「私は用済みになったりしない?」
「はぁ……暇だ……」
早いことに夏休みも明け、妊娠発覚から7ヶ月以上がが経っていた。学校は特別休み期間に入った為、通えないし、日中は1人でいなければいけない。やることが無くて暇なのだ
掃除や洗濯すれば良いと思われるかもしれないけど、毎日、夜のうちに3人が終わらせるから、洗濯する服もなければ、掃除する埃もない
買い物は帰りに3人が買ってきてくれるから、冷蔵庫に空きはない。通販を利用しないから、受取人になることもない
お昼ご飯も作り置きしてくれる。本当に家でやることは何もない。だから最近は、実家に帰ってることが多い
家にいることはほぼほぼない。あと行くとすれば、加蓮のところぐらいだ
1人の時間が好きだった私は、いつの間にか1人でいることが嫌になっていたようで、実家に帰っても自室に篭らず、リビングで母親と過ごす時間がほとんどだ
「そろそろ帰ってくる頃だから帰るね」
「はーい。また明日も来るんでしょ?」
「うん……ごめん」
「謝らなくていいわよ。親には頼れる時に頼っておきなさい」
「……ありがとう」
♢ ♢ ♢
家に着くと、まだ誰も帰ってきていなかった。太一はバイトで恐らく2人は買い物だろう
「……早く帰ってこないかな」
音もなくただ静かな家。1人でいると私は不安になる
日に日に大きくなるお腹。子供が順調に育ってるって事だから良いはずなんだけど、それが私を不安にさせる
私はちゃんとこの子を幸せに出来るのか?産む時の痛みに私は耐えられるの?
子供が産まれたら……私は用済みにはなったりしない?
色んな不安が押し寄せてくる。ストレスは母体に悪いことは知ってるけど、ナイーブになってしまう
1人の時間が多くなると、なぜかすべて悪い方向に考えてしまう
……早く帰ってこないかな
♢ ♢ ♢
私が帰宅して5分後。玄関の鍵がガチャっと開く音が聞こえた
「ただいまー」
帰ってきたのは琴乃や伊津ではなく、なんと太一だった
「おかえり……珍しいね」
「実はバイト用の荷物をいつも持っていってるんだけど、忘れちゃってさ。だから取りに帰って……」
太一は私の方を見て、言葉を途切らせた
「どうしたの?私の方見て固まって」
「……なんで泣いてるんだ?」
「え……?」
目元を拭ってみると、確かに涙が流れていた。泣いてたつもりはなかったが、悪い方向へと考えてしまっていたことで、出ていたようだ
「なんでもないから!早く行かないと間に合わないんじゃない?」
「……」
太一はポケットから携帯を取り出し、どこかに電話をかけ始めた
「もしもしお疲れ様です。八幡です」
敬語で話す太一。相手は友達というわけではないようだ
「急で申し訳ありませんが、今日のバイトを休ませて頂いても良いですか?」
太一の電話の相手は、バイト先の店長だった
「嫁が泣いてまして……はい。1人になってしまうので、一緒にいてあげたくて……」
「ちょっ!そんなことしなくても平気だから!」
「俺が平気じゃないんだよ‼︎」
「っ……‼︎」
「あ、すいません‼︎怒鳴り声あげちゃって!……はい。ありがとうございます!今日休んだ分、どこか振り替えで入れておいて下さい。……はい。では失礼します」
太一は電話を切り、ポケットにしまった
「さて、話を聞こうか?」
「……太一ってたまに男らしいよね」
「男なんだが?」
「うん……知ってる」
結婚してから、太一のことが頼りになりすぎて困る
結婚してから、太一のことが好きすぎて困る
結婚してから、私は琴乃より太一のことが好きな自信がある
それぐらい私は今、太一に惚れている
私は泣いてしまった理由を全てを打ち明けた
「そうか……」
「ごめん……これだけサポートしてもらっておいてこんなこと言うのおかしいんだけどさ」
「いや、おかしくなんかないさ。不安になるのは仕方ない。経験したことなんてないんだからさ」
これだけ手厚いサポートを受けてなお、こんなことを言い出す私に怒る言葉もなく、優しい言葉だけをくれる太一
と、ここで突如玄関とリビングの間にある扉が開いた
「「由比羽ー‼︎」」
いつの間にか帰ってきていた2人が、涙を流しながら私の足に抱きついてきた
「わぁ‼︎ど、どうしたの2人して⁉︎」
「不安にさせてごめん〜‼︎」
「私達のサポートが不届きだったばかりに〜‼︎」
私の足に2人の涙が付着する
「だぁー‼︎冷たいから離れて‼︎……2人とも悪くない。私がワガママすぎるのが原因なの」
2人は私の為に尽くしてくれてる。悪いのは私だ
「由比羽!私達に任せて欲しい!」
「な、何を?」
「由比羽の気持ちを少しでも楽にしてあげる!」
「ど、どうやって?」
「それは2週間後のお楽しみね!」
「あ、太一と由比羽は来週の日曜日、空けておくように」
「「は、はぁ……」」
また2人で何か企てていた。本当に……出会った当初の2人に教えてあげたいぐらいだ
1年後。2人は凄く仲良くなってるってね