「喜んで引き受けさせて頂きます」
「なんで私がこんなこと……」
私は今、とある事情で私には縁のない場所。学生婚達専用のマンションへと足を踏み入れていた
「……でもお金の為だし……新作欲しいし……」
私は自分にそう言い聞かせながら、中へと入った
「場所は……401号室だったはず」
私がなぜこんなところに来ているのか。それはある人からのお願いのせいだ
♢ ♢ ♢
「清掃バイト?」
「学生婚用のマンションが近くに建ってるじゃない?」
私に話を持ちかけてきたのは、母の友達である 白糸 希さん。学生婚の人達をサポートする為の会社を設立し、社長をやっている人だ
「ああ……スーパーの隣の大きいマンションですよね?」
「そうそう。で今、私の会社で清掃の仕事も受け付けてるのよ」
「存じてます」
「なら話は早いわ。明日その一室の清掃をお願い出来ないかしら?」
「……私がですか?」
「ダメ?」
「……なぜ私なのか聞いてもいいですか?」
希さんの会社はかなり大きな会社で大企業といっても差し支えない会社。そんな会社がわざわざただの女子高生の私にお願いする理由がわからなかった
「その依頼をしてきた子の一人が「清掃員は同じ女子高生じゃないと無理‼︎それ以外の人に私達の愛の巣に足を踏み入れて欲しくない‼︎」って文句を言う人がいてね……」
「……なるほど。そういう……」
そんなに嫌がるなら、自分達で掃除すればいいのに……
「で、どう?引き受けてくれる?」
……正直、私がこの仕事を受けるメリットはない。清掃自体は部屋とかこまめにするけど、好きってわけじゃない。ましてや学生婚生の部屋なんて、私の身体から何かしらの発疹が出るかもしれない
「……すいません。やめておきーー」
「お願いを聞いてくれたら2万円をお給料として出してあげるわ」
「喜んで引き受けさせて頂きます」
♢ ♢ ♢
という経緯で私は今こうして学生婚専用マンションのロビーにまで足を運んでいた
「すいません。401号室の清掃を依頼されたのですが……」
「お伺いしております。エレベーターで四階まで上がって頂いて一番奥の部屋になります。あ、鍵はこちらです」
ロビーの人から部屋の鍵を受け取った
「清掃用の道具は一番奥の関係者以外立ち入り禁止の札がついた部屋に置いてあります。あ、あと住民の方は、3時近くまで外出するとのことなので、3時までに終わらせて頂けますか?」
「分かりました」
元々依頼にもそう書かれてあった。問題はない
私はエレベーターに乗り込んで、4と書かれたボタンを押した
ゆっくりと上がっていくエレベーター。ボタンを見てみると、30まで存在していた
「……こんな立派なマンションに学生だけで住めちゃうのか……そりゃ結婚する人も増える訳だよね」
認められ、そして増加した学生婚。その増加の理由に、この学生婚専用マンションの存在は大きくあった
国が8割の負担をしてくれる為、安価で家を手にし、なおかつ好きな人と一緒にいられる時間が増える……私の感性だとどうでもいいけど、一般的に見ればかなり嬉しいことだろう
だから問題も一つある。それは、学生を終えた際に離婚するケースが多いこと
学生の間だけしか学生婚専用マンションは使えない。学生でなくなる前に退去命令が出され、卒業と同時に追い出される。次に住む場所が見つからなかろうと、お金がなかろうと
、例外なく必ず追い出される
国の資金援助の金額も減り、住まいも追い出される……となると結婚している意味がない。となり、離婚するケースが多いらしい
……好きだから結婚するのに、そんなことで離婚する意味が私には到底理解出来なかった
ーーエレベーターが4階に到着し、ロビーの人に言われた通り奥へと進む
413……407……402……あった。401号室……
とりあえず清掃用の道具を取る前に部屋に入ることにした
「……おじゃましまーす」
誰もいないのは知っているけど、一応挨拶だけはしておく
「……うわっ」
私は思わず口を溢してしまった
あまりにも……部屋が汚すぎる