「あなたが居なくなった日から」
……私だって、好きな男の子ぐらいいた。……ただずっとずっと昔の話
……今?今はいない。……多分ね
……私は結婚する。好きな人はいないのに?って思うかもだけど、結婚する
相手?相手は私の親友の彼氏。……寝とったのかって?そんな訳ない。その親友と共にその男の妻になるの
……そう。この世界は重婚が出来るようになったの……重婚しか出来ないの……
……覚えてるかな?私の親友の琴乃。……結婚したいって言っててね。でも、もう1人が見つからないと結婚が出来ないからって、結婚しないまま時間が過ぎてたんだけど、もう1人が見つからないなら、私がなってあげようって思って……私がもう1人の妻になったよ
だから見てて。私の結婚式を……
辛くなんてないよ。……嘘。本当は辛い……
あなたが居なくなった日から……ずっとね
♢ ♢ ♢
扉が開いた
暑い中窓を開け、扇風機を何台も回し、涼しい環境を整えてくれている
たくさんの人が私達を見てる。全生徒がこっちに視線を向けている
隣にいるのは父親じゃない。琴乃と2人で、太一の待つ場所まで歩いて行かなければならない。大勢の目を潜って
……恥ずかしい。注目されるのは好きじゃない。琴乃も同様だろうけど……でも仕方ない。だって……
この儀式の主人公は……私達だから
生徒の座る場所を超え、次は親族達の横を潜った
私の母に琴乃の両親。そして叔父と叔母。太一の両親とその叔父。そして、なぜか夏下さんも来ていた
私の母は泣いている。嬉し泣きだろう
「……めっちゃ恥ずかしかった」
「私も……」
「……待ってた俺もかなり恥ずかしかったからな」
私達は壇上で待っていた太一と合流した
神父はお金の都合上、わざわざ呼び出せないので、校長先生が務めてくれている。本当に神父の人がするような、真っ黒な衣装を身に纏っていた
「新郎、八幡 太一。あなたは夜須加琴乃。姉妹 由比羽を妻とし、健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、妻を愛し、敬い、慰め合い、共に助け合い、その命ある限り真心を尽くすことを誓いますか?」
一度私の方をチラッと見る太一
……あれだけ問題ないって言っておいたのに……まだ心配してるなんてね
私はそっと頷いて見せた
「……はい。誓います」
本当に……心配性すぎるでしょ
「新婦、夜須加 琴乃。及び、姉妹 由比羽。あなた達は比呂 奏斗を夫とし、健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、妻を愛し、敬い、慰め合い、共に助け合い、その命ある限り真心を尽くすことを誓いますか?」
琴乃もまた、私の方をチラッと見た
揃いも揃って本当に……
私は琴乃に笑顔を向け、そして頷いて見せた
「「はい。誓います」」
と、ここで拍手が巻き起こった。普通の結婚式なら静かにしている場面だが、そんなことまで理解している高校生の方が少ない。生徒達は心からの祝福の拍手を送ってくれた
そして先生も私たちの親族も全員が拍手を送ってくれた
……奏斗も拍手を送ってくれた
拍手が鳴り止み、そして神父が静かになるのを待っていたかのように、静寂に戻った瞬間に喋り始めた
「……では、誓いのキスを」
……きた。一番の羞恥ポイント
「……琴乃。先にどうぞ」
「え、ええっ⁉︎わ、私からなの‼︎」
「当たり前じゃん。私が先にしてどうすんのさ」
顔を真っ赤にする琴乃。ただ顔を赤くしてるのは琴乃だけじゃない。私も、太一も同様だ
「うぅ……わ、分かった……」
琴乃は意を決したかのように、一歩前に出た
「は、恥ずかしいぃ……」
「……だな。でも、しなくちゃいけないことは分かってたんだし、腹くくれ」
「う、うん……」
後ろから見ても、琴乃が緊張で肩がプルプルと震えているのが分かった
……私はとりあえず目を逸らした。元々結婚反対派の私だ。親友が男とキスをするシーンなんて見たくない
「んんっ……」
「んっ……」
2人の溢れる声が聞こえる。おそらく今、誓いのキスをしてる……
生徒達のキャー!という声が聞こえる。主に女の子の
多分目の前でキスするシーンを見て、興奮しているのだろう
「……次。由比羽ちゃんだよ?」
「え、ええ……って顔から火が噴きそうなぐらい赤いけど……」
「恥ずかし過ぎたの……察して……」
琴乃と変わり、私が一歩前へと出た
「……由比羽。どうしようか?」
「……どうするって?」
「お前……俺とキスなんてしたくないだろ?だから皆んなに見えない角度でキスするフリでもしてーーんっ⁉︎」
……そんなことしなくてもいい
「んんっ……うっ……んん……」
確かに好きでもない。嫌いでもない
「んんっ……はぁっ……はあ……お、お前っ!キ、キスして……⁉︎」
……でも
「私の夫でもあるんだから、一度くらいしておかないとね」




