#6: 帰還=>再出発
「到着!」
「わーい!」「……わーい」
栖男の部屋に着いた栖男達。外ではもう夜になっていた。
「もう夜か」
「ちょうど夜ご飯の時間ですね。一応時間は進んでいるらしいです」
「だな……あれ、昼は?」
「……あ」
朝、兎莉生の世界に行ったため、昼にご飯に来てないことになっている。これはまずいと栖男は慌て始めた。
「どうしよう!これ気づかれるやつでは!?」
「落ち着け、いきなり連れ出したのは俺だ。何とかする」
トリオは空中に画面を表示させ、操作し始めた。するとそばに小さい箱のようなものが出現した。
「これは?」
「俗にいう記憶操作だ。これで栖男は昼には親とご飯を食べたことになる」
「え?」
とトリオは箱を開け、中をいじった。その10秒後。作業が終わったようにトリオは顔を上げ
「よし、行っていいぞ」
「いいんですか?」
「おう、今日は疲れたろ。早くいってきたらどうだ。俺たちは何か食べとくから大丈夫だ」
「あっはい……」
栖男は半信半疑ながらも下へ降りた。
「あら、栖男。今日は唐揚げよ」
「栖男か、今やってるテレビ面白いぞ」
(嘘だろ……いつもどうりだ)
栖男は呆然と日常の風景を目の当たりにした。トリオの言うことは本当だったようだ。
「栖男。そんなところで立ってないで手伝って」
「あっはい」
栖男はそのまま親と晩御飯を食べた。いったいトリオは何者なのか、と思いながらも日常を過ごした。
*
しばらくして、栖男は自分の部屋に戻った。
「戻りました」
「おう、お二人さんはぐっすり眠ったよ」
トリオはいまだに作業を続けていた。
「あー、兄貴?一体どこでそのような知識を付けたんですか?」
「ん?そうだな……過去にある出来事があったから、かな」
「ある出来事?」
「ん……あまり思い出したくないがな。でも乗り越えないといけないものでもある」
「そうですか……乗り越えるようになれたらいいですね」
「……そうだな」
トリオが珍しく深刻そうな顔をして作業していた。
(こんな僕でもトリオの力になれるのかな……)
そんなトリオを横に密かに思いを秘めたトリオだった。
*
次の朝。
「よし、次は俺の世界に行くか」
「日課にするんですかこれ」
「いや、一旦これで最後にする。一応それぞれの世界を行っておかないと思ってな」
「なるほど、で、すぐ行くんですよね?」
「察しがよくなったな。まぁ夜に帰っても記憶操作するから安心しとけ」
「……」
栖男は若干引きながらも行くことにした。すると、千代女がひょっこり現れた。
「今からどこに行かれるのですか?」
「そこの兄貴のところだよ、君も行くのかい?」
「行ってみたいです!」
「……ついてく」
「莉生ちゃんも行きたいようです!」
(何か違う気がする……)
栖男は若干認識のずれを感じつつも、一同はトリオの世界に出発した。
*
いつものように空間移動したあと、トリオの世界に到着した。トリオ達は公園のようなところに着いたようだった。
周りは白くて高い建物が立ち並び、見たことない車が飛び交っていた。少なくとも栖男のいる世界より文明が進んでいると栖男は感じた。
「よし、ついたぞ。ようこそ俺の世界へ」
「りおちゃん達には着替える必要ないのですか?」
「あぁ、一応ここはみんな衣装がばらばらで文化もばらばらだ。気にする必要はないぞ。ただ、俺は目立つから栖男の世界の服装にしてるがな」
「あ、いつの間に」
「よし、とりあえず俺の部屋に行くか。この世界線の乗り物でな」
とトリオは画面を操作した瞬間、そばに先ほど見た車が現れた。黒いボディに新幹線の先端部分だけ表したような形状でタイヤがなく浮いていた。が、あまりにもコンパクトなため、栖男は4人で乗れるのか不安に思った。
「兄貴、見た目で言ってはあれですが、乗れるのでしょうか」
「乗れるぞ、意外と広いからなこれ」
栖男たちが中に入ると、そこには1LDKほどの広さがあり、まるで家の中のような光景が広がっていた。
「大きいですね!」「……大きい」
「どうなってんだこの構造……」
「まぁ、驚くのも無理はないだろう。この車のおかげでどこでも暮らせるからな」
「あれ、兄貴がそこにいるならだれが運転してるのですか」
「何言ってんだ。これは自動運転だぞ。もう出発している」
「早くないですか?」
「俺の言葉を理解して行き先を設定してくれて るからな。かなり精度いいぞ」
「はえー……」
さすがにこれほどの高性能の車は見たことないと栖男は思いながらあたりを見て回ることにした。
「本当に部屋ですね兄貴。なんでここに住まないのですか?」
「あくまで移動用だからだ。自宅の方はもっと設備いいぞ」
「期待しときますね」
「裏切りはしないはずだ」
トリオ達は車内の部屋でくつろぐことになった。数十分後
「着いたぞ、俺の部屋だ」
トリオが車の扉を開けると目の前に図書館のような光景が広がった。
「わー……」
「大きいですね!」「……おー」
「さ、いくぞ。俺の部屋はもっと奥だ」
栖男はトリオの後をついていく。辺りは本棚だらけで厚い本ばかり並んでいた。
「ここは一人で住んでるのですか?」
「そうだな。親は空を飛びまわっているし、実際知り合い程度のようなものだからな。ここは一人で管理している」
「そうなんですね」
「私はあまり広くない部屋で暮らしていたのでここは理想郷みたいなものです!」
「……」
談話を交わしながらしばらく歩くと先ほどの雰囲気と一転し、大きな画面が10個ほどずらりと並んでいるデスク部屋に着いた。
「よし、着いたぞ」
「ここで作業しているのですね……立派すぎてアニメ見ているような気分になります」
「相棒、これは現実だ。現実は小説より奇なりっていう言葉を体現するようにな」
「はー……」
「さて、ここに来た目的は、これからの運命のXデーに備えた具体的なスケジュールを共有するためだ」
「そういえば言ってましたね。3つの世界線が一つになり、それぞれの自分が一つになると」
「……このままだと誰か二人消える」
「ええぇ!?そうなんですか!?兎莉生ちゃん!??」
突然の事で千代女は驚きを隠せなかった。一方、栖男は兎莉生が前にトリオが話していたのを聞いていたことに驚いていた。
(あれ。りおちゃん、寝てたよね……?)
「そうだ。そのために、俺は残り2人の自分を一つに集めた。少なくとも俺たちは存在できると考えられる。そして次の作戦は他の者たちを救うことだ。そのために、俺たち3人+αで世界の原理を変える」
「?????」
栖男は理解できなかった。世界の原理を変えるとはどういうことなのか全く見当がつかなかった。
「世界の原理を変えるってできるのですか?」
「わからん。だが、前に言ったが、俺は世界を変えた。ならば次に成し遂げるのは原理を変えることだろ?」
「いや、目標を口で言ってもわかりません。具体案を示してください」
「あー、すまん。いまテンションが上がってしまった。まぁ具体案はある。それは居場所を作ることだ」
「なるほど、このままだと今まであった3つのものが1つになるからその分を補完すれば存在できることですね」
「え……」
「おう、その通りだ。千代女だったか?頭いいじゃないか」
「……さすが親友」
「いやぁまぁ……」
千代女の理解の速さに一同が称賛した。想像以上の人材が手に入ったとトリオの天書運が上がる。
「まぁ、場所はおれがすでに作ってある。星を作るのはコストが大きすぎるから、仮想世界を作ってそこに移動させる。あとはXデーまでにこのことを信じさせたいのだが……」
「問題があるのですか?」
「あぁ、どうも信用してくれない。あまりにも空想的過ぎてな。証拠があるにはあるのだが、説明するとどうも難解になってしまう」
「一応説明をお願いしてもいいでしょうか兄貴。もしかしたら自分たちが力になるかもしれません」
「そうだな。物は試し。きたるXデーについて説明するぞ」
こうしてトリオのプレゼンが始まった。