「本音を聞いてもいいですか?」
「……なんだこれ」
「……なんでしょうね」
私達の前に運ばれてきたのは、得体の知れない物だった
何が使われてるか一切分からないし、味のイメージもつかない。そしてお皿の上に芸術が描かれている
「……まあ食べるか」
「そうですね」
♢ ♢ ♢
……もったいないという気持ちが先行してしまったせいで、ちょびっとずつしか食べ進められず、味が分からなかった。美味しいのは間違いないんだけど……
「俺らにはまだ早すぎたな……」
「うん……私達はまだ、質より量の方が良いかも」
私達に高級料理店はまだ早すぎたみたいだ
「さて、食べたし帰るか」
「え?もうちょっといいじゃないですか」
「ダメだ。お店にも迷惑かかるからな。クリスマスなんていう一大イベントの日にこの場を貸してもらえただけ感謝だ。さっさと出て、待ってる客の席を開けてやらないとな」
……そう言われてしまっては、ワガママは言えない。ただでさえ一緒に過ごしたいというワガママを聞いてもらったばかりなのだから
でも……
「わかりました。でも最後に一つだけ話したいことがあるので、それが終わってからにしませんか?」
「……話?」
「はい。さっきまで色々と話してましたけど、今からする話が、1番大事な話なんです」
「……分かった」
良かった……この話をする為と言っても過言じゃなかったから、このまま帰られたらどうしようかと思った……
「……先生。本音を聞いてもいいですか?」
「本音?」
「はい。私と付き合うことについてどう思ってるか聞きたくて」
聞くのが怖くて、ここまでこの話を伸ばしてしまった。本音を言っていいと言って、私は別れを告げられるのが怖かったのだ
「うーん……言わなきゃダメか?」
「当たり前です。言わないといつまで経っても帰しませんよ?」
伊津に頼んで、部屋の外に出られないように店員の人に押さえつけてもらうこともやむなしだ
「……乗り気じゃないってわけじゃない。こんなだらしない俺を好いてくれてるんだからな」
私の予想とは裏腹に、先生は意外と肯定的だった
「……意外です。嫌がってるのかと思ってました」
「嫌なわけないだろ。卯月は若いし……可愛いしな」
先生の一言で私の顔が煙を吹くんじゃないかというほど顔が赤く熱くなった
「ふ、不意打ちでそんなこと言うのずるいです!今までそんなこと言ってくれなかったくせに!」
「い、言えるか‼︎先生が生徒に対してか、可愛いなって言えるわけないだろうが‼︎」
……確かに。他の先生が生徒のことを可愛いとかカッコいいとか言ってるところを見たら……なんか勘繰ってしまう
「はぁ……でも、前も言ったけど俺より良い人がいるはずだから、この残りの一年半の間にもっと良い男を見つけて欲しいとは思ってる」
「いませんよ?」
「だから見つけてほしいって思ってるんだ。こんなオッサンより良い人を見つけるのなんか簡単なはずだ
やれやれ……先生は意外と意固地みたいだ
「……先生。私も前に言いましたよ。この世界に先生より良い男なんて……私にはいません」
「私にとっては、先生の一挙手一投足が、好きになる理由でしたよ」
「私は貴方の全てが好きなんですから」
以前伝えた想いを再度、先生に伝えた
「物好きだな。お前は」
「そうかもですね」
「……なら、これから俺はお前の前に、俺より良い男が現れないことを祈ることにするよ」
……私は無意識に先生に抱きついていた
「はあ⁉︎ちょ、な、何してんだ⁉︎」
「……無意識に抱きついてた」
「怖っ!その現象!」
……こんなに嬉しいことはない。先生が自分のことをもらってくれることが確定したのだから
「……私、卒業まで我慢出来そう。今日の思い出……先生の言葉のおかげでね」
「……なら良かった」
「でも……まだ足りないからさ……」
……私は、先生の口にキスをした
「……これで100%我慢出来るよ」
「……お前こそ、不意打ちじゃねーか」
「これでおあいこなの。……卒業したら、何回もしちゃうからね?」
「……勝手にしろ」
「うん。勝手にする」
こうして、私の人生史上、最高のクリスマスは終わった