「4つ離れてますからね」
長かった夏休みも終盤。今年の夏は特に忙しかった
まだ休み期間に入る前だけど、私自身が結婚したり、買い物で家具見たり、人気ゲームを買うために猛暑の中、並んだり(買えなかったけど)、焼肉食べに行ったり(なぜかあの日の琴乃は異様に優しかったのは何故?)……そして新しい妻が増えたりした
残り短い夏休み。存分に実家に帰ってゴロゴロしていたい……結局買うことが出来たゲームを一日中やり込んでいたい……
……そんな私の希望は、あっさりとなくなった
「お嬢様。到着致しました」
「ありがとう。ここで下ろして下さいな」
真っ黒で長い車体……いわゆるリムジンと呼ばれる車から私達は出てきた
樹咲家の執事が私達をとある場所へと送り届けてくれた
「では、明日の5時にまたお迎えに参ります」
「ええ。お願いしましたわ」
執事は私達を見送った後、リムジンに乗り込み、帰っていった……
「……どこまで来たんだ?」
「私のとっておきの場所ですわ」
今回、ほとんど無理矢理、樹咲に連れてこられた私達。行き先も知らず、ただ言われるままについてきた
一体どこに連れて行かれるのか……
♢ ♢ ♢
「……ここは?」
車から降りて少し歩いた頃、やけに盛り上がる田舎道に入った
「温泉街ですわ。ここ一帯が全部、温泉関連のお店ですの」
「温泉街……?温泉街なんて私達の街にあったっけ?」
こんなに立派な温泉街が地元にあるのなら、私達が知らないはずはないんだけど……
「そりゃ私達の住んでる県からは、4つ離れてますからね」
「4つ⁉︎」
私達は知らぬうちに、県外まで連れてこられたらしい
実は、私が無理矢理連れてこられたと言ったのは、断ったけど、引っ張ってこられたわけじゃなく、目が覚めたらもう既に車に乗って運ばれていたのだ。太一と琴乃も私と同じく寝ている間に連れ去られていた
私が起きてからは30分程しか車に乗ってなかったけど、実際は何時間と乗っていたみたいだ
「まあ私の新婚旅行です。実際太一さんと2人で行きたかったですが、帰って来た時怖いので」
私と琴乃はあくまでおまけ。分かってはいたが、面と向かって言われると少し腹が立つ
「それとはい。これ渡しておきますね」
「……何これ?」
「ここのチケットです。この温泉街は入るのにこのチケットがいるんです。何か買う時とか、温泉に入る時は、このチケットを見せないと入れない様になっています」
遊園地の様なシステムだな……
「あと、何か買うにもお金は必要ありません。1番高いチケットを買ったので。あ、お土産は対象外ですが」
さすがお金持ち……やることなす事ぶっ飛んでるなぁ……
「あ、あとあの1番奥にある建物に今日は泊まります」
温泉街の奥の方に、明らかに一つ異質な豪華さを放つ建物があった
「とりあえず全員自由行動にしましょう。6時になったらあの建物の前で集合……それでどうですか?」
現在朝の11時。約7時間程ある
「……分かったわ」
琴乃が樹咲の言葉に返事を返した
「了承を得られましたね。あ、もう一つ言い忘れていましたが、ここの温泉はどこも混浴有りなので」
余計な爆弾を置いてくれた。狙ってるのか?と言いたくなるぐらい無駄な事を言ってくれやがる……
「じゃあ太一は私が連れてくから」
琴乃は太一の腕をぐいっと引っ張り、太一は自分の物だと主張するような仕草を見せた
「良いですよ。じゃあ私は由比羽さんと行動しますから」
「えっ⁉︎」
私はもちろん、太一と琴乃も驚く様子を見せた。私はてっきり2人で太一の取り合いになるものだとばかり……
「では由比羽さん。行きましょうか」
「あ、え……う、うん……」
「あ、くどいようですが、もう一つ。この温泉街の中心部に大きな足湯スポットがあるのですが、そこにパンフレットがあります。そのパンフレットを見れば、美味しい食べ物の紹介とか、温泉の効能とか見れるので、それを取ってくることをオススメしますわ」
太一と琴乃に、わざわざ温泉街を楽しむ為のワンポイントを教える樹咲
「ではまた後ほど。あまり食べ過ぎると、宿で用意して頂いてる晩ご飯が食べられなくなってしまいますので、ほどほどにお願いしますねー」
「あ、ああ。分かったよ」
太一の返答に笑顔を向け、樹咲は私の腕を引っ張って、2人の元から離れていった……




