「本心」
「……やはりな。そうだと思っていたよ」
日伊乃を監視として俺の嫁にするぐらいだ。疑われてるとは思っていた
「なぜそんなことをしたのかは知らんが、偽造ならもうお前は必要ないだろう」
「……いいや。返してもらいます」
……もう隠す必要もない。自分でも曖昧にしてた加蓮への気持ち……いつか俺の前からいなくなることを知っていたから、悲しくならないように押し殺してた想いがあった
「俺は……加蓮が大好きなんです」
俺の言葉に、加蓮の父親は怪訝な表情を浮かべた
「まだウソを重ねるのか⁉︎」
「ウソじゃない。これは俺の本音です!偽言なんかじゃない‼︎俺は加蓮が大好きなんだ‼︎」
俺の声が、部屋の中で鳴り響いた。防音じゃなければ、恐らく下の階3つ分は声が聞こえたんじゃないだろうか
「……初めて話した時は偉そうで、前に立ってただけで怒られたし。生意気……というより、強気で庶民を見下すお嬢様。印象最悪。好きになる要素なんてなかった」
出会いは最悪で、靴履き替えてただけで文句言われたからな……
「挙句の果てには急に呼び止められて、車に乗せられて家に連れて行かれて、婚約者として挨拶しろなんて無茶を言いやがる。会ったその日にだ!見合い話を断る口実に、俺を使った挙句にその日に結婚……!うちの母親腰抜かしてたよ‼︎」
まあ、息子の口から浮いた話さえ聞いたことなかったのに、帰ってきたら急に「彼女出来た」じゃなくて、「嫁さん出来た」って言ったんだから驚くのは当たり前だな
「自分勝手で思い通りにいかないと少し拗ねる。面倒くさい女ですよ!あなたの娘さんは!」
「……人の娘を随分とバカにしてくれるじゃないか」
「ただ……‼︎本当は寂しがり屋でネガティブ思考。出来ないことを克服しようとする懸命さ、友達の為に手を差し出せる優しさを持った出来た人間だ‼︎」
一緒に暮らしていて分かったことは、良いところしかなかった。学校では緋扇家の人間として……上に立つ者として振る舞っていたのかもしれない
「加蓮は最高に可愛い俺の嫁だ‼︎」
この言葉は、会社全体に響くほど……いや、この街の住人全員に聞こえてしまえばいい……それぐらい自分のお腹の底から声を張り上げた
「……耳が取れるところだったよ」
「鼓膜を破ってやろうかと。あ、日伊乃にも被害いったよね?ごめんね」
「大丈夫。耳押さえてたから」
親指をこちらに立ててグッとする
「声を大きくして言っただけで、絶対とは限らない。さっきの君の言葉は嘘の可能性は捨てきれない」
「そう見えますか?」
「そもそも気迫で想いを伝えるのは間違いだ。理論を組み、相手を納得させる為の話術を身につけるんだな」
ボロカスに言われてしまった……今自分に出来る精一杯を出したのだが……
「……だが、意思は感じた。全てが本当では無いかもしれないが、君が加蓮を好いていることは間違いなさそうだ」
……色々とダメ出しをもらったけど、1番伝わってほしかった意思が、加蓮の父親に届いたようだ
「だがな、さっきも言ったが俺は加蓮に幸せになってもらいたい。明るく、楽しい生活は送れても、お金はどうする?我が家もずっと援助出来るわけじゃない」
「それは……これからちゃんと勉強して、大学も出て、良い会社に就職します」
「良い会社?それは給料面の話か?」
「はい」
「ならその会社がブラック企業ならどうするつもりだ?勤務時間が長すぎる。上司が責任を押し付けてくる。同僚達から嫌がらせを受ける……ブラック企業ってのは、一色単に纏められやすいが、呼ばれる原因は多数ある。そのどれかが君が勤める会社にあったら君はどうする?」
「……加蓮や日伊乃、穂乃美の為に頑張って働きます」
加蓮の父親はやれやれと言いたげに首を振った
「それで君の身体が壊れ、加蓮が悲しんだ場合、君はどうするつもりだ?」
加蓮の父親の問いに、俺は答えを出せなかった
「……まだまだ子供だな。これぐらいの答えは簡単に出せ」
「……すいません。教えて下さい」
「……4人もいるんだ。1人で無茶せず、周りに頼れば良い」
その答えは、俺1人では出なかっただろうな
ただ、もし俺が身体を壊してしまった時、加蓮……あと日伊乃と穂乃美も、間違いなく同じことを俺に言うのだろう
容易に想像がつく。それぐらい、この3人は優しすぎるのだ
「……無茶はしません。必ず約束します。俺は3人の泣く姿が1番堪えますから」
「……そうか。なら君が大学を卒業し、社会人となったその日に、また加蓮に相応しいかどうか判断させてもらうとしよう。当たり前だが、その間に加蓮を傷つけるようなことをすれば……分かっているな?」
ギロッと鋭い目つきでこちらを睨む加蓮の父親。だが、俺は物怖じすることはなかった
「安心してもらって良いですよ。俺が加蓮を傷つけるなんて、万が一にもあり得ないです。もちろん、日伊乃と穂乃美も同様にね」
「なんか、ついで感あったなぁ」
「ついでな訳あるか。日伊乃達は大事な俺の嫁さんだぞ?」
「……まあそういうことにしておいてあげるわ」
日伊乃は言葉とは裏腹に笑っていた
「……加蓮は今日の夜、家に戻るよう伝えておこう」
「ありがとうございます‼︎」
良かった……心の底から嬉しさが込み上げてくる。失って気づくことがあるってよく聞くけど、俺はそれを実感した
だが、俺は一つ大事なことを忘れていた
「あっ……でも加蓮はもう……」
加蓮はもう俺の家族じゃなかった。マンションにはもう入る権利はない。これからどうするかと含めて、色々と考えなければならない
「……そうだった。加蓮はもう……奏斗の嫁じゃないんだった……」
「……離婚させたっていうのは嘘だから心配しなくていい」
「「……えっ?」」
俺達は口をポカーンと開けた
「離婚が成立したと話せば、すぐに帰ってくれると思ってついた嘘だ。君がいないと離婚は成立しなくてな」
「「よ……良かった……」」
2人で腰を抜かし、その場にへたりこんだ
今までで1番心臓がバクバクしたかもしれない……
「ただ、家に帰すのは良いが……加蓮とちゃんと話しなさい。好きな人をまだ探すのか、それとも……今の好きな人と人生を歩むのか。ちゃんとハッキリさせるんだ」
「……はい。ていうかもう決めたんです」
「今日……ちゃんと俺の方から告白しようって」