「学婚活」
……とうとう来てしまった。この日が……
「1人3分で交代していくからなー。じゃあスタートだ!」
開始の合図が出された。何をするのかというと、女子はずっと席に座り、3分ごとにローテーション方式で男子と一対一で話すというちょっとしたお見合いのようなものだ
月一で行われるこの行事の名前は〈学婚活〉私は休もうと思ってたんだけど……
♢ ♢ ♢
「コラッ‼︎今日学婚活の日でしょ!ちゃんと行きなさい!」
「い、嫌だ!私が男嫌いなの知ってるでしょ⁉︎」
「だからでしょうが!男慣れしてちゃんとお婿さんを作れるようになりなさい!」
「絶対嫌だ!お婿なんて一生作るもんか!」
私は学校へ行かないという意思表示として布団に包まった。捲られないように端っこは押さえてある。我ながら完璧だ
「……あーもうそういうことするんだ。分かった。じゃあこっちも強硬手段でいかせてもらうから」
母親は娘である私にそう宣言して部屋から出ていった。そして30秒もしないうちに戻ってきた
「……よっこいせっ」
「べふっ!」
布団に包まる私の上に何か重たい物体がのしかかった
「お、重いぃ……」
「重くないですぅ。まだ50キロ未満ですぅ」
この言い草だと、私の上にのしかかっているのは母親だ……
「学校行かない子は一生そうやってなさい」
母親はそういうと私の上から退いた
「ふぅ……ん?あ、あれ?動けない……」
母親は布団ごと私を紐で括り付けたようだ
「今日一日、ずっとその状態でいなさい」
「や、やだ!怖いっ!暗くて何も見えないよぉ!」
「体調が悪い訳でもないのに学校を休もうとする悪い子にはお仕置きが必要だからね」
どれだけもがいても動けない。光もない。何も出来ない。こんな状態が今日一日?
「ご、ごめんなさい!私が悪かったです!だから解いて!怖いから早く解いてよぉ!」
「学校行く?」
「い、行きます!行かせて頂きます!」
「……よろしい!」ボスンッ
「ゔぇふ!」
母親は私に再度のしかかり、紐を解いた。……わざわざ私の上に乗る必要はあったのだろうか……
「はい。早く支度しなさい。遅れちゃうわよ?」
「……はい」
♢ ♢ ♢
といった感じで親に無理矢理部屋から出されてしまった……
「あ、姉妹さん……ぼ、僕の名前わ、分かります⁈」
「……知らない。興味ないから」
本当にこのクラスに居た?と疑ってしまうほど見覚えがない
「そ、そうだよね……ぼぼぼぼくみたいなキモいやつのことなんて覚えてないよね……」
「いや……私大体男子のこと覚えてないから。あんたに限った話じゃないから」
「えっ?ぼ、僕がキモいから覚えてないんじゃ……」
「別にキモくないよ。痩せるべきだとは思うけどね」
私がそう告げるとなぜか嬉しそうにしている。……わけがわかんない……
「わ、わかった!ぼ、僕痩せるから!痩せたら付き合ってくれる⁈」
「無理」
「えっなんでっ⁉︎僕に気があるんじゃ……」
「……?なんでそう思ったの?」
「だってキモくないって……」
「キモくない=好きって解釈になる脳は気持ち悪いかもね」
と、ここで3分間の終わりの告げる音が鳴った
「はーい。男子は次の場所に移れー」
「も、もうそんなに経ったのか……ま、また話してくくくくれますか?」
「嫌だ」
男はがっくしと肩を落とし、私の後ろの席である卯月の前に座った
卯月は明らかに嫌そうな顔をしていた。……多分好みじゃないんだと思うけど、それにしても顔に出すぎだと思う。卯月の眉間に凄いシワが寄っている
「また3分間だからなー。いくぞー。よーいスタート」
またもお見合いが始まった。私は人生の中でこれほど3分間が長く感じることはない。本当にさっさと終わってほしい……
「よろしく。姉妹」
今回は髪を金色に染め、ワックスでセットしたナルシスト系男子だった
この学校は校則がかなり緩く、髪染め、セット、着崩しなどは余程のことがない限りは注意されることはない
それこそ髪を虹色にしたり、何かを突き刺すのかと言いたくなるようなモヒカンであったり、制服ではない服装だったりしない限りは先生達の許容範囲内らしい
「姉妹って名前は由比羽だったよな?名前で呼んでいいか?」
「ダメ」
断られると思ってなかったのか、少し驚いた表情を浮かべる男子
「な、なんで?」
「嫌だから。それだけ」
「はぁ?なんだよそれ……」
男子は少しキレかかっていた。理由を聞かれたから答えただけなのに……やっぱり男子ってわからない……
ーーその後、その男子は怒ったのか、私に話しかけてくることなく、3分が経った。交代の合図と共に席を立ち、すぐに卯月の前へと腰かけた
卯月の顔がこれまた微妙そうにしていた。前に聞いたことがあるのだが、卯月はナルシストなるものが嫌いらしく、そのせいで微妙な表情になっているのだろう
「よぉ!姉妹!」
「あぁ……次はあんたなのね。比呂」
次の私の相手は数少ないまともに話せる男子。比呂奏斗だった