「困った顔してた」
私達に気を遣った2人が家を出てから5分が経った。外に出ている太一は未だに帰ってきていないようだ
「……逃げようかな」
緊張で心臓がバクバク鳴っている。この待ち時間が1番辛い
今ならまだ逃げ出そうと思えば逃げ出せる。太一にも、今日することは伝えていないはずなので、太一にバレることはないはず
「よし。逃げよう」
私は逃げる決心をし、部屋の扉に手をかけた
「……ん?あ、あれっ?」
ドアノブが下ろせない。ガチャガチャと何度も下ろしてみるが動かない
「な、なんでっ⁉︎」
立て付けの問題なのか、ちょっとだけ上下に動くが、それでもドアが開くまでには至らない
「……やってくれたわあの2人……」
たまたま立て付けが悪くなるなんてそんなタイミングの悪い話はない。間違いなくあの2人の仕業……ていうより、その為だけにドアを壊すな!
その後もガチャガチャと動かしてはみたが、動く気配はなく、私は部屋に閉じ込められてしまった
外に出ようとしても、ここはマンションでも上の方に位置している。あとはドアごと外すかぶっ壊す以外に私が出る方法はない
「はぁ……」
今日はよく溜息が出る。逃げられないと分かっているなら、早く太一に来てほしい。焦らされれば焦らされるほど、身体がしんどくなる
「……由比羽?」
「わぁぁぁぁ⁉︎」
突然音もなく、太一の声が聞こえた。というより、扉が開いていた
「俺の部屋で何してんの?」
「え、えっと……」
説明するのも恥ずかしくて中々言い出せない
「そ、それよりどうやって開けたの⁉︎」
「ん?ああ……なんか知らないけど、ドアノブの下に大量に本が重ねられてて、上からコンクリートブロック置いてたからどかしたんだよ」
なるほど……本で下に下げられなくして、コンクリートブロックで上にもあげられなくしたのか……
賢いようで頭の悪いやり方だった
「由比羽はなんで閉じ込められてたんだ?」
「……その……あの……」
私は周りに誰もいないにも関わらず、太一の耳に小声で
「き、今日はき、危○日だから……」
と伝えると、太一は顔を真っ赤にした
「前のババ抜きのやつか⁉︎」
「そう……です」
はぁ……と大きく溜息をつく太一。その様子に、私は少し傷ついた
「……太一が嫌なら、無理にすることないよ。2人には私が嫌って言ったって伝えておくからさ」
多分、私ではなく琴乃だったら、太一は喜んで相手をしてくれたと思う。恐らく伊津も……私だから太一は否定的なんだ
「……俺は嫌じゃない。でも由比羽は嫌なんだろ?」
「私……嫌って言った?」
「ババ抜きで勝った時、困ったって顔してた」
太一は変に鋭い時がある。いつもは鈍感な事が多いのに……
「それは、私があの2人を差し置いて、1番最初でいいのかな?って思っちゃったからだよ」
私はその時の心境を太一に話した
「私は琴乃と太一を結婚させる為に一緒になった。その琴乃より先に私……てのはちょっと気が引けるじゃん?伊津だって私と琴乃より先に太一を好きになってるわけだし、なんか……遠慮しちゃうっていうかなんというか……」
私は上手く言葉を纏められなかった
「……経緯がどうであれ、あの2人が納得してるならいいんじゃないか?」
「太一は良いの?私が1番最初で」
「良いよ」
「後悔しない?」
「する理由がないな」
「琴乃や伊津の方がいいんじゃない?」
「由比羽が良い。俺がそう言ってるんだ」
……顔が熱くなる。太一がすごくカッコよく見える
「……分かった。太一がそこまで言ってくれるなら、私ももう遠慮しない。デキるまでやるつもりでいくから、覚悟してよね」
「おう。任せとけ」
♢ ♢ ♢
「こ、腰が……」
「ううっ……」
何分……いや、何時間経過しただろうか。お互い限界までして、2人とも身体が満身創痍だった
「太一ってば容赦なさすぎ……」
「由比羽も大概だぞ……」
まだ春に入らない程の時期で、暖房をつけていたとはいえ、汗の量がすごい
「私、お風呂入ってくるね」
「ああ……出たら呼んでくれ」
「うん」
浴槽に向かう為、部屋の扉を開けた
「あ、終わった?」
リビングの椅子に、2人は座っていた
「……いつ帰ってきたの?」
「いつだったっけ?」
「2時間前ぐらいかな?」
2時間前……?え?ということは……
「……聞いてたの?」
「うん。お盛んだったね」
「こっちも恥ずかしくなってもう一回外出るか迷ってたもんね」
……私は恥ずかしさのあまり、走って浴槽に飛び込んだ
「ブクブクブクッ」
浴槽のお湯に顔をつけ、お湯の中で「恥ずかしい‼︎」と大声で叫んだ