「よ、夜須加ー⁉︎」
「またこの時期が来てしまったのね……」
「ん?何の時期?」
「この時期だよ……」
初夏に入り、気温が高くなる季節。そして今、私達はプールという名の授業を行なっていた
「プール嫌いなの?」
「当たり前じゃん!」
「なんで?泳げないの?」
「泳げるけど……男達の目線が嫌いなの!」
共学のせいだからなのか、それともウチが特殊なのかは知らないが、プールでも男女一緒に行われる。その為、男達の目線がスク水姿の女子に向くのだ
「ふーん……でもいいじゃん。由比羽は見学してるんだし」
そう。実は私はとあるアレルギーでプールに入ることが出来ない。泳げるかどうか知っているのは海に行ったことがあるからたわ
「見学してても男達が女の子の身体をジロジロ見るのが嫌いなの!」
私に実害はない。でもやはり思春期真っ只中の男達。いやらしい目線で女の子を見てくる。私はそれが嫌いだ。特に……
「あ、琴乃ちゃんが泳ぐ番みたいだよ?」
琴乃がプール際に立つと、男達が少し騒ついている
「琴乃ちゃんの胸……やっぱりおっきいねー」
男達が騒いでいる理由も、琴乃の胸のことだろう
「コラー‼︎男ども‼︎琴乃の身体ジロジロ見てんじゃねー‼︎」
私が特に嫌なのは、琴乃の身体を男達に晒すことだ
出るとこは出て、引っ込むところは引っ込む。いわゆるボンキュッボンな琴乃。そしてあの何よりも可愛く気高く尊いお顔……皆の目線が向かないわけがない。私が男でも見るもん
「夜須加。じゃあタイム測るからなー」
「……はい」
「じゃあ笛の合図で行くからな。いくぞー。よーい……《ピーッ!》」
そして私がプールが嫌いな理由がもう一つある。それは……
ザバーン……プカァ
「よ、夜須加ー⁉︎」
琴乃はプールの水面に死体のように浮かび上がった
「はぁ……まあ知ってたけどね……」
琴乃がプールで溺れしなないか心配になるからだ……
極度の運動音痴の琴乃。もちろん泳ぎの方も例外なく苦手である。昔から何故か「バタ足して!」といっても全く足が動かず、「手を前に突き出して水を掻くように動かして!」といっても何故か手に力が入っていないのか、脱力している感じになってしまうのだ
♢ ♢ ♢
「じゃあ後は好きに楽しんでいいぞー」
クラスメイト全員のタイムを測り終え、自由時間となった。琴乃はプールから出て私の方へと来た
「卯月ちゃんも見学だったんだね」
「いやー。水着忘れちゃってねー。てか琴乃ちゃん。泳げなさすぎない?」
「うっ……」
琴乃は明らかに落ち込んだ様子だった
「……卯月。後で体育館裏ね」
「なんで⁉︎」
琴乃を悲しませた。その罪は重い。あとで体育館裏でこっそり卯月に罰を与えることに決めた
「琴乃。泳ぐ練習しようか」
「……うん」
毎年恒例行事。琴乃水泳練習。本来毎年もやるようなことじゃないのだけど……
「じゃあプールサイドを掴んで……身体の力を抜いて浮いて……」
「こ、こう?」
明らかに身体がガチガチで力が入っているが、お胸のお陰なのか、身体はしっかりと浮いていた
この時だけは、琴乃が憎くて仕方がない……
「……由比羽ちゃん?」
「ああごめん!えっとね……次は足を上下にバタバタさせてみて?」
「こ、こうかな?」
足をバタバタさせ、水しぶきもしっかりと上がっている
「そう!その感覚を忘れないで!で、とりあえず今みたいに手を前にピーン!って伸ばしたままバタ足で泳いでみよう!」
「わ、分かった!」
琴乃は身体を反対に向かせ、壁に足をついた
「蹴って、浮かんで、バタバタ!」
「蹴って、浮かんで、バタバタ……蹴って、浮かんで、バタバタ……」
小さく言い聞かせるように唱える琴乃。そして大きく息を吸い、水中に潜った
「……」
「…………」
「…………………」
「……浮かび上がってこないんだけど」
水中に潜ってから琴乃の姿が見当たらない。いつの間にか上がってて私が見逃しただけ?
「琴乃ちゃーん?」
卯月が覗き込むと、水中に浮かぶ死体のような姿の琴乃の姿があった
「こ、琴乃ちゃーん⁉︎ま、待ってて!今上げるからね!」
卯月は体操服のまま、プールの中に入った
「……今年もダメか」
見慣れた光景だった。小学校の頃から何度も見てきた
「こ、琴乃ちゃん‼︎大丈夫⁉︎」
「だ、大丈夫……れす……」
卯月は琴乃をプールから引き上げた
「はぁ……はぁ……や、やっぱりダメでした……」
「びっくりしたよ!なんであんなことになるの⁉︎」
「な、なんででしょうね?」
「せめて水中でもがくぐらいはしなよ⁉︎」
今年もダメだった……まあでも別に泳げなくても人生困ることはない
「……由比羽ちゃん」
「ん?どうしたの?」
「私……泳げるようになりたいの。もっと私に泳ぎ方教えてくれる?」
私は琴乃の言葉に驚いた。今までは特に泳げるようになりたいと懇願されていたわけではなかったし、泳げなくても別にいいや……といった感じが琴乃にはあった
「なんで泳げるようになりたいの?」
「……太一くんと海に行きたくて」
……だと思った。昔から海でデートしてみたいという願いを口にしていた琴乃。泳げなくとも海で楽しむ方法はあるだろうけど、琴乃は泳げておいたほうがいいという思想に至ったのだろう
大いに不満。努力する理由があの男の為だというのが特に不満。だけど、頑張ると決めた琴乃の言葉を無下にするわけにもいかない
「はぁ……分かったよ。今週の土曜日に市民プールで練習しよう」
「ありがとう!由比羽ちゃん!」
「卯月も強制連行ね」
「what⁉︎ま、まあいいけどさ……」




