「はっきり言うんだね」
「お前達は納得いかないと思う。確かに俺の中では琴乃が1番だ。多分……今後もそれは変わらない」
「……はっきり言うんだね」
「俺は優しいウソは絶対につかないって決めてるんだ」
優しいウソであっても、時に人を傷つけるからだ
「それでも、お前達には俺の家族でいて欲しいんだ!」
「……1番になれないのに?」
「……ああ。理不尽で傲慢なことは理解してるさ」
ただ、別れたくない気持ちにウソ偽りはなかった
「……本当、酷い旦那様だよね。ねえ伊津?」
「全く……本当にそう思うよ。由比羽」
2人は俺の腕を振り解いた
「……んっ」
伊津は両手を広げた
「……何だ?」
「ハグ。その後キスして」
伊津からの要求は、人前では恥ずかしくて出来ないものだった
「2人同時に抱かれて、気分が悪い。ちゃんと私と由比羽1人ずつに愛情を示して」
「……いいね。それ」
そして由比羽も便乗する様に、両手を広げた
「お前らなぁ……」
「あ、じゃあ私も」
先程まで後ろに立っていたはずの琴乃も、伊津と由比羽の間に割って入り、両手を広げた
「琴乃はズルいでしょ!」
「そうだ!今回ばっかりは琴乃は無しだよ!」
「ズルくないですー!私が太一の1番なんですー!」
口調の違う琴乃が2人を煽った
「聞きましたか太一!琴乃は最悪の性格してます!私を1番に乗り換えることをオススメする!」
「さっきも聞いたでしょ?今後も私が1番に変わりないんですー。2、3番は2、3番らしくしてれば良いんですー!」
……琴乃さん?引き止めようとしてるのに煽りすぎたら離婚する方向に話が進んでしまう可能性があるからやめてほしいんだけど……
「さすがの私でも、今だけは琴乃のことムカつく!」
「あらそう?なら……もっとイラつかせてあげよっかな!」
琴乃は俺に飛びつき、そしてそのまま俺の口にキスをしてきた
「……1番乗りー!」
「「あーーーーー‼︎」」
2人は悔しそうに地団駄を踏んだ
「琴乃‼︎抜け駆けは無しでしょ⁉︎」
「そんなルールはありませーん」
「ただでさえ1番の琴乃が、キスの順番まで1番先なんて……」
「やっぱり太一の好感度順にキスする流れかなって。ほら、次2番目の人行きなさいよ。あ、どっちが2番でも、私が1番は確定事項なんだけどね!」
……あっれー?琴乃のキャラが違いすぎやしませんか?
「……伊津」
「ええ。分かってる」
2人は結託して、琴乃に襲いかかった!
「キャー‼︎」
「おら琴乃ー‼︎今日は許さないぞ!煽りに煽りやがって‼︎」
「1位だからと油断してれば、私達が抜いてやるから‼︎」
「ぬ、抜けるものなら抜いてみなよ‼︎それが出来ないから離婚しようとしたくせに‼︎」
2人がかりで押し倒されているにも関わらず、相変わらず強気に煽る琴乃
「伊津!手を押さえておいて!」
「了解!」
琴乃の両手を伊津が押さえ、琴乃のお腹の上に由比羽がのしかかった
「ちょっとおいたがすぎたね……」
そう言うと、由比羽は琴乃の脇腹をガシッと掴んだ
「や……やめて……は、反省するから‼︎」
「もう遅い‼︎」
由比羽は琴乃の脇腹をくすぐり始めた
「あひっ!はっ!や、やめ……あはははっ‼︎」
「ほら。これに懲りたら私達を煽ったりしないって約束するか⁉︎」
「し、します!絶対にもう煽らないから!」
「……よし」
由比羽はくすぐる手を止め、伊津も拘束していた手を解いた
「……なんてウソだよ!」
琴乃はパパッと立ち上がり、階段の方へ向かって一直線に走り出した
「あっ!騙したな‼︎」
「騙される2人が悪いんですぅ!」
「絶対逃がさない!」
由比羽は琴乃を追いかけた
「は、速っ!」
琴乃はあっという間に射程圏内に捉えられた
「私が速いこと。あと、自分が運動音痴なこと忘れたの?」
「そ、そうだった!私足遅いんだった⁉︎」
必死に逃げる琴乃を由比羽は悠々と捕まえた
「……もう逃がさないからねぇ」
「う、ウソウソウソ!さっきのはほんのジョークじゃん!」
「あ、ジョークだったの?」
「そ、そうそう!ちょっとしたジョークじゃん!」
「そっかー。ジョークだったかー」
「そうそう……ジョークジョーってあっ、あははっ!」
由比羽は琴乃の脇腹を再度くすぐり始めた
「伊津!拘束して!」
「はーい!」
伊津が再度琴乃の腕を拘束した
「や、やめてってば!本当に反省してるからぁ!」
「さっきもその言葉聞いたけど、ウソだったしなぁ」
「今回はリアル‼︎本当‼︎ガチ‼︎マジ‼︎」
「えー。やっぱり信じられないから、このままあと10分はくすぐろうかなぁ」
「10分⁉︎いくらなんでも長すってあははっ!や、やめて‼︎」
……こんなふざけたやり取りを見てるだけなのに、俺は自然と涙が出ていた
「……俺さ」
俺の言葉で、由比羽のくすぐり攻撃が止まり、3人は静かにこちらを見ていた
「3人共幸せにするよ。絶対」
俺の決意。歯の浮くようなセリフを吐いた俺に、3人は微笑んだ
「当たり前だよねぇ」
「ええ。私達が好きになった人です。それぐらいは当たり前にこなしてもらわないと」
「まあ失敗しても、ウチのお父さんが援助してくれるから!」
3人は各々俺の言葉に返事を返してくれた後、また由比羽のくすぐり攻撃が始まった
「ちょっ!終わりの流れだったよね⁉︎」
「そんなの決まってませーん」
「ちゃんと10分間やりまーす」
「た、太一助けてー‼︎」
「あ、あはは……」
その後、屋上から10分間の間、悲鳴が止むことはなかった……