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「ダメだったぽいね」



「出来たー‼︎」


「うん……良い匂いだね」



ジャガイモや人参にすんなりと箸が刺さる程、煮込み終えた。匂いもよく、食欲がそそられた



「じゃあ均一に分けよう」



大きめの器に移し替えていく卯月



「……多っ」


「もう昼ごはんはこれで良いね」



毎回調理実習の時は、人数分×1人前分作るので、普通の人ならお腹いっぱいになるようになっている



私もお昼ご飯は肉じゃがだけで済ませるつもりなので、お弁当は持ってきていなかった



「皆さん完成したようですね。では実食に移りましょうか」



皆は両手を合わせた



「いただきます」


「「「「いただきます」」」」



食べる前の合掌を忘れずに行い、各々作った肉じゃがを食べ始めた



「美味しーっ!」


「そうだね。柔らかくて美味しい……」



具に芯のような固さはなく、しっかりと煮込まれていた。具材は少し大きめだが、噛みごたえがあって良い



「……あ、()()()()()ぽいね」



卯月は黒板の方を見ながらそう呟いた



黒板に何かあるわけではない。何かあったのは、()()()()



「……これではいけません。もう少し味付けを薄くなさい。これでは身体に良くありません」


「……はい」



とある夫婦が先生に作った肉じゃがを食してもらっていた



一般生徒達は普通に作り、それを食べる。それだけで終わるのだが、既婚者達は、先生のチェックが入る。見た目、味、準備工程。色々なものを細かく見られている



そして卯月の言っていた「ダメだった」というセリフは合格点が貰えなかった。ということ



合格点が貰えなかった場合、今日の放課後に先生からその料理の作り方を再レクチャーされる。つまり居残り授業だ



「十分美味しそうなのにね……」


「ねー。まああの先生が辛口すぎるってのもあるんだろうけどね」



調理実習に限らず、家庭科に関しては、既婚者達は常にテストされている状態だ。裁縫であったり、そして昔ならしなかった洗濯の授業もある。そしてそれら全てに既婚者達は、先生のチェックが入る



「……絶対あーやって人から文句言われるの嫌なんだけど」



指図されるのが嫌いなわけじゃない。分からないことを教えてもらうことは良いことだと思う。でもなんでも完璧にしないといけない。あの先生……というより国自体にそういう考え方がある。私はその考え方が嫌いだ



「だよねー。料理とか美味しいことに越したことはないけど、オリジナル要素とかある方がいいし、家庭の味?ってのもあるからねー」


「……そうだね。洗濯とか裁縫は仕方ないかなぁって思うことはあるけど、料理は美味しければ人それぞれの作り方があって良いと思う」



私達が嘆いた所で何も変わらない。分かってはいるが、やっぱりああいった風に否定されるのは見ていても腹が立つ



「でも由比羽は大丈夫じゃない?結婚する気ないんだよね?」


「……まあね」



そうだ……私には永遠に関係のない話だ。結婚なんてする気はないのだから……



♢ ♢ ♢



「ごちそうさまー!美味しかったー!」



肉じゃがを平らげ、食器を洗い始めた。もちろんここにも既婚者達にはチェックが入る。泡が残ってないか、洗い残しがないか、など細かく見られている



「……また見てるよ」


「仕方ないよ。あれも仕事の一環だもん」



1枚1枚手に取り、先生は目をギラつかせながらチェックしていた



「大変だねー」



など会話をし、垢一つなく、綺麗に皿を洗い終えた



「では今日の調理実習はこれまで!来週はロールキャベツを作ります」



こうして授業の終わり際に次回のメニューが発表される。お店で出るようなオシャレなメニューが課題になる事はない。調理実習の目的は、結婚した時に家で出せる料理のレパートリーを増やす+味の向上だからだ



「ふぅ……お腹いっぱい!もうお昼ごはんはいらないぐらいだよー」


「あ、そう?今日は購買で何か奢ってあげよーと思ったのに……残念残念。お腹いっぱいなら買わなくていいね」


「えっ⁉︎なんで急にまた⁉︎」



先程いじりすぎたお返しとして購買で何か奢ってあげようと決めていたが、お腹いっぱいなら仕方ない



「なら買う!パン買わせて頂きます!」


「いやいや無理しなくていいから。太るとまずいでしょ?」


「い、いやいやいいのいいの!パン一つ程度じゃ体型なんて変わらないから!」



卯月は必死になっていた。そんなに私に奢ってもらいたいのね……



「まあ卯月がそこまでいうなら一つ分は買ってあげるよ」


「マジ⁉︎やったぁ!」


「その代わり、琴乃の分のパン3つ分ね」


「結局私が損するじゃん⁉︎」


「ありがとー。卯月ちゃん」


「え⁉︎本気で言ってんの⁉︎てか、そもそもあれだけ食べた後だし、3つも食べられないでしょ⁉︎」


「足りないぐらいだよね?」


「うーん……もう少し欲しいかな?」



琴乃は華奢な身体つきからは想像出来ないほど良く食べる。私も肉じゃが分でお腹いっぱいだが、琴乃はまだまだ余裕らしい



「琴乃ちゃんってそんなに食べるんだ……」


「てことで琴乃の分よろしく」


「ちょっ⁉︎」



このあと、本当に琴乃の分のパン代を卯月が払ったのだった……




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