「……その前に言い訳させてもらっていい?」
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ‼︎」
やってしまった……私はやってしまった……
「赤点まみれだよぉ……」
私こと卯月境科は自宅の机に今回の中間テストの用紙を並べていた
「散々由比羽に勉強しないとヤバイって言われたのにぃ……私のバカぁ‼︎」
結果で言えば散々……5教科中、社会科以外全て赤点だった
「56……28……36……19……12……あ゛あ゛っ!バカすぎるぅ!」
聖頼高校は40点以下が赤点扱いになる。社会の56点以外は赤点ということになる
「怒られるっ……ママに怒られる……」
私がテストの点数を取れなくて焦っている理由……それは将来的に危ないからだとか、進級が危ないからとかではない
そんなことより今、私の身が危ないからだ
「境科ちゃん?」
「はひぃぃぃ!」
扉の外から私の母の声が……
「テスト返ってきたんでしょ?お母さんに見せてくれるかしら?」
「あ、あー……」
ヤバイヤバイヤバイヤバイ‼︎こんな点数を見られたりしたら……
♢ ♢ ♢
「境科?何この点数は?」
「ま、お、お母様?あの……背中が燃えてますよ?」
「あらぁ?熱いと思ったら燃えてたからなのねー。丁度良かったわぁ。今から境科という大きいゴミを燃やすには最適ねぇ?」
「ひぃっ‼︎や、やめて……こないで……!」
「さぁ燃えるのよ?テストの用紙と共にねぇ‼︎」
「い、いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎」
♢ ♢ ♢
……なんてことになりかねない
※ なりません
どうにかしてごまかさないと‼︎
「あ、あー!実はまだ返ってきてないんだー‼︎多分明日……いや明後日……1週間後には返ってくると思うんだけどー‼︎」
なんとか日にちを伸ばしてその間にテストの存在を忘れてもらうしかない!
「そんなウソはいらないわ。由比羽ちゃんから今日テストが全部返却されたって聞いたから」
「な、なんで由比羽から⁉︎」
「この間家にいらっしゃった時に教えてもらったのよ。あなたの普段の生活とかを聞こうと思ってね」
なんて余計なことを……由比羽め……許さないんだかんな‼︎
私は言い逃れ出来ないと察して、テストの用紙を持って下のリビングにママを連れて向かった
「ほら、早く見せなさい」
「うぅ……」
私は背中に隠したテスト用紙を出すことを躊躇っていた
「何してるの⁉︎早く見せなさい‼︎」
「……その前に言い訳させてもらっていい?」
少しでもママの怒りを軽減させる為に、私はこの時の為に考えておいた言い訳を披露することにした
「実はですね……前日にテスト勉強の為に夜更かししちゃって……テスト本番の時に眠すぎて頭が回らなくて……」
我ながら完璧な言い訳だと思う。頑張ってたけど、頑張りすぎて空回りしちゃったよ。テヘペロ!というタイプは怒りに怒れないはず……
「でも境科?あなた前日11時には寝てたわよね?」
「……えっ?」
「リビングのソファーでテレビ点けたまま気持ちよさそうに寝てたの覚えてるわよ?」
し、しまったぁぁ!よりにもよって前日に自室じゃない所で寝てたことバレてたぁ!
「あ、あー!と、途中で起きたんだよねー!」
「私も居たけど起きなかったわよね?」
「……えっ?」
「寝てたから小音で夜通しテレビ見てたけど、境科ちゃん一回も起きなかったわよ?」
……もうダメだ。おしまいだぁ
私はそう悟った。テストの結果は散々で用意した言い訳は論破されてしまった……
私は大人しく、テスト用紙をママに差し出した
「……これが今の私の全力です」
ママは私の悲惨な点数のテストを手に取って、一枚一枚じっくりと見ていた
ペラ……ペラッと静寂の中、紙をめくる音だけが聞こえる。そしてテスト用紙を見終えたのか、テスト用紙を地面へと置いた
「……境科」
「……はい」
普段のトーンと変わらない声で話すママ。私は恐怖で顔を合わせることが出来ない
「……頑張ったわね」
「……え?」
怒られると思っていたのに、まさかの慰めの言葉に動揺を隠せなかった
ママの顔を見ると、怒っている様子はなく、むしろ慈愛の顔になっていた
「でももう少し頑張りなさい。境科の進級に関わるからね」
「……ママ‼︎」
いつもなら確実に怒られていた。でもママは理解してくれたんだ!私が馬鹿だって!馬鹿でも許してくれるんだ!
「……でね。私考えたの。どうしたら境科が勉強頑張るかなぁってね。それで思いついたの」
私の背中にゾワァっと寒気が走った
……違う。ママは怒ってないわけじゃなかった。隠していたんだ
「……お小遣い。半分にしよっか?」
ママは不敵な笑みで私を見ていた。内に隠した怒りが不気味な笑みとなって出てきていたのだ
「それでも次の期末試験で赤点取るようなら……お小遣いは無しにしてみよっか?」
……本当に私のママなのか疑ってしまうほどの威圧……反抗する意欲さえ削がれてしまう……
「……分かりました。頑張らせて頂きます」
「よろしい♪」
私は今、人生で一番の恐怖と対面したのかもしれない……