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「私史上最高の出来」



文化部をいくつか見回り、次は美術部の見学に向かうことになった



「琴乃って絵が上手いし、美術部とかピッタリなんじゃない?」


「でも、正直家でも描こうと思えば描けるし、一人の方が集中出来るから」



琴乃は運動能力が、手先の器用さに吸い取られているのでは?と思ってしまうぐらいなんでも出来る。字も綺麗。絵も上手。裁縫も得意。女性として入り用な技術に関しては完璧に近いと思う



「とりあえず入ってみよ!」


「あっ!ちょっと!」



私は琴乃の腕を引っ張って、美術室の扉を開けた



「ーーじゃあ一度、二人でお互いの似顔絵を描いてみましょうか」



琴乃と対面に座らされ、スケッチブックとペンを渡された



「相手の特徴を捉えると、上手く描けますよ」



特徴……特徴か。綺麗な髪?目?鼻?口?……特徴が多すぎてどれに観点を当てたらいいのか分からない……



「あーねーもーさん!」


「うわっ‼︎」


「さっきぶりだね!」



……誰だろう。さっきぶり?



「あ、もしかして誰か分かってないでしょ?」


「ご……ごめん……」


「自己紹介もしたのになぁ」


「えっ?自己紹介なんてしてた?」


「あっ……そういえば姉妹さん。寝てて起きないからって順番飛ばされてたね」



どうやら1時間目に、クラス全員が一人一人前に出て自己紹介したらしい。……寝てたからといって順番飛ばすのはどうかと思うんだけど……まあ寝てた私が悪いんだけど……



「じゃあ改めて……私は卯月(うづき) 境科(きょうか)!姉妹さんの後ろの席だよ!よろしくね!」


「よろしく。……って私もちゃんと描かないと……」


「あっ、邪魔しちゃったね。完成したらまた見に来るね!」



……卯月 境科。珍しい苗字……私が言えたことじゃないけど……



などと考えながら、私はスケッチブックに琴乃を描き始めた。琴乃の美しさを表現するのは難しいけど、私なりに頑張って描いてみよう



「ーー出来た!」


「私も出来たよ」



時計を見ると、描き始めてから1時間近く経っていた。集中してたおかげで、体感ではまだ10分程度しか経っていなかった



「では、お互いのスケッチブックを交換しましょうか」



私は自分の描いた絵を琴乃に渡した。我ながら上手に描けていると思う



「……すごっ。完全に私じゃん……」



琴乃から渡された絵は写真かと思ってしまうほどのクオリティだった



「うわっすご!30分だけでこのクオリティ⁉︎」



事細かに線が入り、色彩、影など、とてもではないが30分で描き上げた絵には見えなかった



「琴乃ありがとう!この絵貰っていいかな?」


「う、うん……」



なぜか琴乃の様子がおかしい……表情が引きつってるような……



「あ、姉妹さんの絵は……ってぷははっ‼︎」



卯月は盛大に地べたを転げ回るように笑っている



「な、なんで笑うのさ⁉︎」


「あー、いやごめんごめん!まさか棒人間だと思ってなくてさぁ」



ぼ、棒人間……え?私の絵ってそんなに酷く見えてるの?



「まん丸の顔にまん丸な目。三角の鼻に円弧の口。棒の身体に数本の髪って……まだ小学生が五分で描き上げた方がマシな絵だよ」



さっき知り合ったばっかりの人に酷評されるほどのものなのか……おかしい……私史上最高の出来だったのに……



「で、でも特徴捉えてるもん!胸大きく描いたもん!」


「そ、そうだね……棒の横に大きな丸が二つ並んでるね……」



卯月はかわいそうな人を見る憐れみの目を私に向けた。すごい……自信作を否定されるとすっごい傷つく……



「……ありがとう由比羽ちゃん。私もこの絵、貰っていいかな?」


「えっ?い、いいけど……棒人間だけどいいの?」


「姉妹さんも棒人間って自覚あったんじゃん」


「う、うるさい!棒人間棒人間ってバカにするからでしょ⁉︎」



人の指摘って怖い……本当に指摘されたものにしか見えなくなってくるから。さっきまでは上手くできたと思ってたけど、今はもう棒人間にしか見えない……



「由比羽ちゃんが私を描いてくれたことが嬉しいの……だから、大事に部屋に飾りたいの!」


「琴乃……分かった。私も琴乃から貰った絵、大事に飾るよ」


「ありがとう!額縁に入れて飾るからね!」



琴乃は私の描いた絵をスケッチブックから外し、筒状に綺麗にまとめてカバンの中にしまった



「……娘からもらった絵って勘違いされそうだね」


「……怒るよ?」



♢ ♢ ♢



ーー色々な部活を見て回り、私達は帰路についていた。琴乃は手先の器用さからか、文化部全てから「ぜひ入部してほしい!」と勧誘を受けた



「どこか良い部活見つかった?」


「どれも面白かったよ。運動部も全然ダメだったけど楽しかった!」


「そう……」



部活に入ることは良いことだと思う。でも、私は部活に入る気はない。例え琴乃の誘いであっても断るつもりでいる



……でもそうなると今みたいに一緒に帰ることが出来なくなる。だから私は寂しいのかもしれない……



「……でもね、どれも楽しかったけど、それは由比羽ちゃんが一緒にいてくれたからだと思うの」


「きゅ、急に恥ずかしいこと言わないでよ!」


「ふふっ……でも本当にそう思うんだもん」



自分の顔が赤くなっているのが分かる……琴乃ってこういうこと平気でいるからずるいよ……



「だから部活には入らないことにしたの。これまで通り、一緒に帰ろうね!」


「……言われなくてもそのつもりだっての!」



この時の私は、琴乃と今の関係がずっと続くと思ってた



ーーでもそれは……唐突に終わりを告げることになった

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