「私の家族になってくれたんでしょ?」
朝7時。今日は平日で学校がある。高校の始業時間は8時40分で、家から歩いて10分程度しかかからない
1時間近く時間を持て余してまで何をするのかというと、お弁当作りだ
加蓮の父が支援してくれているとはいえ、食費は抑えたい。食堂で食べるのも、売店で買うのもいいけど、1番安く済むのはお弁当を作ることだ
俺と日伊乃が週替わりに作っている。加蓮は……まあお嬢様だから……(日伊乃もそれなりにお嬢様だけど)
そして昨日から穂乃美も増えて、4人分作らなくてはならない。そのため、かなり余裕を持って起きていた
「……ん?」
目が覚めてベッドから出ようとすると、何やらキッチンから音が聞こえてくる。日伊乃が間違って作ってるのか?それとも加蓮がまた夜更かしして一睡もしないまま朝ご飯をたべようとしているのか?
だが、俺の予想は外れた
「……穂乃美?」
「……おはよう。早いね」
なんとキッチンに立っていたのは、穂乃美だった
いつも寝ているイメージしかなかったから、朝もギリギリまで寝ていて、起こすのに苦戦するんだろうなぁ……って勝手に考えていた
穂乃美は加蓮がいつも付けているエプロンをし、フライパンで何かを焼いている。すごくいい匂いが漂ってくる
「朝ご飯を作ってるのか?」
「ううん。今はお弁当作ってる。皆んなの分作り終わってから、朝ご飯作る」
穂乃美は俺の代わりにやってくれているようだ
「お弁当なら俺が作るから大丈夫なのに」
「……無理に結婚してもらった。そのお礼。このぐらいして当然なの」
ちょっと無愛想だから、そんな恩義を返すとかそういう発想はしない子かと思っていたけど……案外いい子なのか?
もう既に、俺の中で穂乃美のイメージが少し変わった
「作るために起きたなら、もう少し寝てていいよ。朝ご飯出来たら起こしてあげるから」
「……いや、手伝うよ」
「えっ?別に手伝わなくても間に合うよ?」
「いいんだよ。俺が手伝いたいんだよ」
「……変なの」
俺は洗面所で顔を洗い、キッチンに立った
♢ ♢ ♢
しばらく2人に会話はなく、黙々と進めていた。穂乃美は料理の手際がかなりいい。作る料理も既に決まっているからか、迷いもない
「……ジロジロ見てどうしたの?」
観察していることに気づかれてしまったらしい
「いや、すごい料理上手いなって」
「……昨日も言ったけど、私しかいないから自分で料理作るしかなかったの。毎日一人で外食するのも嫌だし」
……昨日そのことに触れないようにしようと言ってたのに、間接的に触れてしまった……俺のバカ
「……変に触れないようにしようって思わなくていいから。タブーって訳じゃないから」
気遣われた……後輩相手に……
「……それに、私の家族になってくれたんでしょ?」
穂乃美の言葉に、食材を切る手が止まり、穂乃美の方を見ると、少し笑みを浮かべていた
「……1人にしないでくれるんでしょ?」
「……約束するよ」
「……ありがと」
突然の不意打ちに少しドキッとしてしまった……
♢ ♢ ♢
「……お゛はよ゛ぉ」
ガラガラ声で部屋から出てきた加蓮。髪もボサボサで、また夜更かしでゲームしていたのだろう
「おはー」
加蓮の後に部屋から日伊乃が出てきた。テンション低い加蓮と違い、寝起きとは思えないほど爽快な様子
「あ、穂乃美と一緒に作ってたんだー。奏斗ったらもうそんなに仲良くなってたんだ」
日伊乃は穂乃美が朝早くから起きてることに驚いている様子はなかった
「……奏斗ぉ。水下さい……」
「はいはい。2人とも席座れよ」
コップに水を入れ、加蓮の前に置いた。そして、作った朝ご飯を4人の席の前に置いた
……今まで俺の前に加蓮。その横に日伊乃。横に誰もいなかったが、今日から穂乃美が俺の横に座って食事を摂る……家族が増えたと改めて実感した
「いただきます」
「いただきまーす!」
「……いだだぎます……」
「……いただきます」
4人で囲む初めての食事。俺はこの新しい生活が楽しみだ
……反面。不安でもあるけどね