「強硬手段」
「久しぶりだね。奏斗くん」
「……ご無沙汰してます。お義父さん」
俺は今、加蓮の家に1人でやってきた。というよりこの俺の前にいる厳つい顔をした加蓮の父親に1人で来るようにと言われたのだ
「……その呼ばれ方は気に入らないが、まあ今は良いだろう」
加蓮の父親は俺と加蓮の結婚を良く思っていない。元々は名家とのお見合いが決まっていた所、俺のせいでその話ごとなくなり、ただの一般人である俺と結婚したのだから、親からすれば良い思いはしないのだろう
「早速だが、本題に入らせてもらう」
一言一言に威圧感を感じる。どっしりとした雰囲気で空気がピリつく
「加蓮と離婚してもらいたい」
……やっぱりその話か
予想はしていた。わざわざ1人だけ呼び出して来た時点で、そう言われるんじゃないかって思っていた
だが、答えはもう決まっている
「お断りします」
俺はシンプルな一言で拒否した
「お前と加蓮では格が違うのだ。理解しろ」
「確かに格は違うでしょうね。ただ、加蓮はそれでも俺を選んでくれたんです。その想いも無下にする気ですか?」
俺と加蓮の結婚が成立したのは、加蓮が強く要請したからだ。偽装結婚ではあったけど、お見合い相手と結婚は嫌だからと俺は巻き込まれたのだ
今となっては、巻き込まれたのが俺で良かったと思うけどな
「お前が新たな嫁を迎えたことは知っている。1人程度欠けても問題なかろう」
「大アリですよ。加蓮は大事な俺の嫁です」
眉をピクッと動かす加蓮の父親。だが、威圧で押される程度のメンタルではもうない。加蓮と日伊乃と結婚して、他の男子生徒からの恨めしそうな目を毎日向けられ、穂乃美と結婚して、周りにバレないかビクビクする毎日。それに比べれば、今は大したことはない
「なら金をやる。10億でどうだ?」
「お金の問題じゃないです。どれだけ積まれても嫌なものは嫌です」
……揺らぐぅ。金額でめちゃくちゃ揺らいだけど、なんとか平静を装って拒否することが出来た。加蓮が本当に結婚したいと思える人と出会うまでは、俺が夫でいると約束したのだから
「ならば、どうすれば別れてくれるんだ?」
「別れませんよ。何があっても」
「そうか……」
これだけしっかりと否定したんだから、加蓮の父親も諦めてくれるだろう
「あんまりこんな手荒なことはしたくなかったが……実力行使に出させてもらう」
……諦めてくれるなんて、夢のまた夢だったみたいだ
♢ ♢ ♢
「……遅いなぁ」
奏斗が家に呼び出されてから2時間程経過した。家自体はそんなに遠くないし、私の父は忙しい身。2時間も休みの時間が取ることも難しいはず……
ガチャ
「あ、やっと帰って来た……」
玄関の鍵が開く音がした。穂乃美も日伊乃も家にいるので、奏斗が帰ってきたので間違いないはず
「おかえーーちょ、ちょっとやっ!な、何っ‼︎」
奏斗ではなく、黒服の女性が3人がかりで私を拘束した。口や手を押さえられ、そのまま身体を持ち上げられた
「なにー……騒がしいなぁ」
と、ドタバタ音に反応した日伊乃が部屋から出てきた
「ひ、日伊乃⁉︎た、助けて‼︎」
「加蓮⁉︎」
日伊乃は非常事態だと察知したのか、近くにあったハサミを手にこちらに向かってきた。……が、私の抵抗ももろともせず、玄関から私を運びだした
「加蓮っ‼︎」
なに……何が起こってるの⁉︎加蓮が黒い服の女共に攫われて……じゃない‼︎一刻も早く加蓮を追いかけないと‼︎
玄関から連れ去られた加蓮を追いかける
「……いた‼︎」
……が、エレベーターに乗り込んでおり、もう扉も閉まりかけていた
「間に合ってっ‼︎」
扉が完全に閉まり切ってしまったが、ボタンを押せばまた開く可能性がある!
「……クソっ‼︎」
その可能性も虚しく、エレベーターは下へと降りて行った
「……加蓮」
私達の居る場所は30階。私が一階に着いた頃には、もうマンションから出ている可能性が高い
「……奏斗ごめん。私……止められなかった……」
ただ、知らない人間に連れていかれたわけじゃない。おそらくあれは緋扇家に仕える者達だ。おそらく奏斗と別れさせるために強硬手段に出たものだと思う
「……なりふり構わないつもりなんだ。あのオヤジは」
奏斗……厄介なことになったかもしれないよ