「夫婦っぽいこと何もしてないけど」
「……なんもないなぁ」
次の経過報告を2日後に控えたある日。私は、学校を休んで加蓮らと住んでいる家でのんびりとしていた。何か病気にかかったとか、外せない用事が出来たとかじゃない。ただのずる休みだ
「何か作ろうかな……」
小腹が空いたので冷蔵庫を漁ってみたが、野菜やお肉、卵など調理しないと食べられない物ばかり。レンジでチンして食べられる物も、お湯を注いで完成する食べ物も置いていなかった
「……やっぱりやめとこ。最悪家が燃えちゃうし
」
昔に私は料理で家を燃やしかけた事があった。私は加蓮の料理の下手さを笑うことはあったけど、正直私も同等レベルの料理オンチだ
「我慢するかぁ」
時間は12時。奏斗に何か作ってもらうにしても、学校が終わるまであと4時間近くある。コンビニに行けばいいんだろうけど出かけるのは面倒くさい
私は大人しく時間が経つのを待つことにした
すると、ガチャという音が聞こえた。……鍵が開く音だった
「……えっ、だ、誰?」
部屋の扉に鍵が設置されているのは脱衣所とお手洗い場のみ。他は玄関の扉だけだが、おそらく開いたのは玄関の扉だ
そして間もなく、廊下を走る音が聞こえてくる。どんどんリビングの方へと迫ってきた
そして……廊下とリビングに通ずる扉が開いた
「ひ、日伊乃‼︎大丈夫か⁉︎」
「……奏斗?」
現れたのは、泥棒ではなく、ビニール袋を片手に汗だくになる私の夫だった
「あ、あれ?熱はないのか?」
おそらく先生から私の休みの理由を聞いたのだろう。私は素直に「ずる休みします」なんて言えなかったので(誰でも言わないと思うけど)熱があると虚偽の申告をしていた
「……ただのずる休みだよ」
「あ、そうなのか……一応プリンとかリンゴとか買ってきたのに……」
なんて言ってるが、そんな2つどころの話じゃない。袋から見える限りでは、ヨーグルト、ゼリー、ハチミツも買っていた
「学校はどうしたの?」
「早退してきた。日伊乃の看病しないといけないからって言ってな。本当は加蓮が行くって言って聞かなかったんだけど、「お粥とかうどん作れる?」って聞いたら「日伊乃のこと頼みましたわ」って言ってたよ」
良かった……ナイス判断だ
「にしてもまあ熱なくて良かったよ」
「……心配してくれたの?」
「当たり前だろ?夫婦なんだから」
「……夫婦っぽいこと何もしてないけど」
「ならこれからすれば良いよ。まだ結婚して数ヶ月。先はまだまだ長いんだからさ」
奏斗は私達と共に結婚生活を続けていくつもりがあるらしい。……偽装だったはずなのに、奏斗の言葉に偽りは感じなかった
「まあ私はずっと奏斗の妻でいるつもりないけどね」
「あっ……そっか……確かに日伊乃は俺の事が好きで結婚したわけじゃないもんな」
冗談で言ったつもりだったが、奏斗は思いの外ショックな顔をしている
「じょ、冗談だって!……なんだかんだ私も楽しいって思ってるよ」
……すっごい恥ずかしいんだけど。間違いなく顔真っ赤っかだよ
奏斗の方を見ると、ニヤニヤと笑みを浮かべていた
「いやー、日伊乃さんがそんな風に思ってくれてたなんて嬉しいなぁ。いつもちょっと素っ気ない感じだけど楽しんでくれてたのかー!うんうん‼︎良かった良かった‼︎」
すごく調子に乗ってしまっている奏斗。単純な脳をしているところも奏斗の良いところではあるのかもしれない
「はぁ……まあそういうことにしといてあげる。それより、なんでもいいから美味しい物作って?お腹空いてるからボリューミーな食べ物がいいなぁ」
「じゃあ牛脂のラード和えにする?」
「太らせる気満々じゃん」
♢ ♢ ♢
「報告を聞こうか」
経過報告当日。夕陽だけが明かりを灯す薄暗い部屋で、私は自分の集めた情報を伝えた
「じゃあまずは、えー、加蓮は結婚前より体重が1kg重くなられました」
「……ん?」
「2つ目。加蓮は結婚前より身長が約0.2㎝伸びました」
「……おい」
「3つ目。加蓮の視力が結婚前は右から1.5。1.8だったのに対し、結婚後は右から1.4。1.6に低下しました」
「……おい‼︎」
ボリュームの高い声で叫ばれ、私は報告を中断した
「なんのマネだ?」
「なんのマネ……と言われましても。あなたが期待したようなことは一つもありませんでした。ならば、加蓮の健康状態などを報告した方が良いかと思って」
「……本当に何もないのか?」
「ええ。正直仲が良すぎるから、逆に私もあなたに言われて本当にあなたの睨んだ通りなのかと思ったよ。でも全くそんなことはなくて、ただのラブラブなカップルだったよ」
私は、あの報告はしなかった。確かに元々は偽装だったのかもしれない。でも今の2人の関係は紛れもなく夫婦だと私は感じているからだ。ならわざわざ引き裂くようなことをする必要なんてない。……加蓮に寄り添える男なのだから、文句なんてない
「健康状態が悪くなってるようだが?」
「体重が増えたことは悪いことじゃないよ。加蓮は軽すぎるからね。視力は……歳を重ねたせいじゃない?」
夜中までゲームしてるせいだと思うけど……
「……分かった。もういい」
「あれ?もういいの?奏斗の変化は聞かなくていい?」
「あの男に興味などない。帰っていいぞ」
「私の父との取引はどうするの?」
「……継続だ。ない事を作り上げて報告されるよりは良い」
「……ありがとうございます」
私は自分らしくないことは分かりつつも、加蓮の父親に一礼した後、薄暗い部屋から出た
「……さて、今日のご飯は何かなー?」
私はスキップしながら帰路についた




