「夢って偉大だなぁ……」
「起きろー」
「んっ……んんぅ……?」
「ほらー。早く起きろー」
「……あと20年」
「37歳になるまで寝るつもりなんかお前は⁉︎」
バシンッと頭を叩かれた
「いったーーくない?なんで?」
かなりの勢いで頭を叩かれたはずだが、痛みがなかった
「痛覚死んでるんじゃない?」
「ウソ……最高じゃん」
「冗談だわバカ」
バカ扱いされた……無理矢理起こされて頭叩かれた挙句にこの仕打ち。ひどいものだ
「……目、覚めたか?」
「……覚めてるわけないじゃん。目の前に東夜がいるのにさ」
私の目の前には、あの頃のままの東夜が立っていた。声も身長も……何もかも変わらない東夜が
「まあここは夢の中だからな」
「じゃあこれは私の想像?」
「いいや。お前の前にいる俺は本物。天国の人に由比羽の夢の中に出たいって頼んだら「良いよっ‼︎」って言われたんだよね」
「フットワーク軽くない?」
「夢だから良いんじゃない?」
「夢って偉大だなぁ……」
でも話していて分かる……これは私が作り出した妄想とか、幻想で出来た東夜じゃない。間違いなく本物の東夜だ
「……で、何しに来たの?」
「あれ?冷たくないですか?せっかく死人の俺が由比羽の前に出てきてやってるってのに」
「出来ればもう会いたくなかったかなぁ」
「えー?最近俺の墓の前に頻繁にきては悩み相談して帰るのに?」
見られてたかぁ……相談しに行ってるから見られてても問題ないけど
「……で、何しにきたの?」
「あれ?冷たくないですか?せっかく死人の俺が由比羽の前に出てきてやってるってのに」
「……ループさせなくていいから」
「あっそう?なら本題に入ろっかな」
東夜は床に座り、私にも床に座るように手でジェスチャーをして見せた
「さて、まずは結婚おめでとう!」
「あ、ありがと……」
東夜は曇りなき笑顔をこちらに向けて祝福の言葉をくれた
「いやー。まさか由比羽が結婚とは……しかも17歳で!人生何があるか分からないもんだねぇ!」
しみじみと頷く東夜
「母親みたいなこと言うね」
「実質立ち位置的には母親説あるよね」
「血筋から性別まで何から何まで違うけどね」
「心は母親なんだよ」
「はいはいそうですか」
東夜がボケても私が軽くあしらう感じ……この感覚が懐かしい
「太一くん……だっけ?お前の記憶からちょこっと見たけど、まあカッコいいし優しいしいい男だけど、俺には及ばないなぁ」
「自意識過剰乙‼︎」
「……思いの他、その反応に傷ついたわ。俺の心は大泣きしてるよ……」
「やったー!」
「あれ?由比羽ちゃんは人間やめちゃったのかなぁ?」
嘘泣きの素振りを見せる東夜
「まあでも、お前の記憶の中の女の子見てみたけど、1番可愛いのはお前かなぁ」
「本当に?……まあ褒め言葉として受け取ってあげるわ」
「ウソだよ‼︎穂乃美ちゃんとか加蓮ちゃんの方が可愛い‼︎お前は5番目ぐらいだわ!」
……多分上は、穂乃美、加蓮、日伊乃、琴乃だろう。意外と生徒からの評価ってバカに出来ないのかもしれない
「……でも5番目なんだ?結局褒めてくれてるじゃん」
「皮肉が効かなくなってる⁉︎お前……俺がいなくなってから胆力付きすぎだろ……」
「確かにメンタルは強くなったかもね」
色々ありすぎたおかげだ。自分でも実感出来る程には成長したと思う
「……さてさて!そんなメンタルもつよつよになって、大切な人達が出来た由比羽に俺からお願いがありまーす」
「お願い?」
「おう。簡単で、俺からの最後のお願いだ」
最後……予想はしてたけど、夢に出てこれるのは一回切りっぽい。何回も出来るなら、もっと前から私の夢に出てきてたと思うし
「……なに?」
「本当に簡単な話だ。ちゃんと耳の穴かっぽじって良く聞けよ?」
「……もう俺の墓参りには来ないでくれ」