「発表」
「さて、最後は私か」
家に帰ってきて、私以外の3人は料理を作り終えた。コンロが3つあるのだが、そのうちの2つが埋まっており、どちらも鍋に蓋がされていた……のだけど、明らかに異臭がした
換気扇も回してるし、蓋もされてるはずなのに、なお漂う異臭。この異臭を放つ料理を後で食べなければならないのかと思うとゾッとする……
まあ……逃れる術はないんだけどね
皆んなは、各々自分の部屋に戻って待ってもらっている。完成品を順番に披露し、皆んなで採点。優勝者には、私が卯月に「優勝した人がご褒美になるような物」を頼んで用意してもらった。ちなみに私も中身は知らない
「さてと……」
買ってきた食材を並べた。材料はキムチ鍋の素、ミントアイス、ハーブ、そして大根だ
コンセプトは「違和感」。辛いのにスーッとするという訳の分からない違和感を感じさせたい。大根は味が染み込みやすいからチョイス。キムチ鍋の素、ミントアイス、ハーブで味付けした汁の中に、大根を煮詰めようと思っている
調理工程も少ないし、さっさと終わらせよう。まずは鍋の中にキムチ鍋の素を入れる
固形のやつではなく、スープ状のタイプのやつを買ってきておいたので、水で薄めずに原液のまま投入。あとでミントアイス入れるから、どうせ甘くなっちゃうし
少量だから、2分ほどで沸騰した。沸騰した汁に、ミントアイスを半分入れ、すり潰したハーブを入れ、良く混ぜた
そして4等分にした大根を入れ、弱火で10分程置いておく。これであとはハーブの葉を千切って、大根の上に乗せれば完成だ
結構自信作だ。……悪い意味でね
「私も出来たー!全員集合!」
私の声で、全員部屋から出てきた。……琴乃と太一の顔色が若干悪そうに見える
「顔色悪くない?」
「……気が滅入ってるんだよ」
「私も……」
そんな絶望している様子の2人とは裏腹に、楽しそうに笑顔を浮かべる伊津
「私は楽しみですよー!皆んながどんな不味い物を作ってきたのかを!」
好奇心旺盛なのか、はたまた冒険家気質なのか。どちらにしても、2人のテンションとは正反対だった
「あと……私の作った料理でみんなが悶える姿を見るのが楽しみで仕方がないです!」
……あれ?伊津ってサイコパス?
聞かなかったことにして、全員の料理を持ってリビングの机の上に置いた。鍋の底は熱いままなので、机が焦げないようにちゃんと敷物もしてある
「順番に見せていかない?」
「じゃあ俺から見せるわ」
太一はフライパンではなく、お皿を持っていた。そしてお皿の上の蓋を開けた
「……テリーヌ?」
テリーヌとは、フランス料理の一種で、今回はゼリー状のテリーヌを作ってきたみたいだ
「魚肉ソーセージとチョコレート、ニンジンを重ねて、その中に牛乳とゼラチンを混ぜた物を入れて固めたんだ」
「……不味そう」
一つ一つは美味しいはずなのに、一緒に聞かされると全く味の想像がつかない。ただ、化学反応で美味しくなるようにも思えない
真っ白のテリーヌ。見た目だけなら美味しそうだけど……
「じゃあ次は私が……」
琴乃はお鍋の蓋を開けた
「すっげえ緑だな……」
鍋の中には、自然の中にいるのかと言いたいぐらいの緑が広がっていた
「ゴーヤにピーマン、ケールをミキサーで砕いた物に、青汁で煮込んでみました」
琴乃は食べるではなく、飲むタイプだった。苦い物をとにかく詰め込んだみたいだ
「青臭いし、苦そうな匂いが凄いですわね……」
「作ってる時からもう危なかったよ……」
琴乃も相当ヤバイ物を作ってきた……
「次私行くわ!」
鍋の蓋を開け、全員に私の料理を披露した
「キムチですか?」
「え……本当にキムチ?なんか匂いがスースーするんだけど……」
「キムチにミント入ってるからね。で、この中の煮込んだ大根を食べてもらうよ」
「またヤバそうなものを……」
まあ全部ヤバイんですけどね
「では、最後は私の料理ですね」
……出た。1番の問題作
気づかないフリをしてたけど、間違いなく1番の問題作
凄く臭い。絶望的に臭い。ただ、この匂いになぜか覚えがある……初めて会った気がしないのだ
「じゃあ私の料理を披露します!」