「私は太一の嫁だわ‼︎」
「なぜだ……なぜ加蓮様だけでなく……穂乃美まで……」
「だから名前呼ばないで」
がっくりと膝から落ち込む男。まあこの2人と結婚してるって宣言して、落ち込まない男は太一ぐらいなものだろうけど……
「くっそぉ……もういい‼︎俺は由比羽を落とす!」
「由比羽も結婚してるよ」
「……はっ?」
「アイツの手に指輪付いてたの見えなかったのか?」
「またお前か?由比羽もお前の嫁なのか?」
「ちーがーうーわ‼︎」
「ゲフッ‼︎」
否定をしようとした瞬間、目の前で男が吹っ飛んだ
由比羽が猛ダッシュで男に向かってドロップキックを仕掛けたのだ
「私は太一の嫁だわ‼︎」
「いや、太一って言われても分かんないと思うぞ」
「確かに……とにかく奏斗じゃない!」
「……とりあえずこいつを救出してやれ。壁に減り込んでるんだから」
男は見事に壁に真っ直ぐ突き刺さっていた
♢ ♢ ♢
「俺が頑丈じゃなかったら死んでた……」
無事に男を壁から救出した。代償に大きな穴が空いてしまったが……
「由比羽。ちゃんと壁直してよね」
「ええっ……加蓮よろしく」
「ふざけんなですわ」
にしても壁に減り込んでも無事とは、タフなんてレベルではないな
「とりあえず穂乃美が無事で良かったー!盗聴器仕掛けといて正解だったわ」
「盗聴器……?」
男は自分の体をまさぐって、盗聴器を探した
「なんで盗聴器なんかっ⁉︎」
「アンタが穂乃美に手を出すことは分かってた。恐らく寝てしまったタイミングでアクションを起こすこともね。だから付けた。簡単な話でしょ?」
この盗聴器の存在がなかったら、穂乃美は襲われていた。由比羽には頭が上がらない。今度何かしらのお礼をしないとな
「クソがっ……なんだよこの高校はよ……俺の思い通りにいきやしねぇ」
「そもそも既婚者に手を出すなって話。未婚者で可愛い子なんかいっぱいいるんだし、自分の力だけで女を口説いて、結婚なりなんなりすればいいでしょ?」
「……してるんだよ」
「えっ?」
「俺はもう結婚してんだよ‼︎」
叫ぶように男は自分が既婚者である事を明かした
「浮気かよ」
「元々望んだ結婚じゃねえ‼︎政略結婚だ!しかも相手はブス‼︎この俺に釣り合う女じゃねえ‼︎見ろ!」
男は携帯を見せつけた。画面に写っていたのは、この男を女性化させたような人が写っていた
「相性良いと思うけど。なんなら天秤に両方載せてもピクリとも動かないぐらい釣り合ってるけど……」
「どこがだ‼︎」
「ふ、ふふっ……お、お似合いだと思いますわ」
笑いを堪えてる加蓮
「ん?てことはお前……手を出せば親の力でとかなんとか言ってたけど、嘘なのか?」
「ああそうだよ。むしろこんなことしてるってバレたら、家に軟禁されるだろうよ」
元々脅しが効かない俺らには関係ないが、他の人達がこの事実を知れば、もうこの男に従順に従う奴は恐らく出てこないだろう
「普通に恋をする分には私達は口出ししませんわ。ただ今回みたいに迷惑をかけるようなら、貴方とは違って私の親が黙っていませんわよ」
「……分かった」
更生……とまではいかないだろうけど、とりあえずは大人しくしてくれるだろう
♢ ♢ ♢
男と由比羽は教室に戻った。俺と加蓮は穂乃美が寝ている間、側にいることにした
「ぐっすり寝てるな」
「ええ」
最近ほぼ眠れていなかった穂乃美だが、問題が解決したおかげか、ぐっすりと寝ている
「そういえば、加蓮はなんでここに来れたんだ?俺と由比羽は盗聴のお陰で分かったけど」
「私も由比羽の盗聴器のおかげですわ。由比羽が私の携帯に連絡を入れてくれたのです」
「由比羽には頭が上がらないな……」
「全くです。今度、緋扇家の者としてお礼をしなくては」
緋扇家として……大規模なお礼になりそうだ
「それより良かったんですの?穂乃美の夫ってバラしても」
「どうせ話の流れでバレただろうし、問題ないよ。広まるかはあの男次第だしな。もし広まったとしてもそれはそれで穂乃美の周りから男達が離れるんだから良し」
そもそも男達は遠巻きで見ることしかしないから、あんまり変わらない気がしないでもないが
「ただ心配なのは、俺らが卒業した後だよなぁ。一年間穂乃美は1人だろ?」
「確かに心配ですわね……」
「……留年するか」
「良い案ですわね‼︎」
「……絶対やめてね。留年とか」
薄らと目を開ける穂乃美
「留年とかしたら、離婚するから。絶対」
「は、はい」
「確かに奏斗は会社を継ぐ身。留年はご法度ですわ。だから私だけ留年しますわ」
「加蓮が留年しても離婚するから」
「What⁉︎」
「ついでに、由比羽が留年しても離婚するからね」
「家族でもないのに⁉︎」
これで穂乃美を一年間見守る術がなくなってしまった……
「……ありがとう」
ボソッと呟かれたありがとうを俺達は聞き逃さなかった
「奏斗聞きましたか⁉︎ありがとうですって!」
「ああ!感動ものだな!」
「……大袈裟」