「この男は私を弄んだんです!」
「なんで私がこんなこと……」
掃除の手伝いをした次の日。またも母の友達である白糸さんから依頼を受けた。その内容が……
♢ ♢ ♢
「……裁判?」
「そう。あなたに明日行われる学婚裁判の傍聴人になってきて欲しいの」
学婚裁判とは、その名の通り、学生婚専用の裁判形式で家庭裁判所で行われる。裁判の理由は大抵、DV。家庭放棄。そして浮気だ
女性の場合は複数婚が認められていない為、夫ではない人と何かしらのいかがわしい行為を取った場合、夫である人は訴えることが出来る。ただし、学生の間は資金を集めるのは難しい為、普通の慰謝料よりも大幅に少ない額しか要求することは出来ない
逆に男が浮気扱い出来るのは、上限である9人目以降のいかがわしい行為、そしてその女性と結婚する気のない場合のみ適応されるようになっている
「……で、なんで私がそんなところに行かないといけないんですか?」
「実は会社の質の向上の為に学婚裁判のことも知ることも大事だと思ってね。だから内容を録音してきて欲しいの」
今度は裁判系統のことまで手を出すのね……
「私じゃなくても良くないですか?」
「社員は明日全員休みなの。だからお願い‼︎」
私も貴重な日曜休みなんだけど……
「……掃除で今日は疲れましたし、明日はゆっくりしたいので、ごめんなさーー」
「ーー行ってくれたら今日の2倍額のお給料出すから!」
「喜んで引き受けさせて頂きます」
♢ ♢ ♢
ということで今、裁判所に来ていた。もうすぐ開廷するみたいだけど、重い空気の流れている
「……お金チラつかせるのはズルいよ……」
来てしまったことに後悔している。確か今回の裁判内容は、男に結婚の意思がないことに女が激怒して発展した裁判らしい
私はこういう重たい空気が苦手だ……ましてやこれから仲が良かったはずの2人のいがみ合い。ドロドロの争いを見せられるのだから……
「それでは、裁判を始めます」
裁判官が開廷の合図を出した
裁判は淡々と進み、男側の証言、女側の証言を繰り返して行なっていた
「だからこの男は私を弄んだんです!」
「い、いずれ申し込むつもりだったんだ!」
結婚する気がないだけで裁判が起こる……こう聞けば男側にあまり非がないように聞こえるが、男側は既婚者で、現在2人の妻を迎えているらしい。こうなってくると話は変わる
もう既に妻が存在し、改めて妻を迎えるための交際ならば法律的にも問題はない。だが今回の場合、結婚する気はないらしい。つまりこの女性は男性にとって愛人という扱いになってしまうみたい
つまり現、妻の人達もこの男性を不倫で訴えることが出来るし、この女性は結婚を前提として付き合っていると思っていたが、裏切られたということで訴えているみたい
……複雑かつ泥沼展開……私は生で昼ドラを見ているのだろうか……
♢ ♢ ♢
裁判開始から1時間。お互いの主張が食い違い、話が中々進まない
2人が言い合う姿をひたすら見せられ、私は今何をしているのだろうか……という気持ちになってくる
一応弁護士はお互いにつけることが出来るが、弁護士費用は国の補償対象外な為、高額なお金がかかる。その為2人とも自分で証拠を用意し、自分の意見を言うというだけ。仲介役がいるだけのただの喧嘩にしか見えない
ゲンナリした気分で見ていると、ここで動きがあった
「……仕方ないです。あんまり呼びたくはなかったんですが」
彼女側は裁判中にも関わらず、携帯を取り出し電話をかけた
「もしもし。ごめん……結局頼ることになっちゃった。入ってもらえる?…….うん。ありがとう」
携帯を切ってすぐ、彼女の近くの扉が開いた。そしてそこから現れたのは2人の女性だった
「ゆ、ゆき⁉︎さとみ⁉︎どうしてここへ⁉︎」
彼氏側は驚いた様子を見せた。おそらく妻の2人だろう
「……裁判長。私達は彼がこれ以上妻を作る気はないと言っていたところを聞いたことがあります」
「……同じく私も。一緒に食事の際、笑いながら言っていた事を覚えています」
と2人の妻はそう証言した
「……あなた方は彼とはどういった関係でしょう?」
裁判長は入ってきた女性に質問を投げかけた
「私達はこの人の妻です」
「妻であるのに夫の方に付かずに彼女の方を弁護するのはなぜでしょうか?」
「彼女は私達の大親友だからです」
「え゛っ⁉︎」
夫は腰を抜かした様子だった
「びっくりしたわ。まさか私達の親友に手を出した挙句、結婚する意思がないって聞いたときはね」
「ええ本当に。妻に迎える分には文句なんて言わなかったけど、遊ぶだけの関係の為に私達の親友に手を出すことは許さないわ」
怒り心頭のご様子。男は青ざめ、女達は怒りからか顔が少し赤くなっている
「言っとくけど、もう私達もあなたと離婚することにしたから」
「そ、それだけはやめてくれ‼︎お、俺はお前達のことを愛して……」
「知ってる。でもね、あなたは許されないことをしたの。分かる?」
「うっ……そ、それは……」
妻である2人は夫の方に近づき、2人同時に左右からビンタを喰らわせた。男は顔をサンドイッチされ、何物にも形容し難い顔になっていた
「「さよなら」」
とだけ言い残し、2人は去っていった……
男はうなだれ、もう立ち上がる気力も残っていない様子だった。それを見かねたのか、裁判長は……
「えー……これにて裁判を閉廷する。次回は2週間後に行う」
終わりを告げて、席を立った
「……次回いる?もう決着ついたでしょ……」
女は既に立ち去り、男はその場に倒れ込んだまま動かない。傍観者も私しかいない為、この広い空間に私と男だけになった
さすがに気の毒になった私は男にねぎらいの言葉をかけることにした
「……人生色々あるけど、まあ頑張りなよ」
男は顔を上げ、目元が真っ赤になった顔でこちらを見た
「……一目惚れしました。結婚してください」
「嫌です。○んで下さい」
私は今、自分でも信じられないほど嫌悪感丸出しの顔になっていたと思う。あんなことがあったばかりなのにもう次の女に手を出そうとするなんて……
「やっぱり男なんてロクなもんじゃない……」
私は白糸さんから渡された録音機のボタンを押し、録音機能を停止させた