「尾行開始!」
「……どこ向かってるんだろ」
私は走る太一の後を追っていた。男の足に女がついていけるのか?という疑問があるだろうが、私は足が速い。前に琴乃と部活動見学をした時、100メートル走ったが、陸上部員でないのにも関わらず、かなり速いらしい
だが最大の要因は、奏斗自身が足がめちゃくちゃ遅いことも要因の一つだ
小、中、高とまともに運動してこなかった奏斗。身体の鈍りのせいもあるだろうが、正直、奏斗の全力疾走は、私のジョギングと同じぐらいの速さだ
だから追いかけるのは楽なのだけど……どこまで行くつもりなんだろうか
走り始めてから15分。家と学校からはかなり離れてしまった
と、ここで奏斗は裏路地に入っていった
「しまった!ちょっと離れすぎた!」
私は急いで追いかけた
「……いない?」
距離を取りすぎてしまったようだ。道が分かれていて、どこを曲がったか分からない
「もしかして……勘づかれた?いやそんなまさか……」
「そのまさかだよ」
「うわっ‼︎」
私の目の前に仁王立ちする奏斗の姿があった
「何してんの?俺の尾行なんてしてさ。大方予想はついてるけど」
多分、太一の予想は当たっている
「……頼まれたの。加蓮に」
「やっぱりな……そんなことだろうと思ったよ」
追跡されていたのに、余裕な様子の奏斗
「由比羽。すまないけど、加蓮には内緒にしててくれるか?」
「……今から行く所のこと?」
「ああ。そうだ」
「……内容による」
「バイトしてんだよ」
奏斗の口から意外な言葉が出てきた
「そんなにお金困ってたっけ?高校生の間は加蓮のお父さんから援助してもらえるんでしょ?」
加蓮から聞いた話では、加蓮の生活に支障をきたさない為に、援助を約束したらしい。日本でも有数のお金持ちである緋扇家。バイトしないといけない程度の援助金ではないはずだけど……
「うん。正直、使い切れないほど貰ってる。多分年中電気、テレビ、クーラー、ゲームつけっぱなしで、水も全部出しっぱなしで、洗濯機をずっと回し続けても2割も減らないかな」
「へ、へぇ……」
スケールの違いにもう唖然とするしかない
「じゃあなんでバイトなんてしてるのよ?」
「……もうすぐ加蓮の誕生日なんだよ」
照れ臭そうに話す奏斗
「……へえー」
なんだ……なんだかんだで上手くいってるみたいじゃない
「それで?内緒で稼いだお金でプレゼント買ってあげるんだ?」
「……そうだよ。加蓮はお金持ちだし、安物贈るわけにもいかないし、だからいっぱい入らなくちゃいけなくてさ」
「……高いものじゃなくても、気持ちがこもってればなんでもいいんじゃない?」
「……やっぱりそう思う?俺もそう思ってんだけどさ、それでも安上がりな物は渡したくないんだよ」
「……そっか」
奏斗と加蓮は思っていたよりも上手くいっているみたいで安心した
「てか、それなら日伊乃さんに内緒にする理由がなくない?」
「ああ。日伊乃も加蓮と同じ誕生日なんだよ」
「え⁉︎そうなの⁉︎」
「だからまあ……2人分のプレゼントだな。日伊乃も加蓮ほどじゃないとはいえ、お嬢様だからな」
なるほど……だから長く家を開けることになったのか
「いつまで続けるの?」
「今日で終わり!日給だったし、俺が2人に贈るプレゼントのお金は貯まったからな」
「……そっか」
本当に最後の最後でちょっと水を差す形になっちゃったのかな?
「それよりも、あんまり怪しい行動は取らないように。加蓮ってば、テレビで得た知識のせいで、奏斗が浮気してるって泣いてたのよ?」
「加蓮が⁉︎マジ?」
「マジマジ大マジ。わざわざ私の家に来て相談しに来たんだから」
「そうなんだ……加蓮が泣いて……ねえ」
奏斗は嬉しそうにニヤニヤしていた
「……いちゃつくのは帰って加蓮がいる前でやってね」
「う、うるせーよ‼︎」
結局私は、この家族の仲睦まじいところを見せられただけか……
私達もこんな家族になれるのかな……




