「やっぱりそうですよね!」
私達は店の移動し、カフェに入った
「いやーそれにしても本当に久しぶりだよねー」
「雰囲気変わったからなぁ。じゃないですよ!性別変わってますけど⁉︎」
「あぁ……ごめんごめん。最近ずっとこの格好だったから自分でも元々男だったんじゃないかって誤認してたんだよ」
骨格だけ見れば確かにか細く、女の子だなぁと分かるのだが、身長、容姿、ヘアスタイルは完全に男になっていた
「でもまあ思い出してくれて良かった。ていうか、傷見せなかったら私が翼だってこと分からなかったでしょ?」
「……傷の件は本当にごめんなさい……」
「あっごめん!謝らせるつもりじゃなかったの!いいのいいの気にしないで!由比羽が無事で良かったんだから!」
翼さんが見せた指の付け根の傷は私が小さい頃に、台所から落ちてきた刃物から守ってもらった際に負った傷だったからだ
「……で、男嫌いは治った?」
「治りませんよ。不治の病です」
「やっぱりかぁ」
答えは聞くまでもなく分かっていたのだろう。うんうんと頭を頷かせていた
「結婚しないの?」
「しませんよ」
「なんで?」
「なんでって……男が嫌いだからですよ」
「……それだけ?」
「……内緒です」
「そう。なら聞かないでおくよ」
……昔っからこの人は何故か隠し事に対して鋭いんだよなぁ
「そういう翼さんは結婚しないんですか?」
「してるよ?」
「……え?」
予想外の答えに戸惑ってしまった
「どうせ指輪してないから結婚してないって思ったんでしょ?」
「うっ……」
その通りだった。私は翼さんの指に指輪がついていないことを確認しての質問だった
「……夫さんがいらっしゃるのに男装してるんですか?」
と、ここで琴乃が会話に入ってきた。確かに私も気になる部分だ
「……私が男装してるのは、夫の為なの」
「夫さんの……ため?」
「夫はね……ゲイなのよ」
翼さんのカミングアウトから少しの沈黙が流れた
「黙らないでよ」
「あっ……ご、ごめんなさい!」
「冗談よ。そりゃ驚くよね。普通の人のリアクションしてくれて私は嬉しいわ」
「……てことは翼さんはゲイの夫の為に男装することでその人から恋愛対象として見られるようにした……ってこと?」
「せいかーい!そういうこと!」
……なるほど。そういう恋愛もあるのか……
「私が好きになったんだけどね。夫がゲイだって聞いて絶望してたんだけど……同じように夫のことが好きだった友達に提案されてね。男装することにしたの。ちなみにもう1人の奥さんは今言った私の友達ね」
口ぶりから察するに、一夫二妻の家庭なのだろう
「2人とも、まだ結婚はしてないんだよね?」
「私は……はい」
「まだじゃなくて永遠にないけどね」
私は大切なことなので強調して言っておいた
「いいかい?恋愛ってのは、時に相手の趣味に合わせる事も大切だ。相手に振り向いて欲しい時なんかは特にね」
夫の趣味に合わせることは大事だということを教える翼さん。その言葉に食いついたのは琴乃だった
「やっぱりそうですよね!」
「おや?君は好きな人がいるのかい?」
「お付き合いさせてもらってる人がいまして……」
琴乃は少し恥ずかしそうにしながら翼さんに明かした
「なら尚更オシャレしよう!素質は素晴らしいんだから!」
「え、えぇ……」
「由比羽もそう思わないか⁉︎」
「……まあ思うけど」
「なら決まりだ!早速服とか見積もってあげるから行こう!」
と、半ば強引に琴乃の腕を掴んで店を出る翼さん
「え、えええぇ!ちょ、ちょっとまっ!」
「お金なら私が払うから大丈夫!」
「そ、そういう問題じゃなくてぇぇ!」
琴乃は翼さんに引きずられながら、カフェを後にした
「……支払い」
お会計もせずに2人は出て行ってしまった為、私が全額払わないといけなくなってしまった
「はぁ……まあ後で請求……ん?」
よく見ると、翼さんの座っていた場所の前に、お会計をしてもお釣りが来るほどのお金が置かれていた
「見た目だけじゃなくて中身までイケメンじゃん……」
私は翼さんが本当に男であればなぁ……と心底感じたのだった……




