「目的は……」
「……とうとう来たね」
「……暑っつい……」
雲一つない晴天。強い日差し。こんな時に行く場所といえば決まっている
ーーそう!海……ではない
残念。海になんて行かない。……理由?挙げるとすれば3つほどある
1つ目。そもそも近場に海がないから
私達の住む街は、いわゆる内陸県と呼ばれる場所だ。その為、海に行くとなると、県を越えないといけない。わざわざ海に行くためだけに遠出するのは嫌。プールで十分
2つ目。あんな露出の高い衣装を着たくないから
あんなのほとんど下着と同一。知らない人とかの前で、あの姿になるのは私には無理だ
3つ目。行く相手がいないから
琴乃と太一と行けば良いのでは?と思うかもしれないが、前から言っているように、私は極力、2人には介入しないことにしている。というか今、2人は絶賛プールデート中だ
日帰りで海に行っている。琴乃の夢だった、海でのデートは現在進行形で叶えられている。琴乃と太一は、私も一緒にどう?と誘ってくれたけど、介入しない+もう一つやることがあったので断った
文句を言うならば、琴乃の水着姿を、他の人間に見せることになる点だけは不満だった
さて、海でないというなら、どこにいるというのか?そして誰といるというのか?答えは簡単
私達は今、ゲーム売り場の前に並んでいた
超人気ゲームの最新作が今日発売される。私もそれが目当てで並んでいた。一応、開店の2時間前に来てみたら、長蛇の列。この辺りでこんなに人が並ぶような事は滅多にない
それほど期待値が高く、前評判の良いゲームというわけだ
さて、誰と並んでいるかというと、それはもちろんゲーム好きの奏斗……ではない
奏斗は基本的に新作ゲームは買わない。安くなってから買うタイプの人間だ
今日私と一緒にいるのは、卯月だ
特にゲームは好きでもない卯月。ついてきた理由は「暇だったから」。単純明快な理由だ
「……まだー?まだ開かないのぉー?」
「……あと10分ぐらいだから我慢して!」
「まだあと10分もあるのぉ⁉︎」
ただ待つだけの時間は長く感じる。2時間待った中でのあと10分。こう聞けばもうすぐだと感じるかもしれないが、この猛暑の中で、ただひたすら待つだけの時間を過ごすのに、10分は長い
「……喉渇いたぁ……」
持ってきていた水分は底をついていた
「ジュース買ってきなよ?」
「歩くのしんどい……」
「じゃあ私が買ってきてあげるから、ここで並んでおいてよ?」
「うえーい」
覇気のない声で返事をする卯月。なんでついてきたんだか……
♢ ♢ ♢
「ジュースジュース……って嘘でしょ?」
1番近くの自販機の前まできたのだが、まさかの全て売り切れ……普段売り切れてるところを見ないような飲み物も、売り切れになっていた
「仕方ない……もう一つの方行ってみよう……」
♢ ♢ ♢
「……マジかぁ」
少し歩いたところにある自販機の前まで来た。だが、ここも全て売り切れ。こんな暑い時期にホットで入ってるコーヒーの缶でさえも売り切れていた
「暑さ深刻なんだなぁ……」
最近の温暖化の深刻さをひしひしと感じつつ、成果を得られないまま、列に戻ることにした
♢ ♢ ♢
「ただいま」
「うーん。いってらっしゃい」
「間違えてるぞー」
熱中症なのか、卯月がだいぶボケ始めてる……どうしよう……このままほっておくわけにないかないし……
……あんまり人様に飲ませるつもりじゃなかったけど、背に腹は変えられない
私は、自分の鞄から取り出したコップ付きの水筒を渡した
「ん。これ飲んで」
「わー。ありがとー」
と、言葉はノロノロだが、水筒を開ける手は尋常ではない速さだった
「ゴクッ……んっ……んんっ‼︎んんんんんんんんんんんっ⁉︎」
卯月は悶える様子を浮かべながら、口からコップを離した
「何これ酸っぱ‼︎」
顔を歪める琴乃。眉間にシワがよって、酸っぱそうにしている
「えー。人から飲み物貰った挙句に文句言うの?」
「あ、いや助かるんだけどさ……酸っぱすぎない?」
「そりゃそうだよ。レモン100%ジュースなんだから」
「レモン100%⁉︎」
大抵何かと割って飲む用のレモン100%のジュース。砂糖を入れる人もいれば、蜂蜜、甘い炭酸水、オレンジジュースなど、甘い物を入れて美味しくする飲み物をそのまま飲んだのだ
ちなみにこのレモン100%ジュースは最近の私のお気に入り。昔から酸っぱい物が好物で、この酸っぱさは私にとってはちょうど良かった
ただ、お母さんだったり、親戚からは異常だと言われたので、人様にあげたりしてなかったのだけど、今回は仕方ない。熱中症になりそうな卯月の為だ。正直、この反応も想定内だ
「そりゃ酸っぱいわけだよ……」
「それ以外飲み物ないから我慢して飲みな」
「うぅっ……」
命の危機と天秤にかけ、さすがに飲んだ方がマシと判断したのだろう。コップ一杯に注ぎ、一気に飲み干した
「頭おかしなるで……」
「私はいつもこれで飲んでるんだから、おかしくなるわけないでしょ?」
「あっ……これ飲んでるから由比羽の頭はおかしーー」
「んー?何か言ったかなぁ?」
「お、お、おかしいほど賢いんだなあ‼︎」
「あ、分かっちゃった?私の賢い理由分かっちゃったかー」
汗がダラダラの卯月。その汗は暑さから来たものだけではない事は私にも分かった
と、ここで店のシャッターが開いた
「うお!なんだこの行列は⁉︎」
店主もこの行列に驚きを隠さないでいた
「何かあったのか?」
「今日はアレの新作の発売日じゃないですか‼︎」
店主の言葉に、すかさず列の先頭に並んでいた若い男が店主の疑問に答えた
「アレ?ああアレか……あれならうちでは仕入れてないぞ?」
店主の一言に、その場は静まり返った……そして、並んでいた人達は静かにその場から離れていった……
「めっちゃ無駄な時間だったじゃん……由比羽ー。暇になったんだし、服見にいこー……ってあれ?」
さっきまで隣にいたはずの由比羽が見当たらない
「もう!私を置いて先に帰るなぁ‼︎」
私は、由比羽の跡を暑い中、猛ダッシュで追いかけた……




