「3ヶ月目」
「ふぅ……」
私はとある建物の前に来ていた。そして入り口前で大きく息を吐いた
それだけ緊張感のある建物。普通の人なら別に意識したりしないんだが、ある状況下に置いては、ここに入ることに勇気が必要になる
「「よし!入るよ!」」
……ん?今誰かとセリフが被ったような……
「ゆ、由比羽?」
「か、加蓮⁉︎」
♢ ♢ ♢
「ど、どうだった?」
「……妊娠してた」
「そっかー……じゃあ2人ともか……」
私達が訪れていたのは産婦人科だ
妊娠検査薬というものを使って妊娠しているか確認出来る時代だが、私は確実な証明を得たいのと、3人には確証を得てから報告したかったから、産婦人科に訪れたのだ
加蓮は妊娠の症状を調べ、自分が該当していることに気がついたからここに来たらしい。ちなみに妊娠検査薬というものの存在を加蓮は知らなかったらしい
妊娠期間は2人とも3ヶ月目を迎えていた
私も加蓮も静かだった。もっと喜びではっちゃけてしまうと思っていたが、意外と冷静だ。嬉しくないわけじゃない
「それでは、次の検診は1ヶ月後です」
「はい」
私は先にお会計も済ませて待っていた加蓮と一緒に外に出た
少し歩いた所にあった公園に私達は立ち寄った
もう一度言う。妊娠が嬉しくないわけじゃない
「「やったーーー‼︎」」
病院内で大声を出すわけにいかなかったから、我慢していただけだ
「子供だって!私の子供‼︎」
「ええ!私も待望でしたわ!」
2人で人目も気にせずにはしゃいでいた。年甲斐もなくはしゃいでしまっているのは分かっていたけど、それでも嬉しさが羞恥心を上回っていた
「でもまさか加蓮と同じ時期になんてなぁ。高校卒業するまでは作らないんだろうなって勝手に思ってたよ」
「それは私も同じですわ。もっと慎重なのかと」
確かに高校生で妊娠だなんて言われれば、今の私達の時代のような風習になっていなければ、周りから白い目で見られ、煙たらがれるだろう
だが今は当たり前とまでは言わずとも、その数は増えてきている。周りの目も今までとは変わっている
それでも、白い目で見てくる人がいることは理解している。実際、さっき私と加蓮が産婦人科にいた時、やけに視線を浴びてたことには気がついていた。ただその上でも、妊娠したことは嬉しいことだし、おめでたいことだ
「奏斗に報告するの?」
「ええ。今後のこともしっかりと話さないといけませんから。高校のこともありますし」
当たり前だが、高校を休まなくてはいけない期間が出来る。聖頼高校では、妊娠してから約7ヶ月間は今まで通りに学校に通う。それ以降から出産後、2週間の間までは出席扱いの特別休み期間になる。つまりは学校に行かずとも単位が貰えるということだ
今は4月の後半。ゴールデンウィークもかなり近い。故に、私達が高校に通えるのは8月いっぱいまでだ。ただ夏休みがあるので、実質7月まで。そしてまた通い始めるのが11月になる
「加蓮は学校辞めて子育てに専念しないの?」
「私はそう考えていたのですが、父に高校は絶対に出ておくようにと言われておりまして。私が学校から帰ってくるまでの間は、信頼のおけるベビーシッターさんを雇ってくださるらしいですわ」
お金のない家族。親に頼れない人達は、高校を中退して、子育てに専念する人もいる。私達の学年にも1人、育児を理由に自主退学をした女生徒がいた
「由比羽はどうするのですか?」
「私?私は……特に決めてないなぁ」
ベビーシッターを雇うほどの余裕は私達にはない。私は特に学校に対して思い入れがあるわけじゃないから、育児に専念する選択肢は全然有りだと思っている。育児の手伝いには、専業主婦の私のお母さんも手伝ってくれるって言ってたから、高校は卒業しておくことも出来ないことはない
「ならばこの前の穂乃美の件のお礼として、私側からベビーシッターを手配させて頂きますわ!」
加蓮からの提案に私は首を横に振った
「いいよそんなの!そもそも見返りが欲しくてやってたわけじゃないし。しかも見返りが大きすぎる!いくら加蓮の家が大金持ちでもそこまでしてもらう訳にはいかないよ」
料金価格は見てないから詳しくは分からないけど、朝8時から夕方5時までを平日全部と考える。1ヶ月のうち平日は大体22日。それを9時間×22=198時間。どう考えても安くはない値段になるはずだ
「いいのです!私達の大切な穂乃美をあの男から守れたのは由比羽のおかげですの。見返りが大きいとおっしゃいましたが、私からすればこの見返りは些細なものだと思ってますわ」
「いや……それでもなぁ……」
「もしこれを断るというのであれば、代わりに私達の方で立派な一戸建てを八幡家に贈らせて貰いますわ」
「ベビーシッターの件。よろしくお願いします」
「分かりましたわ!」
一戸建てなんて貰えるわけないよぉ……加蓮め。わざと大きな条件を後から提示して、先の条件を飲ませるとは……
流石は名家のお嬢様といったところだ