「バレないようにしてって言ったのは奏斗だよね?」
朝ご飯を食べ終わり、学校に着いた。ただ、穂乃美と結婚していることを悟られてはいけないので、加蓮と日伊乃と穂乃美は3人で、俺は1人で来た
元々、加蓮と穂乃美は仲がいいっていうのは、この学校周知の事実。一緒にいる=俺の妻という関連付けはされないと思う
それよりもバレないようにしないと……といっても4人が口を滑らせなかったり、穂乃美と俺が話したりしない限り、バレることはない……はず。少なくとも学校内でバレないと思う
「かーなーとー‼︎」
背後からものすごい音と共に、俺の名を叫ぶ声がする
「ごらぁっ‼︎」
「ぐはぁっ‼︎」
俺の背中に由比羽が思い切りライダーキック顔負けのジャンピングキックをお見舞いした
「痛った……何すんだ‼︎」
起き上がる俺の胸ぐらを掴む由比羽
「どういうことよ‼︎」
由比羽が何故か怒ってる……なんかしたか?
「なんのことだよ!」
「とぼけないで!加蓮から話は聞いてるのよ!」
加蓮から。という言葉で、俺は由比羽から次に発される言葉が何か理解した
ただでさえ、ライダーキックをお見舞いされて人目がこちらに向いている。こんなところで言われてしまっては、もう弁明出来なくなってしまう!
「あんた!穂乃ーー」
「どらっしゃい‼︎」
「ぐへぇ‼︎」
胸ぐらを掴んでいた由比羽が吹っ飛んだ
「ひ、日伊乃?」
由比羽を吹っ飛ばしたのは、日伊乃だった
「ひ、日伊乃‼︎」
「ごめんねー。手荒くなっちゃって」
日伊乃は由比羽の耳元にそっと顔を寄せ……
「……穂乃美と結婚したことは周りには内緒にしておきたいの。だからこの話は後で……ね?」
「……分かった。後で聞かせてよ」
「うん♪じゃあお昼休みに、穂乃美がいつもいる場所でね」
日伊乃のおかげで、何とかバレることはなかった
……前途多難すぎるなぁ
♢ ♢ ♢
「……そういうことだったんだ」
由比羽に一連の説明をし、なんとか納得頂けたみたいだ
「それより、朝そんなことがありましたのね。奏斗。よく腰が折れませんでしたわね」
加蓮が俺の背中を心配してくれた。いい妻だなぁ……
「ちゃんと加減して蹴ったからね」
「蹴ること自体に問題あることを理解してもろて」
そもそもライダーキックは人に向けてやるものじゃない。よく耐えたと自分でも感激している
「……寝たいんだけど」
穂乃美は不満そうな顔をしている。場所を占拠されたから。俺達の話し声がうるさいからというわけではなく、ただ単に今、由比羽が穂乃美を抱きしめているから眠れないのだ
「寝ていいよ?」
「私、うるさくても寝れるし、どこでも寝れるけど、寝転ばないとさすがに寝れないよ」
座りながら、愛でるように穂乃美を膝の上に座らせる由比羽。頭をわしゃわしゃされ、相当不機嫌だ
「……それより、バレないようにしてって言ったのは奏斗だよね?」
「うぐっ……」
「いくらここが全く人が来ない場所だからって、安易すぎない?」
「……おっしゃる通りです」
確かに俺からここに集合と言ったわけじゃないけど、それでも軽率すぎたとは思う
「やっぱり可愛いなぁ‼︎年下なのに年上にツンツンするとことかすごい可愛い!」
「こ、こら!これ以上わしゃわしゃするなぁ‼︎」
いつも冷静な穂乃美だが、由比羽には翻弄されっぱなしだ
「いいなぁ……奏斗のとこじゃなくてウチに嫁に来たら良かったのにー」
「……嫌だ」
「えー?なんでー?」
「……なんでもいいでしょ。そんなこと」
加蓮と日伊乃がいるからという理由なはずだが、なぜか由比羽にその理由を告げない穂乃美。何か教えたら不都合なことでもあるのだろうか?
「にしても奏斗ー。あんた1位と2位と3位を妻に迎えて……他の男達に○されるんじゃない?」
「それが怖いから内緒にしてもらってんだよ……」
いじめられたりなんかは全くないけど、嫉妬の目とかはすごく刺さる
「あ、あともう一つ聞きたいことがあったんだった」
「なんだよ?」
「今年いっぱいで重婚がなくなるじゃん?」
「あぁ……そうだな」
「比呂家はもうずっと重婚のままいく感じ?」
無縁……とは思ってはいなかったけど、そのことについて考えていなかった
加蓮はともかくとして、日伊乃に関しては結婚している理由はない。元々、加蓮のお義父さんがもう1人の妻にと日伊乃を推薦してきただけであって、今でこそ2人で話したりするけど、結婚前まで会話すらしたことがなかった
穂乃美も誤魔化す為だけの結婚……ほとぼりが冷め、離婚となればもう再婚することは出来ないだろう
「私は奏斗から離れるつもりはありませんわ」
加蓮は堂々と宣言した。建前があったから……とはいえ、そう言ってもらえると嬉しくなった
「私も離れないかなぁ。なんだかんだで居心地良いし」
日伊乃も同様に宣言してくれた。正直意外ではあるけれど
「……私は分かんない。まだ1日しか経ってないし」
穂乃美の答えは曖昧だった。でも、思っていたよりかは良い返事だった。疑念さえ晴れれば、もうおさらばだと思っていた分、残る可能性があるというだけまだ嬉しかった
「……そっか。ちゃんと決めてるんだ」
由比羽の顔が若干曇った……が、由比羽はサッと切り替え、穂乃美の頭を撫で始めた
「……髪乱れるからやめてほしいのだけど」
「元々セットしてなかったでしょー?」
「うぅ……」
……穂乃美の扱いに困ったら、由比羽に頼ろう……