「私と同じタイプ」
「それで?いつになったら和人は帰ってくるのかしら?」
「今はもう1人の妻と一緒に買い物に出てます。そろそろ帰ってくると思うんですけど……」
家に入ってから既に15分が経過。こんなことに付き合う義理なんて正直ないけれど、乗り掛かった船だし、このまま最後まで付き合うことを決めていた
「そういえば、佐原先生って独身だったんですねー」
と、今までずっと黙っていた伊津が口を開いた
「そうなの。何回か縁談とかあったけど全て断ってたの」
「なんで?」
「私、男の人が得意じゃないのよ」
あ、私と同じタイプだ
「ではなぜ、和人さんに迫るのです?」
「……さすがに婚期を逃したと思ってね。でも結婚することを諦めたくはなかったの。だから今回の和人の告白が嬉しくて、急いじゃった部分はあるかな。あと、和人は他の男の人とは違う感じがしたし」
女性は少し照れ臭そうに話した
「でも、そもそもの話、重婚が認められてるのですから、わざわざそんな香奈さんに事を荒立てるような事をしなくても良かったのでは?」
確かに。昔のように一対一の結婚しか許されない場合ならともかく、今は重婚が出来る時代。わざわざ香奈から奪ってやろうなんて考える必要もない
「……確かに結婚は出来るわ。でもね、それでも優先順位ってものが存在するの」
落ち着いた様子で淡々と話す女性
「私ももうそれなりにいい歳。和人とは年齢差もある。で、他の2人は自分と同じ歳の可愛い子……となると、やっぱり和人にとって大切な人の順番で上に出ることは出来ないの」
「……そうですか?年齢差はあまり関係ないような気が……」
「そう思うでしょ?そういう意見の人だっている。でもね、やっぱりそこには差が出来るの。結婚してもらえるだけでありがたいことだけど、それでも私は和人の1番になりたかったの。だからあなたともう1人から和人を奪って、2番手になってくれそうな子を探して結婚する……これが私にとっての理想的なプランだったの」
理想的な割にかなり強引なような……ただ、確かにこの女性の解釈は間違ってないのかなと少し同情する余地はある
「ただいまー」
「あ……帰ってきた」
玄関から男の声が聞こえた。そして足音は2人分……間違いなく、帰ってきた
「香奈ー。靴が増えてるけど誰か来て……って佐原さん?なんでこんなところに……」
「誰ー?誰来てるのー?」
驚いた表情を見せる男と、その後ろから覗き込む女性がいた
「和人……!ほらっ!迎えに来てあげたわよ」
「えっと……迎えとはどういった……」
女性の意図に対して、困惑する男。どうみても戸惑っている様子だった
「まあ座ってよ。2人とも」
香奈さんに促されるまま、香奈さんの横に座る2人
♢ ♢ ♢
「……というわけ」
香奈さんは淡々と先程の出来事を2人に話した
「ええー‼︎てことは、和人は浮気してたってことー?」
「まあ私と雛はもう1人を迎えてもいいって許可は出してないからね。これは立派な浮気だわ」
新たに妻を増やす場合、現妻達の許可を得なければいけない。今回、香奈さんと雛さんはもう1人の妻を迎え入れる事を容認していない為、これは浮気となる
「……えっと、その前に佐原さん。一つお聞きしていいですか?」
「なに?」
「……俺、いつそんな事いいました?」
男はすっとぼけた様子で言った
「嫁にもらうなんて言った覚えがなくて……」
「ウソおっしゃい!私と梅の話をしてる時に突然言ったでしょ⁉︎」
女は机をドンッと叩き、威圧するように言った
「梅の話の時……?あっ……」
少し考えこむ様子を見せ、そして何かを思い出したようだった
「もしかしてなんですけど……嫁にもらうじゃなくて梅をもらうじゃないですか?」
「……えっ?」
シーンとなる部屋。テスト中の教室さながらの静かさだ
「ほら、言ってたじゃないですか。梅を作ってるけど、1人じゃ食べきれなくて、でももらってくれる相手もいないのよって」
「ウソ……私の勘違い……?」
私は改めて日本語の怖さを思い知った。たった少しの聞き間違いで、まさかこんな大事になってしまうとは……
それと同時に、本当に無駄な時間を食ったな……と後悔したのだった
♢ ♢ ♢
「由比羽ー。お隣さんからなんかもらったぞー」
「お隣さんから?」
あの騒動から3日。お隣さんからの差し入れということは、多分この前のお詫びも兼ねてのことなんだろう
「何入ってるんだろ……てかデカっ!」
袋いっぱいに何かが入っていた
「これは……梅?」
カバンの中には、紙と緑の梅がぎっしりと入っていた。
「先日のお詫びです。梅のジャムなどにしてお召し上がり下さい……」
「おー。梅のジャムかぁ」
……これを見るたびに、あの騒動の事を思い出すんだろうなぁ……




