「結婚して良かったこと」
「……眠っ」
無事にテストも赤点なく乗り切った翌週。私は学校全体で行われるとあるイベントに参加していた
「由比羽ちゃん……ちゃんと話聞かないと」
「わかってるけどさぁ……」
そのイベントとは、学婚活をしている人達が未婚者達に向けて、結婚はどれだけ素晴らしいことなのかを語るというもの。体育館で行われており、これも政府の少子化対策の一環行事として、各学校、年に2回この行事をすることを義務付けられている
正直私には全く関係のない話。その為眠くて眠くて仕方がない。だけど琴乃に言われた以上、ちゃんと話を聞くことにした
『えー続いての質問に参ります』
先生がマイクを持って司会役を務めている。壇上には約20組以上の学婚生達が椅子に座っていた
『結婚して良かった事をお聞かせください。ではまず旦那さんの方から』
真面目そうな好青年な印象の男に問いかける司会
『そうですね……やはりいつでも好きな人と顔を合わせることが出来るという点ですかね?』
『なるほど〜!では奥さんのお二人はいかがでしょう?』
妻である2人は、どちらも清楚な立ち振る舞いの女性だ
『やっぱり一緒にいられる時間が多いのは良いことですね。まだ彼氏彼女の関係の時は夜にいつも電話で話してて、会いたいなぁ……ってなることがたくさんあったんです。それが今では一緒に暮らせているので、すっごく幸せですね!』
『あ……私も以下同文です!』
『そうですか‼︎いい事を聞かせてもらえましたねー!』
……このイベントに参加するのは3回目だけど、やっぱり嫌いだ。今、私の目はハイライトのない死んだような目をしているに違いない
結婚の素晴らしさを語る会……聞こえはいいかもしれないが、ただノロケ話を聞かされているだけなのだから
「琴乃……やっぱり寝ていい?」
「ダメだよ!」
「えーっ……だって書いてるだけで頭割れそうになるんだけど……」
苦しい……胸が張り裂けそうなほど辛い……
好きだった人が結婚していた……からではない。ただただ人のノロケ話を聞かされているだけの今の状況がとてつもなく辛い
「由比羽ちゃんの今後にも役に立つかもしれないんだからちゃんと聞かないと」
「だから立たないって……する気なんてないんだから……」
本当にこのイベントは興味のある人だけでやってほしい……
『えー。それでは次の質問に参ります!もし今後、学生婚の期間が終わっても、夫婦であり続けますか?』
そんなの時間が経たないとわかるわけないでしょ……
『それではえー……こちらの夫婦に聞いてみましょう』
司会が指名したのはいかにも今まで色んな人達と関係を持ってきましたという感じのチャラい見た目の夫婦だった
『もち!当然っしょ⁉︎俺達は赤い……いや……真紅の糸で結ばれた相手っすから‼︎』
私は今この場で体育館のかたーい地面に向かって頭を打ち付けたい衝動に駆られた
今時あんな男がいるのか……しかも真紅の糸って……それは運命の糸じゃなくて血の糸では?いつかその糸が繋がってる相手に殺されるのでは?
『いやー!情熱的ですね!』
情熱的過ぎて燃えてしまえばいいのに……
『では奥さんの方はどうでしょう?』
『んー……まあケースバイケースかなぁ?』
『……あれ?』
……出たこのパターン
このイベント。単なるノロケ話を聞くだけの会ではない。結婚相手の悪い部分を明かされるのもこのイベントの恒例だ
『今は国の支援?でなんとかやってるけどー。こいつだらしないしー。支援を受けられなくなった時に生活荒れそうだからなぁ』
『分かる分かるー!今でも家でだらしない所目立つもんねー!』
全校生徒の前で夫の悪い部分を明かす妻の2人。夫であるチャラ男は汗が吹き出し、動揺を隠さないでいた
『靴下は脱ぎっぱなしだし、ソファーで携帯ばっかり弄ってるし、お風呂から身体も拭かずに部屋まで出てくるし、イビキはうるさいし、寝相も悪いし……』
『足臭いし、息臭いし、脇臭いし、口臭いし……』
やめてあげて!チャラ男のHPはもう0よ!
さすがの私でも、チャラ男に同情の念を抱いた
『まあそこが改善されたら結婚生活続けてもいいと思ってまーす』
『私もー』
……いや無理でしょ
『え、えー!良いお話をありがとうございました!』
今のが本当に良い話に聞こえるなら、司会者は耳鼻科に行った方がいい
『続きまして……』
もう続かなくていいから早く終わってよー‼︎