過保護
「よっこいしょ……」
「あーダメダメ!そんな重いのは私が持つから!」
「え?べ、別に重くないけど……」
「十分重いから!身体に負担かけるようなことしちゃダメ!」
「じゃ、じゃあ私はこっち持つわ」
「ダメ!由比羽さんに無理はさせられません!ちゃんと安静にして下さい!こんな雑用は私達で片付けるから」
「は、はぁ……」
先生から頼まれた授業用のプリントを持っただけでクラスの女子は私からそれを取り上げ、そして私の代わりに運んでくれる
「琴乃ー?伊津ー?帰るよー?」
「私と伊津は今日の晩御飯の買い出しに行ってから帰るよ」
「あ、それなら私も行くよ」
「ダーメ!早く帰って家で安静にしてなさい!」
「そーそ。もう自分1人の身体じゃないんだよ?」
「そんな大袈裟な……」
「何か買ってきて欲しいものはある?」
「……じゃあヨーグルト」
「糖分ゼロのヤツ?」
「うん」
「分かった。じゃあまた後でね」
6月に入ってから、クラス皆んなの私に対しての接し方が変わった。妊娠の影響で服越しでも少しお腹が出ているのが分かるほどになった。その辺りから、優しくなったというよりは過保護になった
まだ5ヶ月目だし、プリントを運ぶぐらい造作もない。買い物に行くぐらい歩いても問題はない。むしろ少し身体を動かしておいた方が良いらしい
私は、公園のベンチで一度座ることにした。疲れたわけじゃない。ただこのまま真っ直ぐに家に帰る気分じゃなかっただけだ
「「はあ……」」
と、いつの間にか横に座っていた加蓮と同じタイミングで溜息が出た
「……過保護?」
「……ええ。過保護」
過保護というワードだけで、加蓮の悩みが私と同じものであると理解出来た
「普通に接して欲しいのですが……やはり遠慮されてしまいますわ」
クラス替えがされてから、奏斗と絡む姿を見た同級生達が今までとは違い、普通に接してくれるようになってきたらしい
高嶺の花。上級階民扱いがなくなり、友達も増えてきていたらしい。だがやはり妊娠して、加蓮も服越しでも分かるぐらいにお腹が膨らんできている。そして現状、私と同じ境遇にあるようだ
「まあ仕方ないのは分かってるんだけどねえ。気を遣われてると申し訳なくなる……」
「そうなの。せっかく仲良くしてもらえてますのに……」
どうすることも出来ない悩みだからこそ、頭を悩ませる2人。悪意ではなく善意でしてくれているので、やめてほしいとも言い出し辛い
悩みは悩みだが、嬉しい悩みだ
「まあ怪訝に扱われないだけいいかな?我慢しよ?」
「そうですわね」
私達は互いに共通の悩みを話し、その場で別れた
♢ ♢ ♢
「「「「いただきまーす」」」」
4人で食卓を囲んでの食事。太一がアルバイトで遅くなる日でも必ず4人で食事をしていた
「……味濃くない?」
明らかに塩分濃度の高いお味噌汁。琴乃が作ってたし、配分量のミスは珍しい
「あ、由比羽の分は濃いめに作っておいたの。妊婦は味が薄く感じやすいらしいから」
「そ、そうなんだ」
♢ ♢ ♢
「ごちそうさま」
食事の片付けは自分の分は自分で洗うと決まっている。大皿やフライパンは当番制で洗うことにしている
食器を持って立ち上がると……
「あーダメダメ!由比羽は座ってなって」
太一が私から強引に食器を奪い、洗面台で洗い出した
「俺が洗ってるから、先に風呂に入ってきなよ」
「う、うん……」
♢ ♢ ♢
「はぁ……」
家でも気を遣われてる。ここまで皆んな優しいと、今の生活に慣れすぎて、妊婦じゃなくなった時元の感覚に戻せるだろうか?
「由比羽ー。入るねー」
「え?ちょまっ!」
私が止める間もなく、伊津が風呂場に入ってきた
「なんで入ってきたの⁉︎」
「だって心配だもん。何かの拍子で溺れたりしてないかなって」
「いや大丈夫だから‼︎」
「絶対はないでしょ?」
「妊娠時じゃなくても、絶対じゃないわ!」
「確かに……ならいっそ毎日一緒にはいる?」
「嫌よ!とにかく出てってよ!」
「えー?また服着直すの面倒だから、今日はもうこのまま一緒に入ろ?」
「……今日だけだからね」
……過保護訂正。超過保護だ