「意外と最近浴びてたわ」
「多っ」
体育館内に入ると、人がびっしりと集まっていた。学校の同級生達、親族。私達の時とは人の量が明らかに違っていた
「あの制服……櫛也高校の服?」
「そうそう。樹咲はそこに通ってるからね」
櫛也高校は隣町にある、いわゆるお嬢様学校だ。加蓮に負けず劣らずの名家が集まる、一般生徒では通えない学校だ
確か加蓮は、「お嬢様達とは話が合わないから嫌」といって櫛也への進学をしなかったらしい
……学校の様子見てる限りだと、ウチの高校にいる方が浮いてるように見えるけど
「この全員お金持ちなのね……」
「まあな。わざわざ県外から来る人もいるらしいし、わざわざ引っ越してくる人もいるらしい。それだけお金持ち向きの学校なんじゃないか?」
お金持ち向きの学校とは一体……学食が高級とかだろうか?
考えても頭が痛くなるだけなので、私は考えることをやめた
「それより、私達の席はどこなの?」
「さあ?最後列辺りだと思うけど……俺ら関係者っていってもそんなに繋がりが深いわけじゃないし……」
「でも後ろの列全部埋まってない?」
私達が入場したのはかなり後の方。空席はほとんど見当たらない
「じゃあどこに?」
私は辺りを見渡すと、ある場所に2席だけ置かれた場所があった
「……アレじゃないよね?」
「どれ?……さすがに違うだろ……だって親族より前の席だぞ?」
学校の同級生→学校の教員→招待客→親族→謎の2席という順に並ぶ椅子。親族よりも前に置かれた2つの席。これは余程重要な人物が座るに違いない
そんなまさか私達なわけがない。ありえない
……ありえました
私達の席は親族より前に置かれた2つの席だった
あまりに謎すぎる席に、後ろからヒソヒソと私達のことを話題にし、怪奇の目を向けられていることは、背中越しにでも伝わってきた
視線が刺さる……こんなに視線を浴びたのは、自分の結婚式の時以来だ
……意外と最近に浴びてたわ
そんな痛い視線を浴びていると、突如、体育館の電気が全て消えた。窓にはカーテンが閉まっており、扉も全て閉まっており、真っ暗になった
「新郎新婦……入場」
真っ暗な中、アナウンスが入り、入場口にスポットライトが当たった。そこには真っ白なタキシードに身を包む新郎と、ウェディングドレスに身を包む新婦2人が、新郎を挟むように歩いていた
もう1人の新婦は少しギャルのような雰囲気をしており、新郎も少しヤンチャをしている雰囲気の人だった
太一が好きと語っていた割に、太一とはほとんど真逆に感じるような新郎。聞いた話からしても、もしかすると望んだ結婚ではないのかもしれない
拍手で迎えられる新郎新婦。もう1人の新婦と新郎は笑顔で、樹咲さんはほぼ無表情だった
誰が見てもテンションの差が分かるほど。それほど顔に出ていた
「樹咲のやつ……あんまり嬉しそうじゃないように見えるな……」
太一と樹咲の様子がおかしいことに気がついた様子。私は理由を察しているが、太一には言わないでおこう
私達の横を新郎新婦が横切った。その際、樹咲さんはこちらをチラッと見ていた
私は少し背筋が凍った。何か嫌な予感がしたからだ
新郎新婦は舞台の上に立ち、神父の前で止まった
私達のような代役の人がしてるわけではなく、本物の神父さんが執り行っていた
神父が長々と何かを呟いたのち、私は何度も聞いたセリフが出てきた
「新郎、西見烙。あなたは樹咲 伊津、菅野澄香を妻とし、健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、妻を愛し、敬い、慰め合い、共に助け合い、その命ある限り真心を尽くすことを誓いますか?」
「はい!誓います‼︎」
体育館全域に広がる大きな声で返事をする新郎
「新婦、|樹咲 伊津、菅野 澄香。あなた方は西見 烙を夫とし、健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、夫を愛し、敬い、慰め合い、共に助け合い、その命ある限り真心を尽くすことを誓いますか?」
「……はい。誓います」
……2人の声が聞こえて来ないとおかしいのだが、聞こえてきたのは1人の声だけだった
「……樹咲さん?」
「お、おい伊津……」
壇上で慌てる様子の新郎ともう1人の新婦。その様子に周りもざわつき始めた
「樹咲のやつどうしたんだ?」
「……」
……もしかしたら樹咲さんはこのまま答えを放置し、結婚をなかったことにしようとしているのかもしれない
……なんて考えた私の思考は間違っていた
「……誓いません。私は烙とは結婚出来ません」
体育館内が一気にどよめいた。そして私達は全く予想出来なかった言葉が飛び出した
「そこにいる八幡 太一さんと、私は結婚します」
「……は?」
……私の考えは甘かった。結婚をなかったことにするだけだなんてそんな甘っちょろい事じゃなかった
……私達はまた、面倒ごとに巻き込まれてしまったみたいだ




