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「琴乃は良い子。由比羽は悪い子」



「今日は皆さんには3人1組で肉じゃがを作ってもらいます」



今日は調理実習の日。毎週水曜日に決まって調理実習を行うことが決まっており、今日はその日だった



少子化対策として結婚の法案が改正され、国の教育方針が変わった。中学校からは週に一度、調理実習の時間を取ること。そして、家庭科の授業数も昔に比べて少し増えている



学生婚が認知されてきた中、家事が出来ないとなると暮らしてはいけない。その為、家庭科の授業を増やしているらしい



「では作り方は黒板に書いているので各々始めてください。時間は10時半までに作り終えてください」



時刻は9時。1時間半以内に作り終わらせないといけない



「ふむふむ……じゃあ役割分担から決めますか!」


「は、はい……」


張り切る卯月と、そのノリに少し戸惑う琴乃。私、卯月、琴乃の3人で組むことになった



基本的に好きな人と組むことが許されているのだが、()()()()()()人達は婚約者同士でしか組むことが許されていない



私のクラスの既婚者は12人。4人の男子と8人の女子だ



他の学校は分からないけど、この学校では夫婦同士の人間はクラスが必ず一緒になるようになっているらしい。つまり、一夫ニ妻(いっぷにさい)の夫婦がこのクラスには4組いるのだ



ちなみに彼氏彼女の関係の場合は強制ではない。その為、琴乃と八幡は、一緒に組んだ場合、あと1人がかわいそうという意見が合致して、お互い友達と組むことにしたらしい



……琴乃にとって私はもう、()()()()()()()()()



「じゃあ材料切る係。煮込む係。……味見係?」


「他に思いつかなかったからって味見係はないでしょ……」


「あ、味付け係とかどうかな?」



新たな役目を琴乃が提案した



「いいね!じゃあどれがいい?」


「私は簡単そうな煮込む係でいいや」


「じゃあ私が材料切るね」


「えっ……卯月に味付けさせるの?」



私は一抹の不安を覚えた



「何だよー!文句あるのかー?」


「絶対味覚オンチだもん」


「由比羽は私に対して偏見が凄すぎるんだって!」



ギャーギャーと騒ぐ卯月。耳がなくなりそうになるから無視しよ……



「琴乃は材料持ってきて。私は調理器具取ってくるから」


「うん。分かった」


「ちょっ!なんで2人して無視するの⁉︎」


「む、無視したわけじゃ……」


「私は無視してるけどね」


「琴乃ちゃんは良い子‼︎由比羽は悪い子‼︎」


「はいはい。分かったから卯月も早く作業の手伝いしてよ」



卯月の喚きを宥めることもせず、調理器具を取りに向かった



「えーっと……」



料理は肉じゃが。という事は包丁はあっちに置いてあったから良いとして……まな板……お鍋と一応ボウルも持っていっておこう



お鍋に手を伸ばした瞬間、ゴツゴツとした手と触れてしまった



「……あ」


「あーごめん。どうぞ」



しかもよりにもよって八幡と……



「……言われなくても私の方が先に手を伸ばしてたんだから当然でしょ?」



そしてお鍋を取り、他に必要なものもお鍋の中に放り込んだ



「……ふんっ!」



私は八幡からそっぽを向いて、二人の元へと戻った



「お待たせー。調理器具は持ってきたよ」


「私も材料持ってきた」


「よし。じゃあ……」



琴乃が持ってきた材料を全て卯月の前へ置いた



「はい。切って」


「あっ……結局私に味付けさせてくれないんだ」



卯月はうぅ……と泣きながら野菜を切っていた。玉ねぎのせいで出る涙ではない。私が卯月のことを味覚オンチとからかったせいで、信頼されてないことに涙したのだろう



「……って何その切り方」


「えっ?は、半月切りだけど?」


「半月切り知ってたんだ……」


「だからバカにしすぎなのよ‼︎私だってこれぐらいーー」


「卯月ちゃん。ちょっといい?」



私と卯月のやり取り中に琴乃は割り込んだ



「肉じゃがの時は人参は乱切りの方が人参本来の味が出て美味しいんだ」


「えっ?そうなの?」


「玉ねぎも薄切りだと、食感がほとんどなくなっちゃうから、くし切りにすると良いよ?」



琴乃は切り方にアドバイスを授けた。琴乃はかなりのグルメで、料理に関しての腕はかなりのもの。小学生の頃から、琴乃に食べたい物を頼んでは、レシピも見ることなく作っていた



「へー!琴乃ちゃんよく知ってるね!」


「昔から料理が好きだったから……」


「琴乃ちゃんは絶対良いお嫁さんになれるよ‼︎」



私の眉が、無意識にピクッと動いた。そして琴乃の背後から私は卯月のことをギロっと睨んだ



「ひっ……」


「……?卯月ちゃんどうしたの?」


「へっ?いやなんでもないなんでもない‼︎」



私からとんでもない殺気が出ているのか、卯月の表情がどんどん強張ったものになっていく



「本当に?すごい汗だよ?」


「えっ?あ、あー暑いね‼︎いやー!クーラー効いてる?この部屋」


「まだ少し肌寒いくらいだと思うけど……」



卯月の目線がちょくちょくこちらに向いていた。それを見て察したのか、琴乃は後ろを振り返った



「ん?どうしたの琴乃?」


「ううん……なんでもないよ」



私はいつもの表情に戻っていた



(あ、あの女っ‼︎琴乃ちゃんが振り向くギリギリまで私のことを睨み続けてた……‼︎怖すぎでしょ‼︎)



ガタガタ震える卯月に私はさらに追い討ちをかけることにした



〔次、琴乃にお嫁さんとか言ったら……し・ょ・す!〕



と、口パクで卯月にメッセージを送った。卯月は口パクの内容を理解したようで、頭を縦にブンブンと振っていた


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