「……見なかったことにしよ」
「こんなところによく住めるよ……」
足の踏み場を探すので精一杯なくらいにゴミで溢れかえっていた。何がゴミで、何が必要な物なのか聞きたいぐらい私から見れば必要のない物ばかり落ちている
「そりゃ4時間も掃除させる訳だよね。……多分足りないと思うけど」
1人でこの部屋を4時間で片付けるのは無理難題だ
私からすればこれはお部屋ではない。汚部屋だ
「……ガタガタ言っても仕方ない。始めますか」
まずはゴム手袋を装着。ゴミ袋を取り出し、明らかに必要のない物だけ選別してゴミ袋に突っ込んだ
残ったゴミかゴミじゃないか判別できない物は、一応袋に詰め、捨てずに置いておくことにした
「……にしても、こんな状態になるまでなんでほっとくかな」
学生婚の中で問題となっている事。それは掃除が出来ない人が多数いることだ
学生期間が終了し、家を退去することになった際、部屋が汚すぎるという現象が頻繁におきているらしい
特にヤンチャな性格の人達だけで結婚した場合、かなりの割合で部屋が汚れているらしい……(どこぞのコメンテーター情報)
理由としては、叱る親がいないため、自由にしすぎてしまうからだと言われている
「……ふぅ。とりあえずゴミの分別はオッケーかな」
溢れかえっていたゴミは全て袋に放り込めた。一番大きな袋を6つ擁するほどの量だった
「……2時間もかかっちゃったのか」
掃除開始から2時間が経過。まだゴミを回収することしか終わっていない
ちなみにこのマンションは1LDK。リビングが8帖と別室が一つありでそちらは6帖。お風呂とトイレは別で完備されている
そして何より、全ての部屋に防音機能がついている
理由は簡単。夜の営みの妨害を避けるためだ
そもそもこの国が学生婚、複数婚のみを掲げたのは少子化対策の為。隣の部屋の人がうるさいからといって壁をドンッ!と叩く行為で子供を作る行為を邪魔することを防ぐためだ
部屋の形は場所によって異なるが、防音機能が備わっているのは絶対条件。よって学生婚専用マンションはかなりの良物件なのだ
「こんなものかな?」
我ながらよくここまで綺麗にすることが出来たと自画自賛してしまう。角の埃もしっかり取り、掃除機もかけた。ゴミだらけだった部屋は劇的に見違えていた
「2時……ちょっと時間残っちゃったな」
ゴミを回収しきってしまえばあとはもうすぐに終わった。どちらにせよ3時までにはこの部屋を出ないといけない。少し早いけど、もう退散するのもありだ
「ちょっとだけ休憩してからにしよ……」
ずっと動きっぱなしで腰も痛い。私はリビングにある椅子で少し休憩を取ることにした
「ゴクッ……ゴクッ……美味しっ」
事前に買っておいたジュースを飲み、喉を潤した
「しんどかったけどこれで2万円貰えるならお得だよね」
私はじっくりと2万円の使い道を考えた
「新作の服と靴が欲しいなぁ……でも2万円じゃ足りないから貯めてた分から少し出して……」
など色々と考えていると、ふと思い出したことがあった
「……そういえば、寝室には入っちゃいけないんだっけ」
依頼で寝室へ入ることは禁止と言われていたけど……禁止と言われれば入りたくなってしまう
「……どうせバレないし、いいかな?」
私は興味が抑えられず、寝室のドアを開けた
「ひぃっ⁉︎な、何これ……」
寝室の電気をつけると、部屋のライトはピンク色に。大きめのベッドに壁には固定された手錠があり、足元には鞭やロウソクが転がっていた
「お、お盛んなことで……」
まあ趣味は人それぞれだもんね。うん……これでお盛んになって子供が産まれたら、国の役にも経ってるわけで……
「……見なかったことにしよ」
私はゆっくり……ゆっくりと部屋の扉を閉めた……
♢ ♢ ♢
「あんなにゴミ屋敷だったのに、見違えるように綺麗にしてくださってありがとうございました‼︎」
ゴミ屋敷って自覚してたなら片付けなよ……
「わぁぁ……大変だったでしょ?」
「ま、まあそれなりに……」
「ありがとね。これからはちゃんと綺麗に使わせてもらうわ」
「是非そうしてください」
私は結局、ここの住人が帰ってくるまで待っていた。そして待っていた理由はただ一つ……
「それでは私はこれで……」
と言い残し、私は部屋から出た
「……思ったよりみんな清楚な感じの人だったなぁ。けど……清楚に見えてあの寝室で……」
待っていた理由は、あの寝室を使ってる人達の顔を見たくなったからだった
「……人は見た目によらないな」