「由比羽のクリスマス」
「……マジでやるの?」
「うん!私と琴乃にとっては、これが恒例行事だから!」
クリスマス当日。私達は今、近所のスーパーに来ていた
「私はやめてもいいんだけど……」
「いいじゃないですか!面白そうです!」
私達のクリスマスでする事は決まった。というより、毎年私と琴乃でしていたことに、2人を巻き込んだ形だ
「じゃあ各々食材買って、15分後にまたここに集合ね」
「「「はーい」」」
一斉にスーパーへと入っていく
食材を買ってだから、各々料理を作って1番美味しかった人の優勝!
……なんてルールではない。私達がするのは、その逆だ
1番マズイものを作った人の優勝だ
これが始まったキッカケは、私が小学校4年生の頃、クリスマスの日に一人で作った自作のスープがあまりにも不味く、そこから私と琴乃でどちらの方が不味く作れるか勝負し始めたのがキッカケだ
ただ、ちゃんとルールがあって、4人で4口分。つまり、1人1口分の量しか作らないこと
理由は簡単で、残すともったいないから。食べれないものを大量に作っても仕方がない
ちゃんと小さい包丁、お皿、お椀、鍋、フライパンも用意してある。作るのに困る事は無いと思う
「何作るかなぁ……」
過去7回、不味いものを作ってきたが、今までで1番不味かったのは、納豆を牛乳とイチゴソースで煮たものだ
苦い、甘い、臭い。見事に不協和音。悪い意味でベストマッチな食べ物だった
私と琴乃はあまりの不味さに、洗面台へ直行して、吐いた。そして琴乃はそれを思い出してしまうからか、納豆が嫌いになってしまった
それぐらいインパクトの強い食べ物だったのだ
「納豆は琴乃が可哀想だからなぁ……ベースはやっぱり牛乳かなぁ」
牛乳は普段からよく料理に使われる。牛乳は美味しいものだ。ただ、使い方次第では、すごい不味くできる。色んな意味で万能食材だ
あと悩みどころなのが、ドきついやつを作るか、軽めの物を作るか迷っている
私と琴乃はある程度の耐性はついてきた。ただ太一と伊津は初参加。特に伊津は、家がお金持ちということもあって、美味しい物をたくさん食べて生きてきたに違いない。あまりに不味いものを作るとトラウマになる可能性もある
「……さすがに軽い物にしておこ。まあ伊津が不味い物を食べて悶える姿も見たい気はするけど」
溢れるドS心を抑え、私は牛乳を使わずに、不味い物を作ることを決めた
♢ ♢ ♢
「……こんなものかな?」
店を一周し、良さげな物を持ってきた。ある程度不味くなる方法は思い浮かんでいるので、これを上手く纏めて不味くしていこう
買い物を終え、お会計をするためにレジに向かった
「由比羽ちゃん」
「あ、琴乃も終わったんだ?」
「うん」
琴乃の籠の中を見ると、牛乳と納豆は入っていなかった
「……やっぱりあの2つは買わなかったんだ」
「……いきなりあの2つを使うのは可哀想かなって」
経験者達からの優しさが出てしまった。琴乃も私と同じ考えだったようだ
そしてもう一度籠の中を見てみると、少し大きめのビニール袋を買っていた
「ビニール袋なんか買ってどうするの?」
「4つも食べることになるし、……必要かなって」
なるほど……吐くことを想定した買い物だったということか
洗面台に4人一斉に吐くわけにもいかないからね……
♢ ♢ ♢
お会計を終え、私と琴乃は集合場所である場所に戻ると、既に2人は袋を持った状態で待っていた
「お待たせー。待った?」
「5分ほどですわ」
「あ、意外と選び終わるの早かったんだ」
「ある程度目星をつけていたので」
私は伊津と太一の袋に目を向けた
ぼやっと見えるだけだが、おそらく牛乳が入ってる
太一の方も牛乳が入ってる……
琴乃もそれに気がついたようで、少し顔を引き攣らせていた
ヤバイ……2人初参加だから加減を知らないんだ……
琴乃……袋買ったのはナイス判断だったよ……