「ケースバイケース」
「へえ!もう小学五年生かぁ」
「うん!大きくなったでしょ?」
「本当にね。たくさん成長したんだね」
一つの机に、私、そして琴乃と光太郎が向かい合う形で座っていた
「それで、琴乃は何しに来たの?」
「あ、うん。期末の勉強を教えてもらおうと思って……」
「……早くない?」
現在6月中旬。7月初めの期末までまだ3週間近く残っていた
「次のテストではもっと上を目指したくて……」
「……あんまり頑張りすぎたらダメだよ?」
「うん。ちゃんと適度にするよ」
「ならいいけど」
相変わらずの努力家……基本面倒くさがりの私からすれば凄い根気の強さだと思う
「で、どこ教えて欲しいの?どうせ分からない所を纏めてきたんでしょ?」
「えーっと……これなんだけど……」
琴乃はノートを差し出した
ページをめくると、そこには期末の範囲の問題で分からない部分が全てメモ書きされていた
「まあこれぐらいなら今日中に教えられると思う」
「ありがとう!じゃあ早速いいかな?」
「ん。じゃあ始めようか」
「僕も勉強するー!」
と、ここで水を差すかのように光太郎の声が響いた
「勉強するって……まだする必要ないでしょ?」
「こと姉の勉強じゃなくて、自分の勉強するの!」
と、持ってきていたカバンから筆箱とノートを取り出して、机の上に並べた
なんにしてもやる気になってくれたならいい。分からなかったら教えてあげることも出来るし……
「よーし勉強勉強!ってあー!け、消しゴムが机の下にー!拾わないとー!」
……違う!このガキんちょの狙いはっ!
「……もらった!」
私はとっさに折りたたんでいた足を伸ばした
「……ちっ」
……危なかった。もう少しで琴乃のスカートの中を覗かれてしまう所だった……
ただ、今ので確信した。このガキんちょ……真面目なフリして琴乃のスカートの中を覗くつもりだ!
琴乃は今日、膝上程の丈のスカートを履いている。その為、光太郎は覗ける!と思い、行動を起こしたのだろう
……許さない。光太郎の思い通りにさせはしない!
「……由比羽ちゃん?」
「あ、ああごめんごめん!どこ教えて欲しいんだっけ?」
「えっと、ここーー」
(今だ!)
(させるか!)
未だに消しゴムを取るフリして机の下に潜り込む光太郎。姿は見えていないので、音で光太郎の位置を察知し、琴乃のスカートの中を私の足で見えないようにしっかりとガードしている
(クッソー!ゆい姉の足が邪魔すぎる!)
(あんたが覗いていいような領域じゃないのよ!)
「あれ?光太郎くん。まだ消しゴム見つからない?」
「う、うん!ちょっと暗くて見つけ辛くって!」
「一緒に探そっか?」
「だ、大丈夫!自分が責任持って見つけるから!」
……何が責任もってだ。もういっそのこと琴乃にバラしてやろうか……
まあ何があっても、光太郎は琴乃のスカートの中を覗くことは出来ない。これからどんな作戦を企てようが、私はこの位置から足を動かすつもりはない
「ゆ、ゆい姉!ゆい姉の足に虫がっ‼︎」
「へー」
ブラフだと分かっているので、私は軽く受け流した
「本当だって!Gが!Gが足に!」
「ふーん」
そんな必死に訴えかけたところで私は動かさ……ん?
何か足のスネ辺りに何か乗っているような……
ど、どうせ光太郎が指で触ってるだけ!絶対そうだ!
私は恐る恐る足を見ると……そこには、黒い物体が私の足にひっついていた
「ひっ……ひぃやぁぁぁぁぁぁ!」
私はとっさに足を机から出し、ティッシュを複数枚取り、見事にキャッチした。そしてゴミ箱へとリリースした
「由比羽ちゃん……大丈夫?」
「い、一応ね。き、気持ち悪かったぁ……はっ!」
し、しまった!Gのせいでとっさに視界妨害用の足を退けてしまった。光太郎は未だに机の下に潜って動かないでいた
すると、光太郎は満足したのか机の下からスッと出てきた
……真顔で
「あ、光太郎くん。消しゴム見つけた?」
「うん。あったよ」
心なしか言葉に感情を感じない。何があったのだろうか?
「光太郎……ちょっと来て」
私はキッチンの方へ光太郎を呼び出した
「あんた……見たの?」
「……うん」
やはり見てしまったようだ……私としたことが、琴乃のスカートの中を守れなかった……
「……短パン履いてた」
「……なるほどね」
琴乃のスカートの中を覗いておきながらなぜ真顔だったのか疑問だった。尊すぎて悟りを開いてしまったのかと心配したが、どうやらそうではなく、ただひたすらに残念すぎて真顔になってしまったようだ
「……大人になると、みんなスカートの中に短パン履いちゃうの?」
なんていう質問をしてくるのかこのガキんちょは……ただ私は一応……一応こう答えておいた
「……ケースバイケース」




