「昔の私」
昔の私は……男の子と絡む方が好きだった
卑猥な意味じゃない。ただ、話す相手が女子より男子の方が合うってだけだ
男のノリが、あの頃の私には心地良かった
男はみんな、私と同性の友達のように絡んでくれた。東夜もその1人で、私と東夜は帰りに2人でゲーセンやカラオケに行く程の仲だった
付き合ってはいなかった。……私は付き合いたかったけどね
東夜には彼女がいた。それが大原 美登だ
彼女がいる男が、女と2人っきりでカラオケとかゲーセンに行くのはどうなんだー!って思われるかもしれないが、美登が公認していた
私が男と仲良くしていること。自分が東夜と付き合う前から、私と東夜が2人っきりで遊んでいたこと。そして、お互いに恋愛感情がないこと(私が東夜に想いを寄せていることに気がついていなかった)。その為、2人で出かけるとなっても、美登は文句を言うこともなかった
……今の関係のままでも十分だった。彼女でなくても、2人で過ごせる時間があるのなら……このままでもよかった
……はずだった
今のままで十分だけど……その先がまだあることが分かってたから……その先に行きたくなってしまった
付き合ってなくて十分。なら付き合ったらばどうなる?今よりさらに私は幸せを感じられるはずだ
だから……一線を越えたくなった
遊んだ後の帰り道で……私は東夜にキスをした
私のファーストキスは太一との結婚式の時じゃない。一線を越える為に、私が東夜にした時だ
私は期待していた。美登と付き合ってるけど、私の方が仲が良かった。知り合ってからの歴も、東夜のことに詳しいのも私が勝っていた
だから……美登を捨てて、私を選んでくれるって……異性として意識してくれてないなら、無理矢理にでも私のことを異性として意識させることが出来れば、私のことを好きになってくれるって思ってた
でも……私は拒絶された
「気持ちは嬉しい。でも俺には美登がいるから」……そう断られた
勝手に美登より私の方が上だと思い込んで、私のことを意識させれば私の物になってくれるって……
そんな勘違いをしてて……恥ずかしくなった
私は罪悪感と羞恥から東夜の前から逃げた
必死に逃げて……泣いて……東夜の前から離れよう……消えようとして、私はがむしゃらに走った
だから……車に気がつかなかった
信号も何もないところで道を横断しようとしていた私に、車が突っ込んできたのだ
……天罰なんだと悟った
私が東夜のことを奪ったりしない。だから私と東夜が2人で過ごすことを許してくれたのに、私は一線を越えたくなって……キスをして……信頼を裏切って……拒絶されて……
もういいやとも思った。東夜に拒絶されちゃったんだから、この世界にいなくてもいいや……そう思った
でも……いなくなったのは私じゃなく東夜だった
私を外に押し出し、私を助けたのだ……自分を犠牲にして
東夜は病院に搬送されて治療を受けたけど……結局一度も目を覚ますことなくこの世を去ってしまった……
泣き喚き、そして後悔した。私があんなことをしなければ……東夜は死ななかったのに……
その日、私は自分を責め続けた……
翌日、私はショックのあまり、学校を休んだのだが、クラスで東夜が死んだことを教師の口から告げられたらしい
私が学校に復帰出来たのは1週間後。ただ、精神が安定したから行けたのではなく、涙が枯れて出なくなったからだ
人前で泣く心配がなくなったから、私は重い足取りで学校に向かった
♢ ♢ ♢
私は時間ギリギリに教室に着くと、クラスメイトの目が私の方に向いた
そして……美登に言われたのだ
「アンタが……アンタが東夜を殺したんだ‼︎」
……教室内どころか、学校全体に響くほどの大きな声で、私は美登に怒鳴られた
「……聞いた。アンタのことを庇ったせいで東夜は死んだって」
聞いた話だと、東夜が轢かれた瞬間を見た人物が学校にいるらしく、その人からの情報が出回ってしまったらしい
「不慮の事故……でなんて片付けさせない!アンタが殺人犯だ‼︎」
美登に言われ、私は枯れたはずの涙が溢れ出した
そうだ……私が殺したも同然なんだ……と
幸い……という言い方をしていいのか分からないけど、私のことを慰めてくれる女友達。殺したのは由比羽じゃないと言ってくれる友達はいた
ただ……男達は違った
私の男友達だった奴らは全員私を慰めてくれた。ただ……本心ではなかった
「傷心している今なら、由比羽を落とせるんじゃないか?」。「落としたら皆んなでまわしてやろうぜ!」
そんな会話を聞いてしまったのだ
東夜を失い、傷心中の私を狙っていたらしい。普段から同性の友達のフリをしていたが、実は全員私のことが好きだったらしく、誰が私を落とせるか。そして落としたら、全員でまわすと約束していたようだ
……言わなくても分かると思う
これが美登が私に怒っていた理由……
これが私が男を嫌うようになった出来事だ