「言い訳だよね。そんなの」
新年を迎えて4日が経った。まだ周りはお正月ムードが漂い、テレビでは特番ばかりが放送されている
……が、それよりも多いのが、多重婚の終了を報道するニュース番組だ
去年で多重婚制度は廃止。学生婚は継続されるが、援助額の減少と学生婚専用マンションの増加停止。つまり、現時点である分以上に増えることはないらしい
そしてもう一つ。現時点で多重婚をしている者達は、現状の維持or一対一の夫婦関係に戻す事も出来るようになった
簡単に言えば、太一と加蓮だけで結婚生活を送ることが出来るようになったということだ
多重婚制度が決まった際、多くの批判があった。ただそれは、そのルールが悪く、多重婚以外認めなかったからだ
これがもし、多重婚でなくとも良い場合だったら、批判どころか肯定的な意見が多かっただろう
ニュース番組に出ているコメディアンは、「なぜ多重婚を終わらせたのか。少し理解が出来ない」と述べていたけど、私は覚えている。多重婚制度が導入されると決まった時、「多重婚なんて馬鹿げている。今からにでも廃止すべき」と言っていたことを
約3年程度しか続かなかった多重婚制度。終わりを肯定する者もいれば、批判する者もいる
この制度のせいで……おかげで、私は楽しくて、居心地の良い場所を手に入れた
少なくとも私は……この制度があって良かったと思う
だからこそ私は、決心した
「……東夜。見ててくれる?」
今日もまた、東夜のお墓の前に来ていた。実は新年迎える前日からある事を決め、それを伝える勇気が出ないまま、ズルズルと引っ張ってしまっていた
その勇気を出す為、東夜に力を借りようとここまで来たのだ
エゴ。そう言われても文句は言えない。でも今回だけはどうしても力を借りたかった
「…….頑張るね。私」
「何を頑張るのかね」
私の声に返事を返したのは、死んでいるはずの東夜……なんてわけもない。ただ、聞き覚えがある声で、私が会いたくない人の1人だ
「……いえ。何もありません」
「そうかい。それより、久しぶりじゃないか。由比羽ちゃん」
声の主は、東夜の父だ
「……そうですね」
「聞いたよ。結婚したんだって?」
「……失礼します」
私はこの人が苦手……というより嫌いだ
目を合わせないように、前髪を目にかかるように降ろし、下を向きながら横を通りすぎた
「安心したよ。結婚するなんてね」
理由は簡単。この人は……
「東夜もきっと、喜んでいると思うよ」
私を恨んでいないのだ
私はそのまま、口を開く事なく、後ろを振り返る事もなく、東夜のお墓を後にした
……恨まれていた方が良い。あの人のせいで私は、許されたと勘違いしてしまう。自分に罪はないと誤認させられる
……私は消す気はないんだ。この罪を
♢ ♢ ♢
「ただいま」
自分達の家に戻ってきた。皆は実家に帰っていて、まだ戻ってきていない
「……静かだなぁ」
いつも賑やかな家。こんなに静まりかえっているのは初めてかもしれない
さて、感傷に浸っている暇はない。太一は今日の夜には帰ってくるはずだ
「……やっぱりキツいなぁ」
東夜にもらいに行ったはずの勇気が出ない。まだ中途半端なタイミングで邪魔されてしまったせいだ
「……言い訳だよね。そんなの」
ポロっと溢れた言葉を留め、私は口で伝えることはやめ、行動で示すことにした
私の部屋の棚から紙を出し、そのまま4人でいつもご飯を食べる場所に置いた
「短い間だったけど……ありがとう」
私は……離婚届を置いて、実家に帰った
……誰にも泣いている所を見られないようにしながら