「あなたには未来があるわ!」
「忘れろとは言わないわ。でも、心の片隅に置いておくだけでいい。過ちと分かっているなら、前を向きなさい!あなたには未来があるわ!」
フンッ と決まった……と言いたげな顔を浮かべる東夜の母。それに対して東夜の父は後ろで拍手を送っていた
「……違う。違うんですよ……」
私の目には、涙が浮かんでいた
「私はっ!許される為にここに立ってるんじゃないんですよっ!怒ってほしくてここにいるんです!」
「なら、尚更怒らないわ」
私の涙ながらの訴えに対し、凛とした態度で返す東夜の母
「若者に思い通りにいかないこともあることを教えることも、年寄りの役目ね」
私は膝から崩れ落ちた。泣くつもりなんてなかったのに、私の意思に反し、涙は止まらない
「琴乃さんから聞いたわ。あなた、結婚したんでしょ?」
「……はい」
「なら、他の男のことを考え続けるのは、妻として失格じゃないかしら?それも一種の浮気と同義よ?」
「……はい」
「だからもう責めることはやめなさい。これは私とお父さん。そして……私の息子。東夜からの命令よ」
そして、東夜の母は私の頭を撫でた
「ぅぅ……あぁ……」
「今泣けるだけ泣いておきなさい。もうこれ以上、東夜のことで泣くことはもうしないようにね」
私は人目も憚らず、大きな声で泣いてしまった……
♢ ♢ ♢
「……泣きやんだかしら?」
「……もう大丈夫です」
最近本当に泣いてばっかりだ。こんなに涙もろくなかったのに……
「よし。泣き止んで早々悪いけど、約束してほしいことが1つあるの」
「……なんですか?」
「あなたの子供が産まれたら、私達にも見せに来てちょうだい」
その提案に私は戸惑いを見せた
「私の子供を……ですか?」
「ええ。ダメかしら?」
子供……子供かぁ……元々少子化対策用に多重婚を認められてたんだけど、考えてもなかったなぁ……
「いつになるか分かりませんが……絶対に見せに行きますね」
「よし!じゃあ私からはこれでお終い!あとは、美登ちゃんとしっかり話し合ってね!」
東夜の母は、背後から美登の背中を押した
「ちょ、ちょっと!」
「しっかり話しなさい。溜まってることがあるでしょう?」
「……毎回毎回、振り回されてばっかりです」
「そんなつもりはないわよ?」
「……でしょうね」
はぁ……と溜息を吐く美登
「……私ももう許す。1番辛いはずの人がもう良いって言ってるのに、私だけずっと引きずるわけにはいかないから」
「そんな……そんなこと関係ない!許せない方が当たり前で、東夜のお母様は優しすぎるだけで……」
「ううん。本当はね、もうずっと前から許してたの」
「……えっ?」
思わず驚きの声が出てしまった
「私は東夜のお母さんが許すまで、許さないって由比羽に言い続けるって決めてた。私がもう許してもいいんじゃない?って提案して、反論されて東夜から引き離されるかもしれないって思うと怖くて出来なかったの……」
「そんなことしないのに……」
「いいや。お母さんならしかねないね」
「え……私そんな風に思われてるの?」
後ろでわちゃわちゃする夫婦を無視して、美登は話を続けた
「……東夜はね、自分のしたことに後悔なんてしてないと思う。だからさ、その分ちゃんと由比羽が真っ当に生きて、楽しんで、悲しんで、苦しんで……笑って。そんな彩り豊かな人生を歩むことが……東夜への罪滅ぼしだよ」
美登は私の手を握った
「私にも……由比羽の子供を見せに来なさいよね」
あぁもう……もうやだよぉ……今日は本当に……何回泣かされれば気が済むの……
「……うん。ちゃんと見せに行くから。ただ!私にも、美登の子供見せてもらうからね?」
「……仕方ないなぁ」
美登は小指を立てて、こちらに手を出した
私もそれに応じるように、小指を立てた
「……約束ね」
「うん。約束」
小指同士を絡ませ、私達は約束を結んだ