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「お見通し」



「……アンタには東夜の前に現れる資格なんてない。東夜を殺したのは……由比羽でしょ?」


「……そうだね」



反論するつもりなんてない。私もそう思っているから



「東夜も迷惑してるよ。自分を殺した相手が来るなんてさ」


「……かもね」


「……うざいよ。アンタ」



美登は私の肩辺りを小突き、バランスを崩した私は尻もちをついた。バケツの水が私の周り、美登の足元にまで溢れた



「東夜の家族だってアンタの顔を見たくもないの。逆にこの場にいるのが私で良かったね?東夜のお母さん辺りが来てたら、何されるか分からなかったよ?」



……東夜のお葬式の日に見た。東夜の母の私に対して向けた憎悪の目……私の脳裏から、あの表情はいつまで経っても離れない



「……別に出会っても問題ない」


「アンタになくてもこっちにはあるの。東夜のお母さんは最近やっと立ち直ったの。アンタの顔を見たら、また狂ってしまうかもしれないの」



美登は、声を震わせながら言った



「お願いだから……もう来ないで」



……私が来ることが東夜の家族や美登にとって迷惑なことは分かっていた



私は立ち上がり、濡れたズボンについた砂埃を軽く払った



「……じゃあね東夜。また来るね」



私は美登の方を見ることなく、東夜の墓場から離れた



「……っ!絶対っ……アンタのことっ許さないから‼︎」



美登の心からの叫びが響く



私はその言葉に反応を示さず、墓場を後にした……



♢ ♢ ♢



「……ただいま」


「おかえりなさい」



家に帰った私を迎えてくれたのは、琴乃だった



「2人は?」


「伊津の冬服を見に行ってる。私は由比羽ちゃん1人にしちゃ悪いと思って留守番してたの」


「気使わなくてよかったのに……」


「ダーメ。1()()()()()()()()()()()()()()()()()ね」


「……なんだ。バレてたんだ」


「何年、由比羽ちゃんの親友やってると思ってるの?」



全く……琴乃には敵わない……



「……ごめん。もう……我慢出来そうにないや」


「うん……おいで」



私は琴乃の胸に飛び込んだ



涙が溢れ出した。ただ、声は押し殺した



「なんで……なんで私はあんなことしちゃったの?なんで抑えられなかったの?ずっと我慢出来てたはずだったのに、なんで私は……そのせいで東夜は死んじゃって……私のせいで……」


「……」



琴乃は何も言わない。ただずっと、抱きついた私の頭を撫でてくれていた



「……美登に会ったの」



琴乃は中学の頃、私と同じクラスだった。美登と東夜が付き合っていたことも知っている



「「もう来ないで‼︎」って言われちゃった……そりゃそう言われても仕方ないんだけど……」



私が美登の立場だった場合でも、私はそう言ったと思う



「でも、行くんでしょ?」



琴乃は初めて口を開いた



「……うん。私は償いたいの。私が犯した過ちを……」



琴乃は変わらず、頭を撫でてくれている



「迷惑だとわかってる。傲慢だとも思う。許されるとも思ってない。償いなんて出来るとも思わない。それでもっ……東夜の墓参りをやめちゃったら……私は今に甘えてしまうと思う」



琴乃、伊津、太一との生活は、私にとって『幸せ』と呼称される物だ。もし東夜の墓参りをやめてしまえば、私は罪の意識がなくなり、何事もなかったように平然と生きてしまうだろう



それだけは私自身が許せない。私のせいで1人の人生を奪い、周りの人の人生に陰りをかけた



変わる為にしてるんじゃない。現状を維持する為に私はやっている……独りよがりの理由だとつくづく思う



「……また来年も行く。その次も、さらに次も……私が死ぬまでずっと……」



また来年の命日に、東夜に会いに行くよ。……ごめんなさいを言いにね……



「琴乃……なんで私が泣くって分かったの?」



東夜の命日なことは多分琴乃も知っていたと思う。でも、私が今まで東夜のお墓参りに行っていたことを琴乃に話したことはなかった



「毎年行ってるのは知ってたし、行って帰ってくる度に家で1人泣いてたことは知ってたよ」



隠し通せてたと思っていたけど、バレバレだったようだ



「毎年毎年私が支えてあげなきゃって思ってたの。でも……私が口出ししていいか分からなかった……親友っていっても、所詮は他人だからね。でも……もう私達は家族になった。家族の悩みは解決してあげないと。それが多少()()になってでもね」



どうやら琴乃は、抱きつかせて悩みを吐かせたことを強引だと感じていたようだ



「……ありがとう。その強引さのおかげで、ちょっと楽になった」



私は琴乃からゆっくりと離れた。琴乃の服は私の涙のせいで濡れていた



「ごめん。服濡らしちゃって……」


「……いいの。濡れるのは予想通りだったから」



琴乃は途端に私の手を握ってきた



「意固地な由比羽ちゃんのことだから、今から言う私の言葉は響かないかもしれないけど、ちゃんと聞いて」




「忘れろなんて言わない。でも、気にするのはもういい。東夜くんは……由比羽を許してくれてるよ」




「……この言葉、忘れないでね」



琴乃は私の頬を両手で軽くつねり、そして自分の部屋に戻っていった



……東夜



あなたは私を……許しちゃダメだよ




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