「嫌がっていようとも」
「加隈さーん!僕と付き合って」
「いやだ‼︎」
新学期が始まった。入学式はまだ先なので、新2年生と新3年生しかいない学校。そして始業早々、穂乃美は厄介な目にあっていた
「何故だい?君には彼氏はいないのだろう?」
「い、いない……」
「ならいいじゃないか?何故僕を拒むんだい?」
「はーいそこまでー」
一部始終を見ていた私は2人の間に割って入った
「ゆ、由比羽……」
「そこの男子。穂乃美が困ってるんだからやめなさい」
本当はバチバチに強烈な暴言を吐きたかったが、私は我慢して優しい口調で会話を試みた
「おおっ!貴方も美しい‼︎お名前は?」
「……由比羽」
「由比羽さん‼︎素晴らしいお名前だ!綺麗で貴方にピッタリだ
前髪を綺麗に横流しにした、いわゆるお金持ちがするようなヘアスタイルの男。喋り方からして、恐らくお金持ちなのだろうけど
「貴方も私と結婚しませんか⁉︎」
「……多重婚はもう禁止されてるのよ」
「そんな書類如きどうでも良いのです!夫婦とは関係!関係は紙如きに左右出来ません!」
……ちょっと何言ってるかわからない。頭が痛くなる
「にしても不思議だ。こんなに麗しく綺麗な女性に対して、男達は全くアピールをしない……この学校の男達は目が腐っているのか?」
まるで新参者かのような口調。……いや、もし本当に新参者ならば……
「穂乃美。あの子は転校生?」
「う、うん……今日から来た同じクラスの……」
なるほど。どうりで穂乃美にアピールするわけだ
「……君、残念だけど穂乃美には手を出しちゃいけないんだよ?」
「はて?それは如何な理由で?」
「穂乃美はこの学校のお姫様的存在。男達は全員手を出さずに崇める存在として扱うように決められてるのよ」
私が説明しておいてなんだが、マジで意味が分からない決め事だ
「お姫様……お姫様か。ならば問題ありません!僕はそのお姫様を迎えに来た王子様なので‼︎」
「穂乃美。あの子頭おかしいの?」
「うん」
即答で返された。聞かなくても分かってはいたが……
「あのね……そもそも穂乃美は嫌がってるの見れば分かるでしょ?」
「嫌がっていようとも僕は諦めません!」
肝が据わってる。基本そういう熱い男は好きだが、これに関しては鬱陶しいだけだった
「穂乃美さんと由比羽さん。どちらも僕の妻にしたい‼︎」
……少し前ならまだ許せた発言だが、多重婚制度がなくなった今、その発言はただのゲス発言だ
「あのね。私は結婚してるから貴方とは結婚出来ないの」
「そんなの離婚してまたフリーになればいいだけの話ですよね?」
サラッと恐ろしい言葉を言い放つ男。ボンボンだから常識を知らないようだ
「離婚ってそんな簡単なことではないの」
「書類に書けばすぐ出来ると聞いていますが?」
間違ってはないけど間違ってるんだよなぁ……
「とにかくダメなものはダメ!私は夫のことが大好きだし、穂乃美は貴方とは結婚することはない!以上!」
私は穂乃美の手を引いて、その場から去った
「……2人とも、俺の好みだ」
♢ ♢ ♢
「穂乃美ったら、また面倒ごとに巻き込まれちゃって」
「ごめんなさい……」
「謝らなくていいよ。貴方は何も悪くない。別に気を引くようなこともしてないんでしょ?」
「教室で寝てて、起きたら好かれてた」
魔性の女なのかな?
「とりあえず、奏斗にちゃんと相談しな。まあ関係を内緒にしてるうちはあんまり役に立たないかもしれないけどさ」
「……あんまり迷惑かけたくない。もう既にたくさんかけてるから」
珍しく弱気な表情を見せる穂乃美。その姿にまたキュンときてしまった
「大丈夫。奏斗は迷惑だなんて思ってないって。あいつは本当に迷惑だと感じた時はしっかりと拒否するの。受け入れたってことは、そう思ってないってこと。だから安心して」
本当に面倒だと思っていたなら、奏斗は間違いなく穂乃美を受け入れなかったはず。加蓮の頼みでも、日伊乃の頼みだったとしてもだ
「まあとりあえず、奏斗が関わらない学校内では、私とか加蓮、あと卯月で警戒しとくから安心していいよ」
そもそもの話、あの男が穂乃美を狙っていることが知れ渡れば、他の男達が黙っていない
この問題は、すぐに解決すると私は睨んでいた