「別に。嫌いなだけ」
「じゃあ由比羽ちゃん。お鍋に油を入れて、お肉を焼こう」
「フライパンじゃなくていいの?」
「洗い物が増えちゃうからね。お鍋でも焼けるから効率良くいこう」
「分かった!」
琴乃の指示通り作業を進めていく。私も料理はある程度は出来るが、琴乃に任せた方が良いものが出来ることは分かっているので、琴乃の指示に従うことにした
「焼けてきたね。じゃあここで玉ねぎと人参とジャガイモを入れちゃおう」
「卯月ー。野菜取ってくれる?」
「ひっ……わ、分かりました!」
明らかに私に恐怖心抱いてる……敬語使ってるし……ちょっとやりすぎたみたい。あとで購買のパンでも買ってあげよう……
「今日は3人分だから、水を300cc入れて、醤油とお砂糖、お酒とみりんを大さじ3杯入れて、和風だしを小さじ2杯分入れる」
「了解ー」
「アクが出てきたら取って……あとは糸こんにゃくを入れて、落とし蓋で蓋をして、20分煮込むとオッケーだよ」
琴乃の指示のおかげで、手際よく作業が進み、他のどの班よりも早く済ませることが出来た
「あれ?もう終わったの?」
「うん。今はとりあえず煮込み終わるのを待つだけかな」
「そうなんだ。じゃあ今の間はおしゃべりしようよ!」
卯月は3人分の椅子を持ってきた
「はいはい座って座って!」
「卯月ちゃん、ありがとう」
卯月の持ってきた椅子に腰掛けた。そして卯月はキラキラした目でおしゃべりを始めた
たわいもない話を少し話していたが、唐突に卯月がある話題へと話を変えた
「そういえば、由比羽はなんで男が嫌いなの?」
本当に唐突に話題を変えてきたのだ。前触れもなく唐突に……
「……別に。嫌いなだけ」
「えっ?理由もなしに?」
「ある。でも言いたくない」
琴乃が心配そうな顔でこっちを見ていた。……私が男を嫌う理由は多々あるけど、決定打となっている事が一つあった
その内容を。そして理由を知っているのは、私の親と琴乃だけである
「ふーん……まあ言いたくないなら仕方ないね!」
「……意外と素直に引くんだ。しつこく聞かれると思ってた」
「私は人が嫌がることはしませーん」
卯月は自慢げに胸を張った。……無い胸を
「……ふっ」
「……もしかして今笑った?鼻で笑った?私の胸のサイズを笑った?」
聞こえないように笑ったつもりだったが、聞こえていたらしい。そして笑った理由までもバレたらしい
「大丈夫だもん!今はまだ胸が大きくなるための準備運動をしてる段階なだけだもん!」
「だとしたら準備運動しすぎだと思うけど」
卯月の目元に涙が溜まり始めた
「う、うるさい‼︎入念にしとかないとダメなの!大きくなりすぎるから身体をほぐしておかないとダメなの!」
「大きくって……卯月の目論見ではどれぐらいになる予定なの?」
「そ、そうね!まあかるーく琴乃ちゃんは超えちゃうかな⁉︎」
と、卯月は高らかに宣言した
「……夢を見るのは良いことだよ」
「琴乃ちゃん⁉︎」
琴乃が嘲笑うかの如く、卯月に辛辣な言葉を浴びせた
「私ぐらいってなると相当頑張らないといけないと思うけどね」
琴乃が誰かを煽るようなことを言うのは珍しい……どころか初めてではないだろうか
「う、うぅ……夢じゃないもん……いつか絶対辿り着くもん……」
卯月の目からハイライトが消えていた。自分でも琴乃より大きくなることはないと自覚しているのだろう
「……なーんて冗談です。まだまだ成長段階なのは間違いないと思いますし、なんなら私よりも身長さえ抜いていくかもしれないですね」
「そ、そうだよ!絶対私のが大きくなって2人に「貧相な身体だな……ふっ」って笑ってやるもんね!」
「ガキみたいだな……」
「ふふふ……」
琴乃が不敵な笑みを浮かべていた。……こんなジョークを言えるようになったのか……はたまた内心で思っていた事が口に出てしまったのか……
どちらにしても、琴乃は卯月をいじるのが好きみたい




