「愛には色々ある」
「高っ……」
私は今、地面よりも雲の方が近い場所にいた。とある高層ビルにある、その最上階のレストランにやってきていた
大きなガラス張りの壁の近くに座り、景色を堪能していた。ただ、夜に予約が取れなかったらしく、お昼の景色だが、それでも壮観だった
「見てこの景色……君のために用意したんだ」
男は……確か田原 盛夫という名前だったはず……資料にそう書いてあったと思う
その盛夫は本当の彼女である実乃さんに自慢げに言っていた。もちろん私の方に目を向けることもなく、私に向けての言葉でもないことは理解していた
「あ、そう。まあ高いわね」
と、どうでもよさそうに返答する実乃さん。レストランの内装、他テーブルに置かれている料理、お酒。そしてここら一帯で1番高いビルの最上階……それを見る限り、かなり高い店なのは間違いない
それでこの実乃さんの冷たい反応……これは盛夫も怒ってーー
「喜んでくれてるようで良かった‼︎」
喜んでいるように見えるのか……私には興味がないようにしか見えないんだが……この人の目はもうダメかもしれない。とりあえず別れ際に眼科に行くことだけおすすめしておこう……
「お待たせしました……こちら、前菜の彩り魚介のカルパッチョです」
私の目の前に見たこともないような料理が並べられた
……これは料理なのか?こんなオシャレな料理ある?
私の人生史上、最高の高級料理なことに間違いはなかった。……まあ前菜で超えたんだから、これからずっと更新されていくんだろうけど……
「……美味しそう」
と、思わず口に出てしまった……
「何これ?不味そうね」
私の耳に信じられない言葉が聞こえた。不味そう?これが?
実乃さんは料理を一瞬だけ見て、料理の感想を述べると、そのまま携帯をいじり直し、料理に手を伸ばす素振りを見せない
……この料理が不味そうに見えるとは……よほど今まで世界レベルの高級料理しか食べてこなかったのだろう
「あ、あはは……これも美味しくなさそうかい?なら僕が食べるね」
と、実乃さんの前に置かれた料理も自分の前に置き、実乃さんの分の料理分も食す盛夫
ーーその後も料理が運ばれてきては「不味そう」「臭そう」「雑草みたい」などなど、店の人が聞いたら追い出されそうな言葉ばかり言い放ち、結局メインディッシュも運ばれてきたが、全てに手をつけることはなかった
その分、盛夫が実乃さんの分まで平らげていた。……盛夫が太っている理由が分かった気がした
私はというと、本当に喋りかけられることもなく、ただただ空気状態。運ばれてくる高級料理に目を輝かせ、味をを堪能していた
美味しいもの食べるだけの仕事で多額のお給料が入る……こんなに良いバイトはない
「お待たせしました。複数際専用サービスのプリンアラモードです」
今回私を依頼した理由であるデザート。『プリンアラモード』。なるほど……確かに美味しそうだ
私が手をつけようとすると、私の前から忽然と姿を消したプリンアラモード
「えっ⁉︎あ、あれ⁉︎」
突然のことに驚いていると、私の前にあったプリンアラモードは実乃さんの元にあり、そして2つはもう既に空になっていた
そして奪い取ったことに対して文句を言う前に、実乃さんは全て平らげてしまった
「ご馳走様」
悪びれる様子もなく、また携帯を弄り始める実乃さん……いや、このクソアマ。食べ物の恨みは怖いって言うけど、その言葉は本当だった……
「喜んでくれてるようで良かった‼︎」
確かにこれは喜んでたんだろうけど……
結局、この二人がまともに会話している所はほとんどなく、クソアマはずっと携帯を弄り、男は返ってきもしない話をずっとクソアマに向けて話していた
……正直、付き合ってるなんていえない関係だと思う。私の予想だけど、男の方は本当に彼女が自分のことを好いていると思っていて、女の方は男の金目当てで付き合っている……そうにしか私には見えなかった
♢ ♢ ♢
「今日は付き合ってくれてありがとう。君のおかげでサービスのデザートが味わえたよ」
あんた食べてなかったけどね……
「いえ、こちらも依頼して頂き、ありがとうございます。またのご利用をお待ちしておりますね」
一応、形だけでも宣伝をしておけと言われたので、本当に形だけの宣伝をした
「うん。また利用させてもらうよ。それじゃあ、僕はこの後少し行かないといけないところがあるから。姉妹さん。実乃。今日はありがとう。楽しかったよ」
手を振りながら、少し小走りで去っていく盛夫……楽しいことなんてほとんどなかっただろうに……
依頼を達成し終え、私も終了の報告だけしに希さんの事務所に行かないといけない
……の前に、一つだけ聞いておこう
「あの!実乃さん!」
もう既に歩いて立ち去ろうとしていた実乃さんを引き止め、私は問いた
「なんで盛夫さんと付き合ってるんですか?」
振り向くこともなく、実乃さんは問いを返した
「お金持ちだから。それだけ」
予想した通りの返答が返ってきた
「……本当にそうなんですか?」
「ええ」
「本当にそれだけで、付き合ってるんですか?」
私は疑っていた。愛もなく、ただお金の為だけに付き合っているだなんてことはないと……
「……あなたはまだ若いから分からないだけよ。世の中、愛には色々あるの。お金持ちであれば私は誰だって良いの。これも一つの愛の形なのよ」
止まっていた足を再び動かし、実乃さんは去っていった……
「……愛には色々ある……か……」
私は今回の2人を見て、思っていたことが確信に変わりつつあった
……やっぱり私は……愛なんていらない




