「天使だよ天使ー!」
「失礼しまーす……」
私はとある用事で、とある病院のとある病室に訪れていた
「あっ!由比羽ー!」
病室に訪れる用事なんてお見舞いしかない。私はベットに寝転がる友達のお見舞いに来ていた
彼女の名前は識見 亜弥。高校1年生の頃の同じクラスで、現在は別のクラスだ
そんな彼女のお見舞いに来た理由……言いにくいが、彼女はもう長くない……
なんてことはなく、病気や怪我をしたわけじゃない。なんならもうすぐ退院するそうだ
「来てくれてありがとね!」
「ううん。タクシー代さえ出してくれれば大丈夫」
「はい友達辞めまーす」
「冗談だって」
私はベットに横たわる彼女の横に座った
「気分は?調子とかどうなの?」
「快調だよー。しばらくお腹が大きくなってたから、へっこんでる感覚が少し慣れないぐらいかな?」
そう。亜弥は妊娠していた。学生婚をし、そしてもう1人の妻と共に子供を身篭り、先週生まれたばかりだ
「子供は?」
「今は別室にいるよ」
「……可愛い?」
「そりゃもちろん!天使だよ天使!」
嬉しそうな表情を浮かべる亜弥
「そっか」
「なに?由比羽も子供欲しくなった?」
「……いらないよ」
「ふーん。まあ相手が見つからないと始まらないもんねー」
亜弥も私の男嫌いを知っている。ただ、嫌っている理由は知らない
「それで?男の子?女の子?」
「男の子。もう1人の方が2週間前に女の子を産んだわ」
「いきなり2人も増えるんだ……」
「ええ。騒がしくなるわ」
けど嫌そうな顔を浮かべることはない亜弥。自分の子供が嬉しいのはもちろんだけど、もう1人の妻が産んだ子供に対しても、喜んでいるようだった
「……いきなり子供なんて育てられるの?」
私は率直な疑問を、亜弥にぶつけた
「いきなりなんかじゃないわ。お腹にいた時から準備はしてたもの。それに、育てられるの?じゃないわ。育てないといけないの」
亜弥の言葉には、その言葉に対しての信憑性。決意、そして覚悟が感じられた
……本当に私と同い年なのか?そう疑ってしまうくらい、しっかりとした芯が、亜弥にはあった
「……なんか変わったね」
「変わったかな?」
「うん。初めて喋った時は、面倒くさがりで、他人を馬鹿にして遊んでそうなイメージだったのに」
「そんなイメージだったの⁉︎」
病室で大声を出し、同室の人からの目線が集まった。だが、私は気にせずに続けた
「でも今は違う。しっかり者で、責任感を持つ。そんな母親になったと思う」
「……まだまだ母親になんてなれてないよ。これから何十年もかけて、この子の母親になっていくんだから」
今の言葉に、私は亜弥が良い母親になれると確信した
「……そっか。頑張りなよ?」
「うん!」
今日一の笑顔が出た。と、ここで病室の扉が開いた
「失礼します」
「あっ!琴乃ちゃん!」
現れたのは、缶のリンゴジュースを持った琴乃だった
「はい亜弥。リンゴジュースね」
「ありがとー!」
「身体の調子はどう?」
「もうバッチリ!今すぐにでも学校に行けるよ!」
元気アピールをする亜弥。確かに不調そうには見えない
「ダメだよ。ゆっくり身体休めないとね」
と、そっと亜弥の身体を押さえつけ、ベッドに寝かせた
「琴乃ったら、来るなら言ってくれればいいのに」
「由比羽ちゃんが行くって知らなかったから……」
「それもそうだね……」
「そもそも由比羽ちゃんがお見舞いに行くなんて思ってなかったから」
「あ!それ私も思った!どういう風の吹き回しなんだ⁉︎って入ってきた時に思ったよ」
「色々あったの。色々ね」
なんて言葉を濁すが、実際はただ暇だったから来ただけだった
「あ、そういえば琴乃ちゃん!彼氏出来たんだって?」
「う、うん。よく知ってたね?」
「友達に聞いたんだー。相手は誰?」
「……太一くん」
「へー!ちょっと意外!」
目を大きくさせる亜弥
「でも確かにちゃんと見れば太一くんはカッコいいもんね!」
「うん。カッコいいと思う」
亜弥はどうやら琴乃が八幡の顔がカッコいいから好きになったと思っているらしい
ただ、私は琴乃が八幡のことを好きな理由を知っているし、その好きになった理由を実際に見たことがある
「結婚はしないの?」
「うーん……わからないけど、多分しないかなぁ」
「なんで?好きなら結婚するべきじゃん!」
と、既婚者の亜弥は琴乃に結婚を薦めた
「今は学生婚にも手厚い保証とかあるし、結婚へのハードルはかなり低くなってるんだし!」
「確かにそうなんだけどね……」
「何か出来ない理由があるの?」
琴乃は亜弥の問いに答えた
「も《・》う1人がいないことかな」
もう1人というのは、もう1人の妻になってくれる人がいないということだ
「あーその問題があるのかー。私らの時はなかったから忘れてたけど、確かにハードルの高い問題だねー」
確かにハードルの高い問題だ。だが、逆にいえばそこさえクリア出来れば、琴乃はもう結婚しても良いと思っているということだ
私はどんどん琴乃が遠くに行っていることに……私から離れていっていることに気がついていた……




