「毛虫芋虫団子虫……とカブトムシ」
「わぁぁぁ‼︎ぁぁぁぁぁぁぁ‼︎いやぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎」
「ふふっ。由比羽ちゃんに楽しんでもらえてるようで良かったわ」
「どうみても楽しんでるようには見えないけど……」
琴乃は私が楽しくて叫んでいるように見えているらしい。昔からちょっとその傾向があったとは思ってたけど……最近割増でサイコパス味が上がってる気がする
「はぁ……はぁ……はぁ……」
この場所、虫だらけで蚊もいっぱいいる……虫除けスプレーをしていなければ、明日私の姿はてるてる坊主のような顔になっていただろう
蚊だけじゃない。おそらく蜂もいる。羽音が蚊なんかよりも激しい。ここは危険すぎる……
「こ、琴乃……ここは危なすぎるって……も、戻ろう?ね?」
「え?焼き肉は?」
「も、もう少し頑張るかぁ……」
焼き肉をちらつかされると、帰れない……
「ひぃぃぃ……‼︎む、虫がぁ……」
足の付近に虫がたかる……毛虫芋虫団子虫……色んな虫がうじゃうじゃしている
「こ、琴乃ぉ‼︎土にいる系の虫はいらないの⁉︎」
「うーん、あんまりよくはないかなぁ」
「なら木にひっつく系の虫に一点集中‼︎」
「……虫の種類を生息する地形で呼んでるのね」
私は近くにあった大木のところへと向かった。ここなら何かしら取れるのではないか?私の勘がそう働いていた
「ここなら何かしら……ってうえぇぇぇ‼︎」
大木には大量の……セミがいた
「ひいやぁぁぁぁぁぁ‼︎」
「元気だねぇ。由比羽ちゃんってば、そんなにセミが好きだったんだ」
「琴乃……由比羽はビビってるんだと思うよ……」
太一の言う通り、私はセミにビビっている。この世で1番嫌いな虫。Gも嫌いだが、セミも嫌い。同列。イコールだ
「……帰りたい。……でも」
ものすごく帰りたい。今すぐ帰りたい。他人の結婚式に参加させられる時よりも帰りたい
……でも焼き肉食べたい……美味しい焼き肉が食べたい……
私の天秤は、帰りたいか、焼き肉かの二つが乗っている。この二つが今、同じ重さで乗っている状態だ
「……もうちょっとだけ粘ろ」
私は違う木に向けて歩みを進めた
♢ ♢ ♢
さて、さっきよりもさらに大きな大木を見つけた。大きければ良いってものでもないだろうけど、悪い訳でもないはず
私はぐるっと大木の周りを一周した。すると……
「……あれって」
私の手の届く範囲のところに真っ黒の物体が引っ付いていた。Gではない。あれは確実にカブトムシだ
「こ、琴乃ー!太一‼︎こっち来てー!」
まだ下の方にいた二人を大声で呼び出した
「由比羽ちゃん。いたの?」
「いた!多分カブトムシだと思う‼︎」
私はカブトムシの方に指差した
「あー、確かにあれはカブトムシだな。種族までは分からんが」
「でしょ‼︎ほら太一!早く取って!」
「分かった‼︎」
太一がカブトムシに手を伸ばし、捕まえようとした瞬間ーー
「待って」
と、琴乃から待ったの一声が入った
「ど、どうしたの?なんでとめるの?」
「……由比羽ちゃん。自分で取ってみよ?」
「……え?ちょっと何言ってるか分からない」
「だから……虫、触ってみよ?」
……鬼だ。サイコパスだ
「………………」
私は無言で後退りしていた
「ダーメ。逃げちゃダメ」
腰を抜かしながらなんとか後退りする私の腕を掴む琴乃
「虫に慣れないと。これからもっと取る予定なんだから。ね?だから慣れておかないと困るでしょ?」
「な、な、な、慣れなくて良い‼︎私は見つける係に徹するから‼︎太一か琴乃が取ってくれれば良いじゃん‼︎」
「それだと効率悪いでしょ?だからファイトだよ!」
……ダメだ。もう逃げられない。私はこの場から逃げ去る選択肢を閉ざされたのだ
華奢な身体をしている琴乃。でもその細腕からは想像も出来ないほどのパワーがある。私の手首を握り潰すことも、もしかしたら容易い程に……
歯向かえない……琴乃が私に対して何かするとは考えにくい。でも……そう分かっていてももう退路はない
万が一を考えた時、私は本当に病院に搬送されるかもしれないからだ
「……分かった」
「うんうん。やっぱり由比羽ちゃんは良い子だね」
琴乃の後押しもあり、私はカブトムシと対峙することになった(なってしまった)
本当に触りたくない……でもやらなきゃ殺される……(低確率で)
私はカブトムシに手を伸ばした
どんどん近づく手……私の手はカブトムシの背中を捉えかけていた
つるっ……ぴとっ
「……あ、由比羽ちゃんの顔に」
「……………」
「あ、あれ?ゆ、由比羽ー?由比羽ー⁉︎由比羽ー‼︎」
硬直する由比羽ちゃん……多分……気絶してる
「由比羽ー‼︎お前無茶してぇ‼︎」
太一は由比羽ちゃんの顔に乗ったカブトムシを退けた
「め、目が死んでる‼︎こ、琴乃!とりあえず由比羽を家まで運ぶぞ!」
「う、うん!」
さすがにちょっとやりすぎちゃった……由比羽ちゃんには後でちゃんと謝ろう……
♢ ♢ ♢
その後ーー
由比羽ちゃんは目を覚ました時には、今日起こった出来事全てを忘れていた。丸一日寝てたと思っていたようで、「今日、琴乃の言ってたお金稼ぎに出るはずだったのにごめん‼︎」と謝られてしまった
……さすがに罪悪感でいっぱいだった私は、少し奮発して、由比羽ちゃんの大好きな焼き肉に連れて行ったのだった




