の憂いを覚える。

 だがそんなものは、その怒りの前ではちんけなものでしかなかった。


『えぇ、構わないわ』


 あまりにも普段とかけ離れた様子に若干の不安を覚えたが、その原因は彼女も知るところであった。

 現に彼女も彼と同じく怒りを感じていた。

 故に変に問い正すことなく、質問に答える。


『分かった。見つけ次第全力で処分する』


 そう返事をし、魔法通話を切るリュート。


 件の魔人はいまだ見つからない。

 だが焦る必要はない、奴は必ずここに来る。


 彼は静かに待ち続けるのみ。



 ところ変わってギルレオン城の中庭。

 この中庭にて、何人かの人々が跪いていた。


 跪いているのは、魔法軍の兵士たち。

 魔素量は多いものの、戦闘に関しては不得意な者たちが、一か所に集められていた。


 そしてその跪く者たちの前に立つのは、アリナ、ウルスラ、そして第三王女ソーニャ・ギルレオン。


「皆様、準備はよろしいですか?」


「「「「ハッ!!」」」」


 アリナの問いかけに答える兵士たち。

 彼らの目にはこの国を守り抜く決意が宿っていた。


「アリナは大丈夫なの?結構大変だよ・・・?」


「問題ありません。私もこの国のためにこの身を賭す所存です。それに・・・」


 不安そうなソーニャにそう答えたアリナ。

 だがその言葉は最後まで発せられず、彼女はふと天空の方を見上げた。


「彼もこの国のため戦っている。であるならば私は私の最善を尽くさなければなりません」


 視線の先には空を飛ぶリュートの姿。

 その凛とした宣言が響き渡った。


「それでこそ私の娘よ。じゃあ本当に行くわよ」


「はいっ、来てください」


 ウルスラに返事をし、アリナは兵士たち、ウルスラ、ソーニャの間に”魔力譲渡”と”魔力循環”の回路を作成する。


 そして、


「「遮蔽結界!!」」


 ソーニャとウルスラが発動させたのは、力魔法上位応用系”遮蔽結界”。

 その名の通り、衝撃に対する高い耐性を持つ結界である。

 本来であれば民家ひとつを覆えるぐらいが最大範囲。

 だが今は、ギルレオン王国全域を覆うほどに巨大であった。


 その理由はアリナの応用能力(アプリードスキル)によるもの。

 だがしかし彼女の負担は半端なものではない。


 もうすでに額に汗が浮かび、血管の形がはっきり浮き出ている。

 だがそれでも挫けることはない。


 この苦しい思いも、すぐに”彼”が終わらせてくれる。

 そう信じているのだ。



 北門付近に配属されたギルレオン騎士軍。

 その先頭に立つのは、リンダとオズ。


 一応騎士軍にもヒューズという副軍長がいる。

 だがしかし、彼は今正門付近に置かれた魔法軍にいる。


 何故か?魔法軍と騎士軍それぞれに、魔法通話を使える者を配属した方が良いと判断されたからだ。

 リンダは魔法通話が使えない、それゆえヒューズと入れ替わる形でオズが登用されたのだ。


「えっと、ウチ、知らん顔ばかりで緊張してしまうんやけど・・・」


「日頃のつけだ。合同練習をさぼるからこうなるのだ」


「ぐぅのねもでませんわ・・・」


 ふざけているようだがその表情は真剣。

 その瞳の先には、男性型の肉塊があった。


「さて、どうします?先制攻撃もありかと思いますけど?」


「・・・もう少し様子を見よう」


「かしこまりました」


 そう返事をしたオズ。

 リンダの代わりに部下たちへ伝えようとして、


ーghhhhhhyyyyyyyyyyyyyyy!!!!


 おおよそ生き物の物とは思えない咆哮が響き渡る。

 そしてその刹那、ゴブリンの集団の先頭に立っていた男性型の肉塊が、城門目掛けて接近して来る。


 だがしかし、ゴブリンの群れが動く様子はなかった。

 であるならば、


「私とオズで奴を迎え討つ。お前たちはゴブリンの群れが動き出した時に備えておけ!!ラインにも伝えておけよ!!」


 少数精鋭で迎え撃つのがベストだろう。


 そう考えて命令を下す。


 ちなみに先ほど名が挙がったラインは、嫌な予感がするといって南東地区へ向かった。


 これはリンダも許可している。


 普通であればビビって逃げたと思われそうだが、リンダはそうではないことを知っていた。


 ラインはとある応用能力を所有している。

 その名も”超直感”、この能力が彼の性格を更に臆病なものに作り替えてしまったのだ。


 そんな性格の中でも、彼も彼なりに精一杯やっているし、リンダもそのことを知っていた。

 何かと手のかかる奴だが、国を守りたいという意思は本物なのだ。


 そしてリンダもまた負けてはいない。

 償いのため、愛する人のため、彼は強大な敵に立ち向かう。



 時は少し遡り、ギルレオン城の西門付近、そこに配属されていたのはギルレオン魔法軍。

 その先頭に立っていたのは、ロメオ、ライナス、そしてギルレオン騎士軍副軍長ヒューズ。


「いやぁ、お久しぶりです。お元気でしたか?」


「・・・ぼちぼちだ」


 ロメオの質問にぶっきらぼうに答えるヒューズ。

 別に怒っているわけではない、人と話すのが苦手なだけなのだ。


「ハハハ、それは何より。さて・・・」


 ふざけた雰囲気から一転、一瞬にして魔法軍長の表情に様変わりするロメオ。


「あの肉塊、早いうちに成仏させてあげたいんですけどね」


 彼の目の先にあるのは二つの肉塊。

 それぞれ女性型と子ども型、おそらくは魔人が死体を材料にして作ったもの。


 死者への冒涜としか言いようがなく、それを見るロメオの目も怒りに満ち満ちていた。


「私も同感です。ですが時が来るまで・・・」


 もう少し待ちましょう。その言葉が最後まで紡がれることなかった。


ーhyyyyyyyyyygggggggggg!!!!

ーwyyyyyyyyyyhhhhhhhhhh!!!!


 響き渡ったのは耳を切り裂くような二つの雄たけび、そして、


「「「「「グギャアアア!!!」」」


 ゴブリンどもが進軍を開始する。

 そしてそれに先導するように、肉塊たちも走り始める。


「・・・できれば殺したくはなかった」


「こうなった以上仕方ねぇよ。お前ら、魔法の準備をしておけ!!」


 そう命令を下すロメオ、そして、


「俺たち三人であの肉塊の動きを止める、とっとと俺たちに楽させろよ!」


 そういって言い残し、肉塊向けて馬を駆る。


 ロメオを先頭に、ヒューズとライナスがそれぞれ右と左後ろに。


「生きて帰るぞ!!」


「「応!!」」


 こうしてもう一つの戦いの幕が上がった。



 ラインは騎士軍から離れた後、南東地区へと向かっていた。

 言語化できない不思議な悪寒を感じたのだ。


 彼自身、そのことを仲間に話しながらも、自分がビビっているだけ。と結論付けようとした。

 だがリンダはその言葉を信じてくれた。


 そして今、彼のその悪寒は間違いではなかったと証明された。

 否、されてしまった。


 避難した住民の後方に立つ黒衣の男、その手には練り上げられた魔力があった。

 そんなことをする理由は一つ、住民たちを殺すことだろう。

 そしてこんなところであれを解き放とうものなら・・・。


 一切の逡巡もなくラインは駆け出す。


 そして、


「やめろぉぉぉ!!」


 黒衣の男目掛けて剣を振る。


「くぅ、貴様ッ!!」


 その刃は黒衣の男に届くことはなかった。


 だがしかし練り上げられた魔力は、あらぬ方向へと飛んでいった。


 そのことに安堵するライン。だがしかし、


「ふざけるなよッ!!人間風情がッ!!」


 それは戦場においては命取りだった。

 その男が放った拳が、ラインの腹部目掛けて飛来する。


「ガハッ!!」


 避けることも敵わず、直撃してしまう。

 今まで受けたことの無いような痛みに悶絶する。


 だがそれだけでは終わらなかった。


「クソがッ!!」


 頭を、腰を、胸を、下腹部を、何度も何度も殴られるライン。


「おい、おまえ!!何をして!!」


 異常な事態であっけにとられていた憲兵が、気を取り戻す。

 だが、


「うるせぇ!!手前も殺されてぇのか!!」


「ッ!!」


 その男の発する殺気に気迫され、迂闊に近寄れない。

 だがそれも当然のこと、彼の放っていた怒気は、まさしく生命の本能を揺さぶるものなのだから。


「おいおい、お前。俺の邪魔をしておいて、もうそんな様か?もっと楽しませろよなぁ!!」


「ッ!!やめッ!!」


「辞めるかよッ!!」


 何度も何度も殴りつける。


 彼の纏っていた黒衣もすっかり剥がれ落ち、その顔を風にさらしていた。


 髪の色は赤、件の魔人である。ラインの感じた悪寒はまさしく彼、魔人の物だった。

 その彼の表情は怒りと憎しみに歪み、おおよそ生物の物とは思えない。


 魔人はラインを何度も何度も殴りつける。

 ラインの体は生きているのが不思議なほどにボロボロだった。

 だがそれはほんの数十秒ほどの出来事である。


「おい人間、何か言ってみろよ?」


 ラインは口を開かない、もうその気力すら残っていないのだ。


「フンッ、もう仕舞か。じゃあ死ね!!」


 そう言って最後の一撃を振り下ろす魔人。


 彼の頭の中には走馬灯が駆け巡る、ラガルトにリゲル、それに迷惑かけたリンダさん。

 不思議と時の流れが遅く感じる。そんな中で謝罪の言葉を発そうとして、ふと突然”それ”に気が付いた。


 何故気付かなかったのか不思議なほどの存在感が、天から降ってくることに。

 そして、


「見つけたぞ」


 恐ろしいほどに空虚な声色。

 その言葉を発した”彼”は魔人の首元をつかみ、いったん上空へと飛びあがる。


 そして、爆発でも起きたかのような凄まじい轟音ともに魔人の顔面を大地に叩き付けた。

 叩き付けられた大地は小規模なクレーターとが出来上がっている。


 そんな規格外な存在がラインの方へ向き直り、そして、


「・・・まだまだ精度が悪いんだ。後でアリナにでも頼んでくれ」


 そうラインに声を掛ける。

 驚いて自分の体を見てみると、魔人によってボロボロになった体が元通りになっていた。


 そして初めて気が付いた。

 彼、リュートが自分を助けてくれたのだと。


 だがしかし、今目の前にいるのは彼であって彼ではない。

 いつもの心優しい彼はそこになく、その瞳には怒りだけを宿している。


「ッ!!貴さッ!!」


「黙ってろ」


 そう言って魔人の顔を踏みつけるリュート。

 普段の彼からは想像できない光景である。


 だが見た目は普段と同じ。

 例の魔人よりもずっと美しい赤い髪、整った顔立ち、だが雰囲気がまるで違っていた。


「ライン、この場は任せたぞ」


「は、はい」


 若干気迫されかけるも気を保つライン。


 それを見たリュートは、魔人の顔面をさらに強く押し付け、街中を疾駆する。

 顔面によって大地は抉られ、まるでトラクターが通った後かのような有様だった。


 そして、


「死んでくれ」


 リュートは魔人を掴んだまま天高く舞い上がり、大地向けて投げつける。


 その刹那、耳を切り裂く轟音が、ギルレオン中に響き渡る。


 立ち上る土煙、その有様を天から眺めるリュート。


「ふざけるなっ!!」


 だが魔人は生きていた。

 顔の皮はズタボロ、体は生物が曲がってはいけない方向に曲がっているが、生きていた。


「・・・頑丈だな」


 そうつぶやくリュート。

 その声色は怒気だけをはらんでいた。

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