「伊津の不満」
「ごちそうさまでした」
「ごちそうさま」
夜の9時頃。俺と伊津はファミレスに来ていた
クリスマスから2日が経った12月27日。なぜ伊津と2人きりでファミレスに来ているかと言うと、優勝賞品が太一を1日自由に出来る券。と言うものだったからだ
クリスマスに行われた不味い料理対決。その優勝者が伊津で、その優勝賞品を決めたのは卯月だった。ただし、俺が当たった場合は、3人の内、誰か1人を1日自由に出来る券だったらしい
伊津はその券を行使して2人でファミレスに来ていた
丸一日遊んで、遅くなった挙句にファミレスに入ったわけじゃなく、この時間にこの場所を指定したのは伊津だった
「ファミレス……初めて来ましたが美味しいですね!この美味しさでこの値段ならお得ですね!」
ファミレスのハンバーグを頼んで喜んでいる伊津。お嬢様だからなのか、庶民的な食べ物を食べる度に感動しているのが印象的だ
「デザートはいらないの?」
「いりませんわ。もうお腹いっぱいです。デザートは別腹という方もいますけど、私はそうではないので」
お腹をさすり、お腹いっぱいアピールをする伊津。どうやら遠慮してるわけではなさそうだ
「そうか。じゃあ店出るか」
レシートを持ち、お会計を済ませる為に立ち上がった
「あ、まだ待って欲しいです」
と、伊津に引き留められた
「どうした?何かまだ食べたいの?」
「もうお腹いっぱいだって言いましたよ?」
「なら飲み物とか?」
「喉も大丈夫。潤ってます。そうではなく、少しお話したいことがあるんです」
さっきの嬉しそうな表情から一転、真剣な面持ちの伊津
「……2人に聞かれたくないこと?」
「はい。といってもどうせバレてしまうんですけどね」
だからか……わざわざこんな遅くからファミレスに来たのは
2人きりで話す為、お客が少ない時間帯を選んだのだろう
「それで?早速聞いていい?」
「はい。手短に済ませますね」
そういうと伊津は自分の持っていたバッグから紙を取り出し、テーブルの上に置いた
「……え?」
俺は理解が追いつかなかった。なぜならその紙は……
「私と離婚してほしいんです」
離婚届けだったからだ
「な、なんで?」
「なんでと申されましても、離婚したいからですわ」
と、表情にも変化がなく、ただ淡々と伝える伊津
「何か気に食わないことがあったのか?」
「いえ。全く」
「じゃ、じゃあ俺に至らぬところがあったとか?」
「いえ。全く」
「貧乏な暮らしに嫌気が差したとか?」
「いえ。全く」
返事は全て一辺倒。ただマイナス要素がなく、離婚をしたがる理由が分からない
「じゃあなんで離婚なんか……」
「分かりませんか?」
伊津が何か不満を持っているからこそ、離婚届けを渡してきた……だけど、理由が思いつかない。自分では気づかない内に、伊津を傷つけてたのかもしれない
「……教えてほしい。ちゃんと直す」
「直りませんよ。残念ですけどね」
直らない?……益々分からなくなってしまった
「……まだ待ってもらえないか?」
「何をですか?」
「離婚するのをだ」
「待って何か変わりますか?」
「……伊津の不満を解決する」
「直りませんし、私はそもそも不満に感じてませんよ。不満に感じてませんが、それが離婚する理由ではありますね」
伊津の言葉にかき乱される……不満はない?ならなんで離婚したがる?他のことに理由があるのか?
「時間をかけたところで変わりませんけど、それでも待った方がいいんですか?」
「……うん」
「そうですか。では、待ってることにします。1月中にまた答えを聞かせてください」
伊津は離婚届けをバッグにしまった
「話は終わりです。遅くに付き合ってもらってごめんなさい」
「……いいよ。それぐらい。家族なんだから」
「……そうですね。では、私達家族の家に帰りましょうか」
♢ ♢ ♢
「あ、おかえりー。遅かったね?」
「ええ。少しだけ話が弾んだんです」
「へえ。なに話してたの?」
「後々分かりますわ」
「……?」
伊津は何事も無かったように振る舞っていた
「太一もおかえり……ってなんか顔色悪くない?」
「えっ?あ、だ、大丈夫だ!ちょっとファミレスのメニューで冒険して不味いものを引き当てたんだよ!」
「ふーん……あ、今琴乃がお風呂入ってるから、出たら次入ってね」
「お、おう」
俺はそのまま、自室に戻った
「……あの様子だと、伊津と何かあったな」