「食べ物の怨みは怖いことを教えてやる‼︎」
奏斗が結婚してから数日が経った。私にとって奏斗は男として見てないから、誰かと結婚したって、これからも代わり映えのしない友達という関係のままだと思っていた
実際問題、友達という関係は変わっていない。今でも話すし、ゲームを貸してあげたりする
ただ一つ変わったことがあるとすれば……
「由比羽……あんたも奏斗くんみたいに良い人見つけて結婚しなさいよ」
と、母親から諭される日々になったことだ
「……いつも言ってるけど、結婚なんてしない。私が男の人苦手なの知ってるでしょ?」
「知ってるわよー。あんたがおじさんに痴漢されて、反撃して腕折って警察に「正当防衛ですが、やりすぎです」って怒られたことがあるぐらいだからね」
「触ってくる方が悪いし」
中学生の頃、通学に電車を利用していた私。ある日の朝の電車で、上の髪がないなったおっさんにお尻を触られかけた。スカートに手を触れた瞬間に腕を振り払い、その手に本気のチョップを喰らわせてやったのだ
結果、腕は骨折。電車内は痛みに悶えるおじさんの声が響いた
「やりすぎなの。一歩間違えたら傷害罪よ?」
「あんなおっさんに触れられて腕折っちゃいけないぐらいなら、犯罪者になった方がマシよ」
本当は悪さする腕ごとちょん切ってやりたかったけど……
「……あんたの男嫌いさは異常ね」
母は頭を押さえて、悩んでいる様子だった
「……私はお母さんが男嫌いじゃないことの方がびっくりだよ」
「……そうかしら?」
「私が男嫌いな理由は、お母さんも嫌いになる理由と同じはずだけど?」
「……私は嫌いにならなかったのよ。全員が全員。あの人と一緒だなんて思わないで」
……そんなことは言われなくたって分かっていた。それでも……どうしても私は男は全員あの人と同じだと思ってしまう……
「とにかく結婚なさいよ。あんた私に似て顔だけは良いんだから」
「自分のことを顔が良いっていうのはやめた方がいいと思うよ?」
実際、顔が良いので自信を持っているんだろうけど……
「今からでも奏斗くんの所に加えてもらったら?今の時代、9人まで大丈夫なんだから」
「い・や・だ‼︎」
「強情ねえ……」
「これで強情扱いされたくない!」
うーんと悩む表情を見せる母
「そもそもなんでそんなに結婚させたいのさ?」
私はずっと疑問だったことを母に聞いた
「え?だってあなたが家を離れれば、家事の量が減るじゃない?」
「自分の為かい!」
少しでも私のことを思ってくれているのかと勘違いした私がバカだった
「冗談冗談。そんなことは思ってないわ」
「じゃあ何よ?」
「内緒ー」
「あーもう怒った」
結局自分の考えを明かさないことに腹を立てた私は食器棚からスプーンを取り出し、冷蔵庫からとあるものを出した
「そ、それは私が買ってきた毎日数量限定の贅沢プリン⁉︎い、いつの間に買って……」
「奏斗がこの前の結婚式でお世話になったからって私にくれたのよ。お母さんにあげるつもりで置いてたけどもう良いもんね!」
私はスプーンを黄色く光り輝くプリンに刺し、掬い上げ、そして頬張った
「あー‼︎私のプリンがぁ‼︎」
「あー美味し!絶対的絶好絶妙絶叫レベルで美味しいわぁ!」
適当な単語を並べて美味しさをアピールした。実際、かなり美味しい
目の前で自身の大好物であるプリンを食べられ、机に項垂れる母。だが、急にむくっと力強く立ち上がり……
「もう私も怒ったからね!あんたを勝手に出会い系サイトに登録してやるんだから!」
「待ってそれは冗談抜きでマジでヤバイ‼︎」
と、私は携帯を取り出す母親を必死に取り押さえた
「離せぇ‼︎」
「離すわけないでしょ⁉︎大体実の娘を出会い系サイトに登録するとかバカなの⁉︎」
「うるさい!食べ物の怨みは怖いことを教えてやる‼︎」
暴れる母。必死に抑える私。私より力のある母は私の制止を振り解き、携帯に手をかけた
「ま、待って!ウソ!ウソだから!今のは私の分を食べただけだから‼︎」
母の手が止まった
「……4つ買ってきて貰ってるから。あとは全部あげるから」
そういうと母は正気を取り戻したのか、ものすごい笑顔で
「しょうがないわねー!許してあげるわ!」
と言い、機嫌が治ったようだ
……これからもなるべく怒らせないようにしよ
昔から怒ったら手がつけられないことは知っていたけど、まさか娘を出会い系サイトに登録しようとまでするとは思っていなかった
「美味しー!」
「っていつのまにプリン持って来てたの⁉︎」
いつの間にかスプーンを片手にプリンを頬張る母。すごい早技だ
まあ何にしても機嫌も戻せたし、結婚の話題を逸らすことも出来た……結果としては上じょーー
「あ、やっぱり一個食べられて腹立ったから後で出会い系登録しとくわね」
「絶対やめて‼︎」
しばらく母から目を離さないでいよう……




