「早く出しなさい!」
私達の住むマンションは、学生婚専用マンション。つまり、入居者は全員学生だ
防音性能、耐震性もある。そして完全にシャットアウト出来るわけじゃないが、床もある程度の防音工夫がされてある
ただ、それでもやはり隣人トラブルというものは回避出来ない
学生ということもあり、やはりはしゃぎたいお年頃。隣からギャーギャーとはしゃぐ声だって聞こえてくるし、身体と身体が触れ合うお盛んな音だって聞こえてきたりする
それが、隣人トラブルを引き起こす種だから
♢ ♢ ♢
「伊津ー。まだー?」
「もうすぐ終わるので、もう少し待ってください!」
今日は休日。琴乃と太一は学校からの呼び出しで家を空けていた。そして、伊津が少し衣類を買いに行きたいというので、私達はショッピングモールへと出向こうとしていた
「先家の外出てるよー?」
「はーい!」
私は先に外に出ていることにした
「早くあいつを出しなさいって!」
「だからあなた誰よ‼︎」
玄関を開けると、隣の家の前で2人の女性が言い争っていた
「……どうしました?」
言い争っていた2人は同時に私の方を向いた
言い争っていたのは、私の家の隣に住む紫藤 香奈と見覚えのない女性だった
「あっ!八幡さんごめんなさい!大きい声で迷惑でしたよね……」
「いえ、別に大丈夫ですよ。それよりもどうしましたか?」
見たところ隣人トラブルのように見えるけど……怒っている方の女性は、どう見ても学生には見えない。40代辺りに見える……
「この人が和人を出せ出せってうるさくて……」
和人というのは、隣人の旦那さんのことだ
「和人は私と愛を誓ったの!早く出しなさい!」
「いや、だからいないんですって。今は出てていないんですよ」
「嘘おっしゃい!そうやってごまかすつもりでしょ?私と和人を会わせないつもりでしょ‼︎」
と、聞く耳も持たない女性。発狂する手前……に見えて発狂してるなぁ……
隣人トラブルというよりかは、面倒ごとに巻き込まれた……が正しいかなぁ
「まあまあ落ち着いて下さいよおばーーお姉さん。まずはしっかり話を聞かせてください」
危なぁ……もう少しで火にガソリン注いじゃうところだった……
「そんな話をする必要ないわ!早く和人を出しなさい!」
と、私の言葉も聞き入れない。どうしたものかなぁ
「お待たせしましたわ!」
と、ここで伊津が準備完了し、外に出てきた
「あー伊津。ちょっと待ってね。お隣さんがなんかもめてるみたいでさ」
「そうなんですの?」
「い、伊津さん⁉︎」
と、先程まで発狂していた女性は、伊津を見て顔を青ざめさせていた
「あら?もしかして佐原先生ですか?お久しぶりですね」
「……知り合い?」
「ええ。私の前の学校、櫛也高校の家庭科の教師ですわ」
なんとまさかの知り合いだった。しかも、有名お嬢様学校の先生ときた。これで学生でないことは確定した
♢ ♢ ♢
お隣さんの家にお邪魔して、事情を聞くことにした
「改めて聞きますけど、紫藤 和人。あなたが出せ!と言った人物はこの人で間違いないですか?」
「ええ。間違いないわ」
さっきとはうってかわって落ち着いた様子の女性
「どういったご関係で?」
「私は彼の働く居酒屋の常連客なんです。そこで彼と知り合いました」
「なるほど……一緒に出かけたりとかは?」
「ないです。でも、カウンター席に座ると、私の話相手になってくれたりしてくれて……。私がたわいもない話をしていたら、彼が突然「俺が嫁にもらいますね」って行ってきたんです」
「……唐突に……ですか?」
「ええ」
「それはいつですか?」
「昨日よ」
「……うーん」
頭を抱えて悩む様子の香奈さん。私の聞いた話だと、旦那さんは居酒屋でバイトしているらしく、矛盾点が見当たらないのだ
「昨日は出勤日だったし……もしかして本当に和人が……?」
疑心暗鬼になる香奈さん。まあ困惑してしまうのも無理はない
ちなみに、やはり学生と先生の恋愛というのは認められていない。それは他校の先生と生徒とであってもだ
卯月と綿田先生が関係を秘密にしているのも、認められていないから。ただ、2人同様、生徒と教師の関係でなくなれば、結婚は出来る。
紫藤家は全員高校3年生。つまり、現時点でこの女性は結婚出来ないが、あと5ヶ月ちょっと待つことで結婚することが出来るのだ
何にしても……また変なことに首を突っ込んでしまったことを私は大いに後悔した……




